はじまり
私の覚悟。
彼の本気……。
拒むことなどできない。
でも……。
臆病になる。
男の人の本気に。
信じていいのか。
のこのこ部屋まで上がりこんでおきながら、
なんだけど。
「高野君、 モテるじゃない? 何で私なのかな……」
ジリジリと私に近づく彼にそう言った。
少しの間……。
「水瀬さんて、 何でも一生懸命でしょ?
やな事押し付けられても、 いつも笑顔だし。
何て言うかなぁ。 健気? 今時あんまり
いないなーって。 そういうの、 惹かれるんだ……」
彼の右手が私の髪にそっと触れる。
ドキドキが止まらない……。
こんな気持ち、久しぶりだ。
「本気って、本気……?」
彼の顔をじっと見つめた。
この歳になって、こんな気持ちになるなん
て。
自分じゃないみたい。
「正直に言ってるつもりだけど。 信じて
もらえないかな?」
不意に頬に触れる手。
大きくて温かい……。
中学生か、私は……。
触れられた所が熱い。
恥ずかしくてたまらなくなる。
初めての恋じゃないのに。何でこんな気持ちになるの?
優しい言葉、温かい手。
この雰囲気にのまれそう。
「怖いのよ。 この歳で本気とか……。
裏切り……。 分からなじゃない?」
本音が口をつく。
いい大人が、何を恐れているの?
裏切り……。
やり直しきくには遅い年齢。
最後にしたい。
「信用ないかな? 結構、 いや、 だいぶ
本気……」
信じていいの?
やだよ。やっぱりやめた。とか……。
「不安にさせる事、 しないよ。 約束するから。 オレもいい大人だし」
私を優しく抱き寄せた。
若くない。
だから本気が怖い。
もし……。
そんな事があったら、私はきっと立ち直れないかも知れない。
不安は拭い切れない。
でも。
この腕を離したくない……。
この人を信じてみようか。
彼の腕の中、私はそう思った。