絡まる思い
"裏切り"
そんな言葉が頭に浮かんだ。
夕馬の部屋。一人ソファに座り、先ほどの
光景を思い出す。
二人が仲良く店に入る光景……。
「理由。 あるんだよね」
一人呟いた。
思いの他、ショックを受けている。
二人が居酒屋へ入った事、そして夕馬の嘘。
正直に言えばいいのに……。
言えない何かがあるのか。
私に言えない何かが。
頭がパンクしそう。 胸が痛い。
こんな事で、何を動揺してるのか。
バカバカしい……。
考えるの、やめよう。大した事ではない。
大人なんだし、小さな嫉妬なんて。
私らしくない。
でも。
考えてしまう。どうしても、気になる。
わざわざ嘘をつく理由は何?
本当、振り回される。いちいち私の心が揺れる。
暗い部屋の中、私の気持ちが波打つ様に、
行ったり来たり……。
ぼんやり窓の外を眺めた。
「ただいま」
ほろ酔い気分の夕馬が帰宅した。
「風生? いるの?」
玄関の灯りがつき、夕馬が部屋の中へと
入って来る。
リビングの電気を付け、ソファに座る私に
気付いた。
「何だ、 いるじゃん。 電気付いてないから
いないと思ったよ」
私の隣に座った。
私は何を言おうか、言葉をさがすが、出てこない。
無言の私。夕馬は不思議そうな顔をした。
「具合悪い? 何かあった?」
優しく声をかけてくる。
普通におかえり。とか、言えばいいのに。
言葉が出てこない……。
口を開けばきっと、夕馬を問い詰めてしまい
そうで、自分が嫌になる。
「もしかして、 今日のこと……?」
何かを察したのか、夕馬から切り出した。
「……」
私は言葉をさがす。
「見た、とか……?」
耐え切れなくなった。
「飲み会、 二人だけだったんだね。 言ってくれたら良かったのに……」
ようやく私は口を開いた。
責めるつもりはない。理由が聞きたい。
嘘をつく理由は、何?
「あ、 いや。 ごめん……。 他の奴らが急にいなくなって。 で、 どうせだからって」
「急に皆いなくなるんだ」
嫌味にしか聞こえない口調。
これ以上は、話したくない……。
もつれて絡まる糸みたいに、ほどけない、私の気持ち。
「もう寝る……」
私は立ち上がった。
言い訳じゃなくて、理由が聞きたい。
でも、夕馬が口にしたのは言い訳。
「風生! ちょっと待って」
急に腕を掴まれ、反動で夕馬の上に倒れた。
私を抱え、お酒の匂いのする顔を首筋に寄せた。
「悪かったよ。 本当に……。 嘘ついたの、 反省してる。 だから話し聞いて欲しい」
「何の話よ」
掴まれた私は、身動きが取れない。
夕馬の膝の上、私は尋ねた。
「彼女、 平野さん。 以前イタリアに留学してたって聞いて。 で、 ちょっと話をききたくて……」
意味が分からない。 何の話を聞くの?
イタリア って、何で……。
「イタリア留学の彼女に、 何の用があるのよ」
夕馬の手を離そうとしたが、逆に手の自由も奪われた。
「イタリアには、 バリスタ専門の学校と
か、本格的にコーヒーの勉強できる所があって。 で、 そういうの知ってるらしいから、 話を聞きたくなって……。 普通に言えば良かったと思ってる。 でもお前彼女嫌いだろ?
だから……」
話を聞いて、ため息をついた。
夕馬は私に言えない事を、彼女に話した。
自分の夢を、彼女に……。
胸がざわつく。
どう言っていいかが分からない。
夕馬はやっぱり、夢を捨てられないんだ。
「ただ話を聞いただけで、 何の感情もないから。 分かって欲しい……」
私を抱きしめる夕馬。
手から伝わる温もりは、偽りのない温もり。
胸のざわつきは、まだ消えないし、納得も
できない。
私に話して欲しかった。
夕馬の夢。 私に話して欲しかった。
私がコーヒーの話を嫌がるから?
だから、言わないの?
「分かったから。 離して……」
夕馬の膝の上から立ち上がった。
こんな事で、気まずくなりたくないのに。
どうすればいいか分からない。
「風生……」
夕馬を無視して、私はさっさと着替え、さっさとベッドへもぐった。
くだらない話で、こんな気持ちになりたくない。
たかがこんな事で……。
普通にしたいのに。
何でよ。私……。
暫くして、夕馬もベッドへ入って来た。
シーンとなる。
息苦しい。沈黙に耐えられない。
でも……。 何を言えばいいのよ。
眠れない夜、 寄り添うことはなかった。




