闇色ナイトメア
ちょと超展開かも・・・しれません。
・・・何だろうか、変な気分だ。
ガラシャが目覚めると、いつもの寝室はかなり暗かった。まだ夜中だから、だろうか。いや、いつもはこんなに真っ暗じゃない。
それに何となく息苦しく、部屋中に湿ったような匂いが立ち込めている。明らかに、いつもとは違う。
異変の原因を確かめるべく、布団から体を起こし、枕元に置いてあるランプを灯した。自分の周囲がランプの灯りに照らし出される。その光景を目の当たりにして、彼女は思わずうめき声を漏らした。
「うっ・・・!!?」
昨日寝る前は、いつも通りだった。小さな畳間に布団を敷いて、その傍らに仕事着の巫女服を置き、布団に潜りこんで目を閉じる。
しかし目覚めた今、寝室の光景は昨日までとは一変していた。畳が敷かれていたはずの床には代わりに煉瓦が敷かれ、木目の入った壁と天井は、これまた無機質な煉瓦の壁に変わっていた。
しかも、床、壁、天井を問わず、そこら中に何か黒いものがこびりついている。恐る恐る手を伸ばしてそれに触れると、少しぬるっとした液体が指にまとわりついた。
危うく悲鳴を上げそうになった。その正体に気づいたこと、それに触れてしまったことを、彼女は少なからず後悔した。血液だ、何のものかは知りたくもない。
体中の力が抜けていくのを感じた。何者でもない、恐怖によって、である。
「れ・・・霊夢、どこ・・・ですか?」
震える声で霊夢の名を呼ぶ。しかしそれに答える者はなく、ガラシャの声は闇の中に吸い込まれていく。このことが、一気に彼女の絶望感と孤独感を増大させた。しかしそれを振り払って、立ち上がった。
あまり思うようには動けないが、一応立って進むことはできる。どこか外への出口はないかと、壁にそって彼女は歩き始めた。
しかし、行けども行けども出口らしきものは見あたらない。疲れ、壁にもたれて座り込んだ時、さっきまで寝ていた布団が目に入った。
彼女はそこで、恐ろしいことに気がついてしまった。おそらく、知らない方がよかったのかもしれない。この部屋は、煉瓦の壁で四角く囲まれているのだ。真っ暗な中を、ランプの灯りのみを頼りにして壁づたいに進んだので、同じ場所をぐるぐると回っていることに気がつかなかったというわけだ。
と、いうことはこの部屋に出口など、ない。完全な密室だ。
再び襲ってきた絶望感と孤独感に、遂にガラシャの心は折れた。
「ううっ・・・えぐっ・・・れ、霊夢・・・」
涙が目の端からあふれ出る。今顔を上げたところに彼女の姿があれば、どれだけ心強いことだろうか。しかし、そんな都合のいいことは起こりえないと、同時に分かっていた。
両手で顔を覆って、彼女はすすり泣いた。ぬるぬるしたものが顔にもついてしまったが、今はそんなことを気にしてはいられなかった。
「霊夢・・・魔理沙・・・アリス・・・お願いです、誰でも、いいから・・・」
ここへ来て仲良くなった友人達の名前を呼ぶ。彼女達の、せめて一人でも、自分の前にいてくれれば・・・
とその時、おかしな音がガラシャの耳に入った。ざわざわと、何かがうごめくような音だ。両手を顔から離して、周囲を見渡す。
床、壁、天井・・・部屋中にこびりついた黒いものが、まるで生き物のように動き始めていた。小さな虫が這い回るように、うじゃうじゃと動いている。身の毛のよだつ光景だ。
やがてそれらが一カ所に向かって、集まり始めた。そこはよりにもよって、ガラシャの目の前だったが動くこともできず、彼女はその様子をじっと凝視していた。
しばらく見ていると、黒いものが集まって水溜まりのようなものが出来上がった。するとそこから突如、にゅっと腕が一本伸びてきた。
息をのんで思わず後ろに下がると、更にもう一本の腕が出てきて、やがて黒い水溜まりの中から腕の主が姿を現した。
「ふう・・・やっと出てこられた」
その姿は、少年だった。白いローブのようなものを羽織っていて、髪も白いので全身が真っ白である。真っ暗なこの場所ではその色がよく映える。
「あ・・・あなた、は?」
力の抜けた声でそう尋ねると、相手は無表情のままで答えた。
「・・・この前スペルカードを届けたけど」
「あ、あの時の・・・」
あれは夢か何かかとばかり思っていた。
「そう、あの時の。思い出した?」
相変わらず無表情で応じているが、その瞳の奥で何かが渦巻いている。
「・・・とにかく、あなたは何者ですか?」
不気味さを感じながらも、少年にもう一度尋ねる。
「僕はホワイト、そう呼んでくれ」
「分かりました。では、ここはどこで、なぜ私はこんな場所にいるのか教えて頂けますか?」
そう聞くと、彼はやはり無表情のままその質問に答えた。
「ここは君の夢の中。僕は今、ちょっと事情があって、現実の世界に出てこられない。だから、君の夢にお邪魔したというわけ」
「・・・そうでしたか。では、なぜ私の夢の中などへ来たのです?」
「君に・・・僕を思い出してもらう為だよ」
ホワイトは表情こそ変えなかったが、彼の瞳が渦巻いた。
「あなたの・・・こと?」
「ああ、君の記憶に関することもある。得こそ無くても、損はしないと思うよ」
「・・・・・・」
彼の言うとおりではあるのだが、何か怪しく感じられてならない。思えばこの空間やこの少年を取ってみても、おかしなことばかりである。
ガラシャが黙ってしまうと、
「・・・返事がないなら・・・承諾ということかな!?」
いつの間にか、頭を片手で掴まれていた。
「なっ・・・何を・・・?」
「頭に衝撃を与えれば、何か思い出すかもよ?」
そう言うと、ホワイトはガラシャを煉瓦の壁に思い切り叩きつけた。
頭の中で火花が散る。
「あうっ・・・!!」
そこで、視界が真っ白に覆われた。