少女達の日常 その3
三部構成の最後です、それではどうぞ。
「待ってくださーい!」
「遅いぞガラシャ」
「待ったわよ」
二人に追いつく。一応、待ってはくれたようだった。
「さて、じゃあ神社までひとっ飛びするか」
魔理沙に腕を掴まれた。
「え!?ま・・・まさか、また」
「出発だぜ!!」
「や、やめてえ!!」
帚がまるでロケットのように、一瞬で空高く舞い上がり、そしてそのまま、見えなくなってしまった。
「・・・私たちは、少しゆっくり行きましょうか」
アリスの言葉に、上海人形が頷いた。
空を見上げると、赤から紺へと色が変わり始めている。しかし、ガラシャはまだ戻ってこない。
「ああ・・・何か危ない目に遭ってないかしら。魔理沙の奴・・・今度顔を見せたらただじゃ済まさないんだから」
そわそわしながら、霊夢は神社の中で彼女の帰りを待っていた。と、その時表の方で、何か大きな音がした。
「・・・魔理沙ね。とっつかまえてやるわ」
外へ飛び出すと案の定、魔理沙が石畳の上にうつぶせで倒れていて、その隣で、ガラシャが仰向けで目を回していた。
「ま、魔理沙・・・着地の時ぐらいは、減速して、くださいよ・・・」
「はは・・・悪い、な・・・」
「魔理沙!どういうことか説明しなさい!!」
霊夢は倒れていた魔理沙の襟首を掴んで、目の高さまで持ち上げた。
「れ、霊夢・・・あのな、これは予測不能だったというか・・・何というか」
「分かるように言え!!」
締め上げると、魔理沙の首がかくんと後ろに倒れた。
「霊夢・・・魔理沙に悪気は無かったんです。放してあげて・・・」
力のない声で、ガラシャが言う。仕方なく、魔理沙を降ろした。
「お邪魔しに来たわよー・・・って、あら?」
そこへアリスが上海人形と共にやって来た。そして現在の惨状を見ると、自分の額に手を当てた。
「・・・まあ、こうなるわよね」
そんなアリスに向かって、霊夢が言い放った。
「ちょっとアリス、この二人を中まで運ぶの、手伝ってちょうだい」
「仕方ないわね・・・その代わり、夕飯ごちそうになるわよ?」
その提案に、霊夢はあきれた風に応じた。
「もともとそれが目当てで来たんでしょうが」
「ばれたか」
その数分後、霊夢が夕飯のカレーを作り終えると、別の部屋で寝ていたガラシャと魔理沙は同時に飛び起きた。そして、
「配膳しなきゃ!」
「食い逃すものか!」
と同時に叫んで、食卓へと駆け込んできた。
「・・・タフね、あなた達二人は」
先に食卓についていたアリスが、あきれたように言った。確かに、マッハに近いスピードで石畳に激突したのに、これだけ動けるのはもはや異常である。
アリスの言葉に、二人は同時に答えた。
「「いやあ、体が勝手に」」
「どれだけ気が合うのよ、あなた達は・・・」
アリスが額に手を当てると、そこへ霊夢が深鍋を持ってきた。その後ろから、上海人形が食器を持ってくる。
「あ、ガラシャ・・・良かった、もう大丈夫なのね」
ガラシャの様子を見て、ほっとした様子で霊夢が言う。
「ええ、おかげさまで」
「私ももう大丈夫だぜ」
「あんたには聞いてないわ」
魔理沙を睨んでから、鍋を卓袱台の上に置いた。
「あ、配膳は私が・・・わわっ、何です?」
ガラシャが配膳しようとすると、腕に上海人形がしがみついてきた。
「怪我人なんだから、配膳は自分に任せろ。と言っているわ」
アリスが代弁して伝えた。
「そうですか、じゃあお願いします」
ガラシャが笑顔でそう言うと、上海人形はまず食器を並べ始めた。そしてご飯を盛ると、カレーをお玉ですくって、全員の皿によそった。
それにしてもこの人形、小さな体に似合わず力持ちである。皿やお玉など自分の体と同じかそれ以上の大きさなのに、てきぱきと配膳を終えてしまった。
「・・・すごいですね、上海って」
目を丸くしてガラシャが言うと、上海人形は恥ずかしそうに、アリスの後ろに隠れた。
「ふふっ、照れているわよ」
「なあ、早く食べようぜ」
魔理沙が待ちくたびれたように言った。
「それもそうね、じゃあ・・・」
「「「「いただきます」」」」
こうして、四人(+上海)の夕食が始まった。
「・・・ということがあった、ってわけさ」
カレーを食べながら、今までのことを魔理沙が説明している。
「あんたねえ・・・ガラシャも災難だったわね」
「いえ、むしろいい経験になりましたよ。神社の外は、あまり出たことが無かったし」
ガラシャがそう言うと、魔理沙はもっともだ、という風に頷いた。
「そうだぜ、ガラシャはもっと外の世界を知らないと・・・」
「でも、無理矢理連れ回すのもどうかと思うけど?」
そこへアリスが横槍を入れてきた。膝の上で、上海も同意して頷いている。
「今回はちょっと強硬手段をだな・・・それに、外へ出て色々と見聞きすれば、何か記憶の手がかりが見つかるかもしれないだろ?」
「それも・・・そうですね」
ガラシャは同意したが、
「ちょっと待って。ガラシャはスペルカードが使えると言っても、か弱い女の子よ?下手に連れ出して、妖怪なんかに襲われたりしたら大変じゃない」
霊夢の方は納得がいかなかったようだ。しかし魔理沙もこれだけでは退かない。
「その時は、私が絶対に守ってやる。何たって、ガラシャは私の妹だからなっ!」
そう言って、ガラシャの腕に抱きついた。
「ちょっ・・・何であんたが姉になってるのよ!?」
「だってガラシャも、私が姉だったら嬉しいって言ってくれたぜ。そうだろ?」
「確かに、そう言っていたわね」
アリスが代わりに答えた。それを聞いて、霊夢は頭を抱え込んだ。
「いつの間に・・・ああ、何だか悔しいわ」
「はは、そう妬くなって」
「う、うるさいわねっ!!」
霊夢がそう叫ぶと、皆が笑った。彼女は赤くなって黙り込んでしまったが、しばらくすると自分も笑い始めた。
博麗神社が、明るい笑いで包まれていた。
「はあ、顔から火が出る思いだったわ・・・」
「でも霊夢の顔、とても可愛かったですよ」
魔理沙とアリスが帰った後、二人は卓袱台の上で向かい合っていた。
「もう言わないで・・・夜も遅いし、今日は寝るわよ」
そう言うと、霊夢は立ち上がった。ガラシャもそれに倣う。
「そうですね。霊夢、おやすみなさい」
「おやすみガラシャ」
互いにそう言うと、二人はそれぞれの寝室に向かった。
布団に入り、目を閉じる。すると、今日一日のことが鮮明に思い出された。
魔理沙とキノコ狩りをしたり、四人で一緒に夕食を食べたり・・・
「今日は・・・楽しかったな」
霊夢、魔理沙、そしてアリス。みんなと過ごす日々が、いつまでも続くといいのに・・・ガラシャはそう思いながら、眠りに落ちていった。
次回、新キャラが出ます。果たして敵か、味方か・・・