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魔法の森と、人形と その2

前回の話の続きです。ではどうぞ。

  中へ入ると、客間のような部屋に通された。真ん中に大きめのテーブルがあり、向かい合って長椅子が二つ並んでいる。

「さ、お掛けになって」

 そう促され長椅子に腰掛けると、ショートカットの少女はその向かい側に座った。

 そこへ一体の人形がトレイに、紅茶の入ったティーカップを二つ乗せて持ってきた。先ほどの人形と似ているが、服が少し違う。

「ありがとう、下がっていいわよ。あと、あの子を呼んできてもらえる?」

 ティーカップを受け取り、自分とガラシャの前に置くと、彼女はそう言った。言いつけ通りに、人形はトレイを下げて戻っていく。

「あの、これは一体・・・?」

「ああ、悪いわね、色々と言いそびれてしまって。簡潔にいうと、あなたにお礼を言いたいと思っているの」

 するとそこへ、森で出会った人形がやってきた。服を着替えたのか、清潔なものになっていた。それに、体中についていた汚れも綺麗に落ちている。

 ショートカットの少女はその人形を抱えると、自分の膝の上に載せて話を続けた。

「この子、かなり前から行方不明でね、私も一生懸命探したのだけれど、どうしても見つからなくて、もう諦めかけてたのよ」

「はあ・・・そんなことが」

「そんな中今日ひょっこり帰ってきて、誰かに助けられたと言うから、その人には一言お礼を言っておかないと、と思って。・・・この子を助けてくれて、ありがとう」

 ショートカットの少女が頭を下げると、人形も一緒に頭を下げた。

「いや・・・そんなお礼を言われることなど、何も・・・」

「そういえば、この子から聞いたわ。道に迷っていたんですって?どこへ行こうとしてたのかしら」

 この人形はあの時、土の中で聞いていたのだろうか。

「ええ、届け物を頼まれたのですが・・・アリス・マーガトロイドという人物をご存じでしょうか?」

「あ、それ私よ」

 何という偶然か。道に迷った上に不思議な人形についていったら、目的地まで到着してしまっていた。

「ご、ご本人でしたか。博麗霊夢さんからのお届け物です」

「ああ、魔理沙経由で頼んだやつだわ。ありがとう」

 包みを渡す。これで、晴れてお使い完了というわけだ。

「まあこうして出会ったのも何かの縁かも知れないし、もう少しゆっくりしていくといいわ・・・ところで、見かけない顔ね。あなた名前は?」

 紅茶に口をつけながら、アリスが尋ねてきた。ガラシャも少し飲んでから、答える。

(わたくし)はガラシャ、と申します。記憶喪失の奇術師で、今は博麗神社でお世話になっている身です」

「記憶がない・・・私にはとても分からないけど、それは大変そうね」

「いえ、結構どうにでもなるものですよ。ところで、この家にいるお人形達は一体・・・?」

 今となってはそれほど驚かないが、さっきからそこらを人形達が掃除したり駆け回ったりしている。

「ああ、そういえば説明していなかったわね。この子たちは私の魔力を込めた人形で、思うとおりに動かせるの」

「へえ~、すごいですね。でも、めいめい違うことをやっているのはどうしてです?」

「完全な操り人形のようなものではないのよ。私の言うことは聞くけれど、それ以外の時は各自で思い思いに動いているわ」

「そうなのですか、何だか微笑ましいですね」

 小さな体に見合った、小さな帚やモップで床の掃除をしている人形もいれば、窓に登って窓ふきをしているものもいる。中には、掃除をせず走り回って鬼ごっこをしたり、物陰に隠れている人形もいた。

まるで、おとぎ話の一ページだ。

「ええ、自分の妹とか娘ができたみたいで可愛いものよ」

「妹・・・ですか」

 ふと、記憶を失くす前の自分にはどんな家族がいたのかと考えてしまった。兄弟姉妹はいたのだろうか。いたとすれば、仲は良かったのだろうか・・・

「あら、どうかした?私、何か気に障ることを言ったかしら・・・」

 はっと気づくと、アリスが心配そうにこちらを見ていた。

「い、いえ何でもありません。そうだ、お茶のお礼に(わたくし)の奇術を披露しようと思うのですが、いかがです?」

「面白そうね、ぜひお願いするわ」

 始めようとすると、いつの間にか周りに他の人形達も集まってきていた。

 まずは懐からトランプを取り出して、皆に見せる。

「いたって普通のトランプです。ここから、スペードの札10、J、Q、K、Aを抜き出します。いわゆる、ロイヤルストレートフラッシュの組み合わせです」

 抜き出した札を一通り並べると、ガラシャはまたそれを山札に戻した。そして山札をアリスに渡す。

「アリス、この札をよく切って、終わったらテーブルの上に置いてください」

「分かったわ」

 彼女は何度か山札をシャッフルすると、言われた通りテーブルの上にそれを置いた。

「さて、さっきの五枚は確実に山札の中で散り散りのはずです。それに、(わたくし)は山札に手を触れてはいません。しかし・・・アリス、上から五枚めくって並べてみてください」

 アリスがカードをめくっていく。一枚目は、スペードのA。二枚目は、スペードのK。三枚目は、スペードのQ。

「これって、まさか・・・」

「続けてください」

 四枚目は、スペードのJ。最後の五枚目は、スペードの10だった。見事にロイヤルストレートフラッシュが、完成していた。

「すごいわ、一体どういう仕掛けなのかしら」

 驚いた顔でアリスが言うと、周りの人形達がガラシャに拍手を送ってきた。

「それは秘密ですが、楽しんで頂けて光栄です。おっと、そろそろ帰らないと・・・お邪魔しました、紅茶までごちそうになってしまって」

「いいのよ、面白いものを見せてもらったし。あと、帰りに見送りをつけるわ」

「何から何まですみません」

「そう恐縮しなくてもいいわ。良かったら、また遊びにいらっしゃい」

 外へ出ると、後から人形が出てきて、前に立って歩き出した。その後について、ガラシャも歩き出す。再び森の中へ入ったが、最初の時とは違ってすぐに出口へたどり着いた。

 そこで人形は歩みを止めて振り向いた。見送りはここまで、ということらしい。

「ここまで道案内、ありがとうございます。さよなら、お人形さん」

 手を振ると、人形も振りかえしてきた。それからお互いの姿が見えなくなるまで、互いにずっと手を振っていた。

 空はいつの間にか、真っ赤に染まっている。・・・道に迷うのも悪いことばかりじゃない、ガラシャにとって、そう思えた一日だった。



「ただいま帰りました」

「おかえりガラシャ、大丈夫?障気にやられなかった?妖怪に襲われなかった?何か危ない目に遭わなかった?本当に大丈夫?」

「そ、そこまで心配してくださらなくても、(わたくし)なら大丈夫です。見ての通り、ぴんぴんしてますよ」

「そうなの?・・・ああ、良かった」

「(霊夢には、心配をかけさせてしまったようです・・・)」


人形が動いたら・・・かわいいでしょうね。種類によりますが。

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