魔法の森と、人形と
タイトル通り、あの人が出ます。
「ここはどこ・・・?」
薄暗い森の中、ガラシャはふらふらと歩いていた。誰がどう見ても分かる、迷子の状態である。
「どうしてこうなったのでしたっけ・・・」
今までのことを回想してみる。
ちょっと前の話。
「ガラシャ、ちょっとお使いを頼まれてもらえるかしら?」
境内の掃除が終わり、休んでいると、そこへ霊夢がやってきた。手に何か包みを持っている。
「はい、なんなりと」
「この荷物をある人のところまで届けて欲しいの。あなた、ここへ来てから神社に缶詰だったでしょ?こんな形で悪いけど、外に出てみたらどうかな、って」
確かに、思い返すと今までこの神社から一歩も外に出ていない。外のことを知るいい機会にもなりそうだし、ありがたい申し出だ。
「お心遣い、感謝します。それで、どこへ届ければよろしいのですか?」
尋ねると、四つ折りにされた紙と何かお守りのようなものを渡された。
「これは届け先までの地図、そしてこれは障気を避けるお守りよ。絶対に失くさないよう、気をつけて」
「障気・・・って何ですか?」
「生身の人間が浴びると害のある邪悪な気よ。届け先へ行くには、この障気が吹き出している森を抜けなければいけないの。くれぐれも、お守りだけは失くしたら駄目よ」
そう聞くと、ちょっと怖くなってくる。しかし、一度引き受けた以上、今更放棄することはできなかった。
「は、はい!では、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね(・・・頑張れ、ガラシャ)」
彼女の後ろ姿を見送りながら、霊夢は心の中で密かに激励した。
神社を出てしばらく歩くと、言われた通りの森へたどり着いた。
「ここを抜ければ届け先・・・よし、行きますか」
覚悟を決めて森の中へ入る。木がたくさん生い茂っていて、まだ昼間のはずなのに辺りは薄暗い。
それに、障気とやらの影響なのか不気味に静かである。
「うわあ、気味が悪いですね・・・早く出たい・・・」
と、その時何かにつまづいた。石だったような、木の根だったような気もするが、今となってはよく覚えていない。とにかく、何かにつまづいて転んでしまった。
「うわーっ!!」
しかも運の悪いことに、転んだ先には急斜面が。そのまま斜面を流されてしまい、気がつくと、もとの道から完全に外れてしまっていた。
「痛たた・・・ここはどこ?」
地図を広げるが、自分がいるであろう場所は載っていない。そして冒頭へ。
「はあ、どうしましょう・・・・」
ガラシャは途方に暮れた。幸い荷物は無事で、お守りも失くさなかったが、これでは届け先へ行くことができない上、帰ることもできない。
あてもなくうろうろ歩いていたが、疲れてきた。これでは体力の無駄遣いだ。
どこか休めるような場所はないかと辺りを見回すと、ちょうど座るのに良さそうな岩が目に入った。
「お、ちょうどいいところに・・・よいしょ」
岩に腰掛けると、ひんやりした感触が伝わってきた。そのおかげで、頭が冷えて気分も少し落ち着いた。
これからどうしようかと考え始めた矢先、ふと近くに、土砂が積もって小さな山ができているのに気づいた。しかもその下から、綺麗な色をした布地がのぞいている。
「・・・何でしょうか、これ?」
その端をつまんで引っ張ってみたが、土砂の重みで引っ張り出せない。
しかし、この森で見つけた唯一の人工物である。何かの手がかりになるかもしれない。そう思うと諦めきれず、どうやって引っ張り出すか考えることにした。
「うーん・・・やはり地道に崩すしかありませんね」
ガラシャはその小山を崩しにかかった。もちろん素手で、である。しかし、土砂が水を吸い込んで固まっているのか、なかなかに固い。
「うわ~、爪がはがれそうですね・・・でも、頑張ろう」
時々小山を蹴飛ばしたりしながら、ゆっくりだが着実に崩していく。途中、手が痛くなって何度か泣きそうになったが、そこは我慢した。
始めてからどれぐらい経った頃だろうか、その時には、土砂の小山はもはや山という形をとどめてはおらず、小さな塚のようになっていた。
「ふう~、やっと終わった・・・」
爪ははがれなかったが、手のひらや指には無数の擦り傷ができていた。
「さて、さっきの布は・・・あ、あった」
もう一度布地をつまんで引っ張ると、ずるずると何かが出てきた。
ぱっと見ただけでは分からなかったが、土を払ってよく見てみると、それは可愛らしい西洋風の人形だった。
あの布地は、この人形の着ている服だったのだ。
「あら可愛い。こんな所に埋まっていたなんてお気の毒に・・・」
汚れを払っていると、その時人形がガラシャの手を離れた。
「あっ」
両手で受け止めようとしたがその必要はなく、人形は二本の足でうまく地面に降りた。そしてあろうことか、そのまま歩き出した。
「・・・・・・!?」
驚きで言葉が出ない。呆然としていると、人形が振り返って手招きをしてきた。どうやら、ついてこいと言っているらしい。
どうしようか、ひとりでに動く人形についていくのも怖いが、ここにこのまま残るのもあまり得策ではない。考えているうちに、人形はまた歩き始めていた。
「あっ、お人形さん!ちょっと待ってくださいよー!!」
もう考えている暇はない。ガラシャは人形のあとを追って走り出した。
しばらく人形の後について歩いていくと、森が少しずつ拓けてきた。どうやら、ついてきて正解だったようだ。
それにしても、とガラシャは考えていた。あの人形はどうやって動いているのだろうか、持ち上げた時にはとても軽かったし、何か動く仕掛けがあるようには思えない。不可解なことばかりである。
そう思いながらも、ひたすら人形の背中を追い続ける。すると、目の前に洋館じみた家が現れた。人形は入口らしきドアを開け、その中へ入っていく。
ガラシャは少し困った。あの人形に案内されてここまで来たとはいえ、他人の家である。自分も入ろうか、入るまいか決めかねて、おろおろしていると入口が向こうから開いた。
「・・・この人かしら?あなたを助けたと言うのは」
出てきたのはショートカットの金髪に赤いカチューシャをした、西洋人形のような少女だった。その足下にさっきの人形がいて、こくんとうなずく。
「お入りなさい、大変だったそうじゃないの。それに、あなたと話したいこともあるわ」
「は、はい・・・お邪魔致します」
自分も幻想郷に・・・行きたくない。