忘れ物の、行き着く先は
今回で、いよいよ最終回を迎えます。では、どうぞ。
空間の割れ目を飛び出すと、そこは見慣れた博麗神社の境内だった。
「ガラシャ!!大丈夫!?」
ガラシャの所に霊夢が駆け寄ってくる。その後から紫もやって来た。
「ええ、私は大丈夫です。それより・・・二人をお願いします」
「頼むぜ」
「魔理沙はいいとして・・・アリスは重態ね。早く運ばないと」
霊夢はアリスだけを背負って、神社の方へ足を向けた。
「おい霊夢!怪我人を見捨てるなーっ!!」
その後を魔理沙が追いかけ、走っていく。この様子だと本当にもう大丈夫そうである。
あとにはガラシャと紫の二人だけが残された。
「霊夢も、もう大丈夫そうですね」
安心した様子でガラシャが言う。
「ええ、ずっと安静にしていたから・・・寝かしつけるまで一苦労だったけど」
「そうでしたか、何から何まで・・・ううっ」
突如、ガラシャはよろめき、地面に倒れてしまった。
「・・・!? どうしたの?大丈夫かしら!?」
「スペルの・・・副作用が来た、ようです・・・」
紫が助け起こすと、ガラシャはふっと少し微笑んだ。
「すみませんが・・・ちょっと、休ませて・・・下さい・・・」
「そうね、さすがに疲れたでしょう。・・・ゆっくりと休息なさい」
察した様子で紫はそう言った。
「すみません・・・では、おやすみなさい・・・」
目を閉じる。
目覚めると、ガラシャは何も無い、真っ白な空間にいた。
「・・・ここは?」
体を起こす。周囲を見回すと、どこもかしこも白、白、白・・・ずっと続いている。
「ようこそ、ガラシャ」
不意に背後から聞き覚えのある声がした。
「ホワイト!?」
振り向くと、やはり白いローブを羽織った少年の姿がそこにあった。
「さっきは悪いね、何も言わずにいなくなったりして」
「そうですよ、全く・・・あの後二人を運ぶの、大変だったんですからね?」
腰に手を当てて、説教するようにガラシャが言う。
「ああ、本当にすまない。それぐらいは手伝えば良かったかな・・・」
怒られて、ホワイトは小さく縮こまってしまった。
「まあ、それはいいとして・・・ここはどこです?また私の夢の中ですか?」
先ほど卒倒して、そのまま眠ってしまった記憶がある。
「ご明察だね、その通り。どうだい?監獄よりはマシになったかな」
「そうですね・・・ちょっと何もなさ過ぎるけど、とてもいい感じです」
この場所にいると、何だか自分の心も真っ白に洗われるような気がする。
そう言うガラシャの答えに、ホワイトは満足げに微笑んだ。
「気に入ってもらえて何よりだ。さて・・・僕の役目は、もう終わりかな・・・」
「何を言って・・・!?」
その時、ガラシャは驚きで目を見張った。ホワイトの体が、徐々に光の粒子となって空中に散っていく。
「ガラシャ、どうやら君ともお別れのようだ」
「ホワイト!また勝手に私の前から消えるのですか!?」
寂しそうに言う彼の襟首を、ガラシャは掴んで問いつめた。
「痛だだだだ!ちょ、ちょっと!ごめん、ミスった!言い方が悪かったよ!!」
「は?」
ガラシャが手を放すと、ホワイトは咳き込んでから彼女に向き直った。
「げほっ、げほっ・・・ガラシャ、僕は消えるんじゃない。君の“心”にまた“感情”として帰るだけだよ」
「でも、そうしたらあなたの人格は・・・」
「それでいいんだよ、何より僕がそれを強く望んでいる。元々、僕はこの世に存在しない人格だ。世界に存在を否定され、帰る場所も無かったから今までこうして、苦しみながら存在するしか無かっただけ。僕はやっと・・・自分の帰るべき場所に帰れるんだよ」
彼の体は、すでにもう半分以上が消えかけていた。そんな自分を見てから、ホワイトはまたちょっと笑って言った。
「さて、もう時間は少ないか・・・最後に、君へのプレゼントだ」
そう言うと、カードらしきものをガラシャに投げてよこした。
「これは・・・?」
受け取って見てみると、それはスペルカードだった。表面に「純白“ホワイト”」と書かれている。
「まあ、たまにはそれを眺めて僕を思いだしてくれ。・・・それじゃあ、さよなら。じゃなくて・・・ただいま、ガラシャ」
光の粒が飛び散り、ホワイトは完全に消えた。
「ただいま・・・ですか」
さっきまで彼のいた場所を見つめて、彼女は言った。そして目を閉じると、ホワイトのくれたカードを胸に当てて、つぶやいた。
「おかえり、ホワイト」
不思議と寂しい気分ではなかった。むしろ、何か今まで欠けていた大事なものが戻ったような、そういう暖かな感情が彼女の心を満たしていた。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
初めて投稿した作品だったので至らぬ点は多かったかと思いますが・・・重ね重ね、ありがとうございました。