異変の兆し
長くなっている気がする・・・
「はっ!?」
布団から飛び起きると、部屋には朝日が差し込んでいた。いつもの、寝室である。
「今の夢は一体・・・?」
ただの夢、ではなさそうだ。今でも、あの夢の中で感じたものが生々しく蘇ってくる。
しかし、いつまでもそうしているわけにもいかないので、巫女服に着替えると、寝室を出て霊夢のもとへ向かった。
「・・・という夢を見たんです」
「そうなの・・・変な夢ね」
神社の掃除をしながら、霊夢に夢の内容を話した。彼女はかなり親身になって聞いてくれたので、ガラシャは何だか安心できた。
「そうでしょう?」
まあ、寂しくて泣いてしまったことは、さすがに恥ずかしくて言わなかったが。
「でも、もしかするとあなたの記憶と何か関係があるかもね。夢は無意識の世界を映し出すと言うし。夢の中の光景に見覚えはない?」
「夢の中での光景・・・ですか」
そういえば、あの場所と少年には見覚えがあるような・・・ないような。
「うーん、やっぱり思い出せません」
「そう簡単にはいかないか・・・」
そこへ、
「霊夢にガラシャ~、遊びに来たぜ」
「お邪魔するわよ」
魔理沙とアリスがやって来た。
「あ、魔理沙にアリスですか。今お茶を用意しますね」
ガラシャは神社の建物の中へ駆け込んでいった。
「さすがはガラシャ」
「気が利くわね」
そう言う二人に、
「利かせすぎも考え物ね・・・」
霊夢は自分の額に手を当てて、つぶやいた。
「えーと、お茶は確かここに・・・あれ?」
いつもの場所に、お茶がない。すると背後で声がした。
「これをお探しかしら?」
見ると、そこには茶葉を入れた缶が。
「ああ、そう、それです。って・・・!?」
缶を受け取って顔を上げると、目の前に見知らぬ女性が立っていた。金髪で、紫色の服を着ている。
「あ、あなたは・・・?」
「私は八雲紫、境界に住む者よ」
わけが分からない。夢の中に出てきたあのホワイトとかいう少年と、同じ人種だろうか。
「・・・今、失礼なことを考えなかったかしら?」
「いや、滅相もない。ところでその八雲紫さんが、私に何か用でも?」
ガラシャが尋ねると、紫という女性は神妙な顔つきになって答えた。
「注意しなさい。あなたは“引き寄せる者”・・・良い事も、悪い事も、ね・・・・・・」
それだけ言うと、紫の背後の空間がばっくりと裂けた。彼女はその中へと入っていく。
「そ、そんなことを言われても・・・あ、ちょっと!」
呼び止めたが、裂けた空間は口を閉じるかのように、元に戻ってしまった。
「もう・・・お茶の一杯でも飲んでいけばいいのに」
ガラシャはどこか、間違っていた。
「ガラシャ、遅いわね・・・」
縁側に座りながら、霊夢がふと口にした。
「確かに、お茶を入れるだけなら、こんなにかからないよな」
「どうしたのかしら・・・霊夢、ちょっと見てきたら」
呼応するように、隣の魔理沙とアリスも言うと、
「お待たせしましたー!」
そこへガラシャが湯飲みを四つ、盆に載せて持ってきた。
「あっ、来たわ」
「おおサンキュー。しかし遅かったな」
「すみません、ちょっとおしゃべりしていたもので・・・」
湯飲みを配りながら、すまなさそうに頭を下げる。
「え?誰と話していたのかしら?」
お茶を飲みながら霊夢が聞くと、複雑な表情になって、ガラシャは答えた。
「えっと・・・金髪の女の人で、確か名前を八雲紫とか・・・変わった方でしたよ?」
それを聞いて、霊夢のみならず、魔理沙とアリスまでも、お茶を盛大に吹き出した。
「うわっ!だ、大丈夫ですか?三人とも・・・今、拭くものを持ってきますね」
「ええ、お願い」
ガラシャが神社の中へ消えるのを見計らってから、三人は額を寄せて話を始めた。
「魔理沙、アリス。これはただ事ではなさそうよ、今朝ガラシャは変な夢を見たと言っていたわ」
「ああ、そこへスキマの妖怪が接近とくれば・・・」
「異変の方程式が完全に成り立つわね」
三人は揃って頷きあった。
「そこで、よ」
霊夢が右手の人差し指を立てて、言った。
「この様子だと、異変にガラシャが巻き込まれる可能性は十二分にある。彼女を巻き込むわけにはいかないわ」
「その通りだぜ」
「確かにそうね」
魔理沙とアリスが頷く。
「だから他に何か異変の兆候はないか、私と魔理沙で調査するわ。その間、アリスはガラシャから目を離さないでおいて」
「何故私がその役なのかしら?」
アリスが首を傾げる。
「こういうのは私と魔理沙の方が手慣れているからよ。解決は早いに越したことはないし」
「アリス、私のガラシャを頼んだぜ」
魔理沙がアリスの手を両手で握って言った。
「あなたの、ではないと思うけど・・・分かったわ。任せなさい」
「決定ね。じゃあ今日の午後から、早速始めるわよ」
アリスが承諾すると、霊夢は立ち上がった。
「おう、兵は神速を尊ぶと言うしな。行動は早いほうがいいぜ」
「私は留守番、か」
魔理沙とアリスも立ち上がると、もといた場所に戻った。
そこへ、
「皆さーん、タオルを持って来ましたー!!」
ガラシャが戻ってきた。
そして迎えたその日の午後。
「アリス、ちょっといいですか?」
「何かしら」
神社の居住スペースに、今は二人きりである。そんな時、ガラシャが唐突に、アリスに尋ねてきた。
「ところで、霊夢と魔理沙はどこへ行ったのですか?」
「あ、ああ・・・会合があるとか、何とか言っていたわよ」
こう聞かれたら、こう言って誤魔化せ、と二人に言われて覚えた台詞である。
「じゃあ、いつ頃帰って来ますかね?」
「夜までには一旦帰ると思うけど・・・それからまた出かけるかも」
「うわっ、大変ですね・・・一体どんな会合なんだろう」
どうやら、ガラシャは本当だと信じているようだ。その様子を見て、アリスはほっと一安心した。
同時に、これをずっと続けるのかと思うと、気が滅入るのであった。
「ガラシャ・・・今行くよ・・・君のもとへ」
その時異変は、既に動き出していた。
次回は、バトルありです。