仲良し(?)兄妹と異世界の魔王
とある古いアパートに、仲良し(?)兄妹が住んでいました。二人はまだ幼く、母親と一緒に暮らしていますが、母親は昼間は働きに出ているので、その間はかなり好き勝手にしています。そして、このアパートには物置小屋があって、古いアパートですから色々と怪しい物が置いてあったりするのです。二人は冒険心旺盛な年頃ですから、好奇心が抑えられず、その物置小屋の中を探検していました。何かを発見したのか、不意に妹が言います。
「兄、ちょっと来て」
物置小屋の奥の方、前屈みになって妹は何かを見ています。因みに、兄は園田信夫といって、妹は園田ゆかりといいます。ただ、
「どうした? のあ?」
妹は口癖が「のあー」なので、“のあ”と呼ばれていたりします。更に因んでおくと、兄は自分の口癖が「チョチョイ・ナ・レーナ、ペッペッペ」だと主張していますが、滅多に言おうとしない上に、言おうとしても言えていないので、妹は認めていません。
兄が妹に近付くと、妹は振り向きながら「のあー」と言い、床に広げられてある古く汚れた紙を指差しました。色材は墨でしたが、西洋の魔法陣っぽい図が描かれています。
「うん」と、兄。
「大家さんの中二病時代の黒歴史な遺物かな? いざという時の脅しに使えるかもしれないぞ」
ところがそう兄が言い終えたタイミングでした。その魔法陣の少し上の辺りに突然黒い球体が浮かんだのでした。まるで空間を削り取ったかのように思えます。
「おお、」と兄は後退りし、「のあー」と妹は尻餅をつきます。
そして、
「フハハハハハ!」
けたたましい笑い声が。まるで地獄の底から響き渡って来るかのようでした。
「我は、異世界の魔王。よくぞ我が世界とつなぐゲートの封印を解いてくれた。滅ぼしてやるから感謝しろ、人間どもよ!」
「おおおお」と、それに兄。慄いています。
「凄い」と、妹。
魔王は仰々しい黒い鎧を身に纏った大男で、顔は大きな兜の所為で見えませんでしたが、奥にある光る赤い瞳だけは分かりました。
兄妹の様子に気を良くしたのか、魔王は更に笑います。
「怖いか? そうだろう。そうだろう! 大いに慄くが良い!」
「うん。怖い」とそれに兄。
「誰かが封印を解いてくれるまで、ずっとゲートの前で待っていたなんて」
妹はそれに頷きます。
「凄い執念と忍耐力だよね」
「いや、気にするのはそこかお前ら」とそれに魔王。それから「アラート機能があって、封印が解かれたら直ぐに分かるようになっているのだ!」と弁明をしました。
「暇だったのね。直ぐに来るなんて」と、それを聞いて妹は返します。ちょっと悲しそうな瞳で。
「憐れむな!」と、それに魔王。
兄が続けます。
「とにかく、わざわざ“異世界の”魔王なんて、こちら側の視点で分かり易く言ってくれているあたり、けっこーいい人そう」
「のあー」と妹は頷きました。
「いい人? 馬鹿か! お前ら! 我は今からお前ら人間を滅ぼそうとしているのだぞ?!」
うんうんと、それに兄は頷きます。
「じゃ、今から僕と勝負して、僕が勝ったら人間を滅ぼすのは諦めるって事にしよう」
「待て。どっから出て来た、その話?」
ツッコミをする魔王に妹は言います。
「受けない? なら、兄の不戦勝だね」
「ウィナー!」と、拳を上げて兄は勝名乗りをしようとしましたが、「やらんとは言ってないだろーが!」とそれに魔王。
「どうせ、どんな勝負でも我が勝つのだからな」
ふんふんと、それに妹。
「じゃ、勝負の内容は、“ワンちゃんの可愛いエピソード対決”にしよう」
「は?」と魔王は首を傾げる。
「なんだそれは?」
「より可愛いワンちゃんのエピソードを言えた方が勝ちってゲームだよ」
「いや、そうではなく。なんで、そんな勝負方法なのだ?と訊いているのだ」
「どんな勝負でも勝つって、言ってたじゃん」と、それに兄。
「いや、言いはしたが……」
間髪入れずに妹が言う。
「じゃ、始めよう。先攻は兄で」
「話を聞け、お前らぁ」と魔王が言うのを無視して兄は語り始めようとしましたが、「ジャッジはどうするのだ?」と魔王が問うとさすがに止まりました。
「わたしがジャッジする」
と、それを受けて妹が手を挙げます。
「お主だと? 不公平じゃないか」
「大丈夫だよ。公平にジャッジするから。“人間、滅びろ!”とかは思っているけど」
「まさかの魔王側?」と、それに兄はビビります。
「人間が滅びると、お前も滅びるんだぞ? のあ」
兄が説得すると、妹は「のあー」と応えます(分かっているのだか、分かっていないのだか)。
「まあ、いい。不公平だと判断したら、試合自体を無効にてやるわ」
そんな感じで、魔王がなんとなく納得したようなので、兄は語り始めました。
「ある電車に盲導犬が乗っていたんだけど、その盲導犬、いつの間にか、誰かにカッターナイフでお尻を切られていたんだ。
信じられない事件だけど、なんとその犬、切られている間、鳴き声も上げずにジッと我慢していたんだって…… きっと、主に迷惑をかけまいとしていたんだね」
兄が話し終えると、妹は拍手をしました。
パチパチパチパチ……
「素晴らしい。短いお話なのに、ワンちゃんの健気さが痛い程伝わって来て涙が出そう。
……あと、人間のクソさ加減も伝わって来て凄く良い。90点をあげましょう」
「人間の味方をする気はあるよな? のあ」
と、それを聞いて兄。
「次は魔王の番だよ」と、妹が言うと魔王は首を捻ってから話し始めました。
「あー、冥界の番犬ケルベロスは……」
そこで兄から物言いが入ります。
「審判、ケルベロスはワンちゃんに入りますか?」
妹は無言でセーフのジェスチャー。
やっぱり、人間を滅ぼしたがっているのかもしれない。魔王はホッとすると続けます。
「ケルベロスは、ハーデースの言いつけを守り、冥界から逃げ出そうとする死者の魂を毎日貪り食っていました。だけど、実は甘い物が大好きなので、甘いお菓子を上げると、それを食べている隙に逃げ出す事ができます」
「うーん」と、それを聞いて兄。
「凶悪なケルベロスが、甘いお菓子を好きで、実は隙だらけっていうギャップ萌え狙いなのは分かるのだけど……」
「うん」と、続けて妹。
「ちょっとそれだけじゃ、弱いよね。何より、人間のクソさ加減がまったく伝わって来ないのがダメ」
「“ワンちゃんの可愛いエピソード対決”だったよな?」とそれに兄。そのツッコミを無視して、妹は言います。
「よって勝者は兄です」
「なんだとー!」と、それに魔王は抗議しました。
「納得いかーん!」
だけど、妹は動じません。
「本当?」
淡々と問いかけます。
「本当はあなたも認めているのじゃないの? 自分の敗けだって」
「グッ……」とそれに魔王。
どうやら妹の言う通り、魔王は本心では敗北を認めているようでした。
けど、
「うるさーい! そんなの知るか! そんな約束を守ってやる義理はない! 人間を滅ぼしてくれる!」
そう叫びました。
どうにも説得は難しそう。
それを見て、兄は言います。
「そもそも、どうしてそんなに人間を滅ぼしたいんだ?」
「そんなのは簡単だ! 生かしておいても、何の役にも立たないからだ!」
「そうか」と、それに兄。
何故か頷いています。
「なら、魔王。これから一緒にアニメを観よう」
「は?」と、それに魔王は返します。意味が分からないといった様子。ですが、構わずに兄は物置の外に向かって歩き出しました。
「何を観るの? 兄」と、そんな兄に妹が尋ねると「ヤニねこ」と兄は返します。「えー、ドロヘドロにしようよ」と妹は駄々をこねるように訴えます。
「いや、待て、お前ら。何の話をしている?」
と、言いながらも魔王は兄妹についていきました……
3時間後。
「――なるほど。少しは人間も役に立つようだな」
と、アニメを観終わった魔王は兄妹の部屋で頷きながら言います。
「滅ぼすのは少し待ってやろう。このアニメとやらを作れなくなるまでな!」
「のあー」と、それに妹。どんな感情か分からない顔。そして、それから魔王は何もせず、異世界へと帰っていったのでした。
兄が言います。
「チョチ・ナ・レ……、ペッペッペ」
「兄、言えてない」と、それに妹はツッコミを入れました。
選んだのが、なろうテンプレのアニメ化作品だったら、ダメだったかもしれませんね。




