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仲良し(?)兄妹と異世界の魔王

掲載日:2026/09/19

 とある古いアパートに、仲良し(?)兄妹が住んでいました。二人はまだ幼く、母親と一緒に暮らしていますが、母親は昼間は働きに出ているので、その間はかなり好き勝手にしています。そして、このアパートには物置小屋があって、古いアパートですから色々と怪しい物が置いてあったりするのです。二人は冒険心旺盛な年頃ですから、好奇心が抑えられず、その物置小屋の中を探検していました。何かを発見したのか、不意に妹が言います。

 「兄、ちょっと来て」

 物置小屋の奥の方、前屈みになって妹は何かを見ています。因みに、兄は園田信夫といって、妹は園田ゆかりといいます。ただ、

 「どうした? のあ?」

 妹は口癖が「のあー」なので、“のあ”と呼ばれていたりします。更に因んでおくと、兄は自分の口癖が「チョチョイ・ナ・レーナ、ペッペッペ」だと主張していますが、滅多に言おうとしない上に、言おうとしても言えていないので、妹は認めていません。

 兄が妹に近付くと、妹は振り向きながら「のあー」と言い、床に広げられてある古く汚れた紙を指差しました。色材は墨でしたが、西洋の魔法陣っぽい図が描かれています。

 「うん」と、兄。

 「大家さんの中二病時代の黒歴史な遺物かな? いざという時の脅しに使えるかもしれないぞ」

 ところがそう兄が言い終えたタイミングでした。その魔法陣の少し上の辺りに突然黒い球体が浮かんだのでした。まるで空間を削り取ったかのように思えます。

 「おお、」と兄は後退りし、「のあー」と妹は尻餅をつきます。

 そして、

 「フハハハハハ!」

 けたたましい笑い声が。まるで地獄の底から響き渡って来るかのようでした。

 「我は、異世界の魔王。よくぞ我が世界とつなぐゲートの封印を解いてくれた。滅ぼしてやるから感謝しろ、人間どもよ!」

 「おおおお」と、それに兄。慄いています。

 「凄い」と、妹。

 魔王は仰々しい黒い鎧を身に纏った大男で、顔は大きな兜の所為で見えませんでしたが、奥にある光る赤い瞳だけは分かりました。

 兄妹の様子に気を良くしたのか、魔王は更に笑います。

 「怖いか? そうだろう。そうだろう! 大いに慄くが良い!」

 「うん。怖い」とそれに兄。

 「誰かが封印を解いてくれるまで、ずっとゲートの前で待っていたなんて」

 妹はそれに頷きます。

 「凄い執念と忍耐力だよね」

 「いや、気にするのはそこかお前ら」とそれに魔王。それから「アラート機能があって、封印が解かれたら直ぐに分かるようになっているのだ!」と弁明をしました。

 「暇だったのね。直ぐに来るなんて」と、それを聞いて妹は返します。ちょっと悲しそうな瞳で。

 「憐れむな!」と、それに魔王。

 兄が続けます。

 「とにかく、わざわざ“異世界の”魔王なんて、こちら側の視点で分かり易く言ってくれているあたり、けっこーいい人そう」

 「のあー」と妹は頷きました。

 「いい人? 馬鹿か! お前ら! 我は今からお前ら人間を滅ぼそうとしているのだぞ?!」

 うんうんと、それに兄は頷きます。

 「じゃ、今から僕と勝負して、僕が勝ったら人間を滅ぼすのは諦めるって事にしよう」

 「待て。どっから出て来た、その話?」

 ツッコミをする魔王に妹は言います。

 「受けない? なら、兄の不戦勝だね」

 「ウィナー!」と、拳を上げて兄は勝名乗りをしようとしましたが、「やらんとは言ってないだろーが!」とそれに魔王。

 「どうせ、どんな勝負でも我が勝つのだからな」

 ふんふんと、それに妹。

 「じゃ、勝負の内容は、“ワンちゃんの可愛いエピソード対決”にしよう」

 「は?」と魔王は首を傾げる。

 「なんだそれは?」

 「より可愛いワンちゃんのエピソードを言えた方が勝ちってゲームだよ」

 「いや、そうではなく。なんで、そんな勝負方法なのだ?と訊いているのだ」

 「どんな勝負でも勝つって、言ってたじゃん」と、それに兄。

 「いや、言いはしたが……」

 間髪入れずに妹が言う。

 「じゃ、始めよう。先攻は兄で」

 「話を聞け、お前らぁ」と魔王が言うのを無視して兄は語り始めようとしましたが、「ジャッジはどうするのだ?」と魔王が問うとさすがに止まりました。

 「わたしがジャッジする」

 と、それを受けて妹が手を挙げます。

 「お主だと? 不公平じゃないか」

 「大丈夫だよ。公平にジャッジするから。“人間、滅びろ!”とかは思っているけど」

 「まさかの魔王側?」と、それに兄はビビります。

 「人間が滅びると、お前も滅びるんだぞ? のあ」

 兄が説得すると、妹は「のあー」と応えます(分かっているのだか、分かっていないのだか)。

 「まあ、いい。不公平だと判断したら、試合自体を無効にてやるわ」

 そんな感じで、魔王がなんとなく納得したようなので、兄は語り始めました。

 「ある電車に盲導犬が乗っていたんだけど、その盲導犬、いつの間にか、誰かにカッターナイフでお尻を切られていたんだ。

 信じられない事件だけど、なんとその犬、切られている間、鳴き声も上げずにジッと我慢していたんだって…… きっと、主に迷惑をかけまいとしていたんだね」

 兄が話し終えると、妹は拍手をしました。

 パチパチパチパチ……

 「素晴らしい。短いお話なのに、ワンちゃんの健気さが痛い程伝わって来て涙が出そう。

 ……あと、人間のクソさ加減も伝わって来て凄く良い。90点をあげましょう」

 「人間の味方をする気はあるよな? のあ」

 と、それを聞いて兄。

 「次は魔王の番だよ」と、妹が言うと魔王は首を捻ってから話し始めました。

 「あー、冥界の番犬ケルベロスは……」

 そこで兄から物言いが入ります。

 「審判、ケルベロスはワンちゃんに入りますか?」

 妹は無言でセーフのジェスチャー。

 やっぱり、人間を滅ぼしたがっているのかもしれない。魔王はホッとすると続けます。

 「ケルベロスは、ハーデースの言いつけを守り、冥界から逃げ出そうとする死者の魂を毎日貪り食っていました。だけど、実は甘い物が大好きなので、甘いお菓子を上げると、それを食べている隙に逃げ出す事ができます」

 「うーん」と、それを聞いて兄。

 「凶悪なケルベロスが、甘いお菓子を好きで、実は隙だらけっていうギャップ萌え狙いなのは分かるのだけど……」

 「うん」と、続けて妹。

 「ちょっとそれだけじゃ、弱いよね。何より、人間のクソさ加減がまったく伝わって来ないのがダメ」

 「“ワンちゃんの可愛いエピソード対決”だったよな?」とそれに兄。そのツッコミを無視して、妹は言います。

 「よって勝者は兄です」

 「なんだとー!」と、それに魔王は抗議しました。

 「納得いかーん!」

 だけど、妹は動じません。

 「本当?」

 淡々と問いかけます。

 「本当はあなたも認めているのじゃないの? 自分の敗けだって」

 「グッ……」とそれに魔王。

 どうやら妹の言う通り、魔王は本心では敗北を認めているようでした。

 けど、

 「うるさーい! そんなの知るか! そんな約束を守ってやる義理はない! 人間を滅ぼしてくれる!」

 そう叫びました。

 どうにも説得は難しそう。

 それを見て、兄は言います。

 「そもそも、どうしてそんなに人間を滅ぼしたいんだ?」

 「そんなのは簡単だ! 生かしておいても、何の役にも立たないからだ!」

 「そうか」と、それに兄。

 何故か頷いています。

 「なら、魔王。これから一緒にアニメを観よう」

 「は?」と、それに魔王は返します。意味が分からないといった様子。ですが、構わずに兄は物置の外に向かって歩き出しました。

 「何を観るの? 兄」と、そんな兄に妹が尋ねると「ヤニねこ」と兄は返します。「えー、ドロヘドロにしようよ」と妹は駄々をこねるように訴えます。

 「いや、待て、お前ら。何の話をしている?」

 と、言いながらも魔王は兄妹についていきました……

 

 3時間後。

 

 「――なるほど。少しは人間も役に立つようだな」

 と、アニメを観終わった魔王は兄妹の部屋で頷きながら言います。

 「滅ぼすのは少し待ってやろう。このアニメとやらを作れなくなるまでな!」

 「のあー」と、それに妹。どんな感情か分からない顔。そして、それから魔王は何もせず、異世界へと帰っていったのでした。

 兄が言います。

 「チョチ・ナ・レ……、ペッペッペ」

 「兄、言えてない」と、それに妹はツッコミを入れました。


 選んだのが、なろうテンプレのアニメ化作品だったら、ダメだったかもしれませんね。

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