特別な日
向こうから女の子が近付いて来る。紺色のワンピースを着た女の子だ。つい、目で追いかけてしまう。男はそんなふうにできている。遺伝子がそうするように命じている。そのまま目鼻立ちや表情がわかる距離まで近付く。とてもかわいい女の子だった。その子もじっと私を見ている。ちょっと恥ずかしくなる。そして私の目の前で女の子は立ち止まる。それに合わせて私も立ち止まる。女の子はポケットに手を入れて、杖のようなものを取り出す。そしてそれを高く掲げる。何をやっているのだろうと思った瞬間、突然、眩い光が発せられ、目が眩む。しばらくしてから前を見ると、そこには魔法使いがいた。杖を持ち、三角の帽子を被り、箒も持っている。それだけ揃っていれば、まず魔法使いに違いない。そしてニッコリ微笑みながら彼女は箒にまたがった。そしてあっという間に飛び去ってしまった。
私は幻を見ていたのだろうか? その場に呆然と立ち尽くしながら考えていた。彼女はすでに去ってしまった。もう現実か幻か確かめる術はない。深く考えるのはよそう。しかしこんなことは初めてだ。今まで生きて来てこんな体験をするのは初めてだ。きっと今日は特別な日に違いない。気持ちを切り替えて私は再び歩き出した。すると向こうから、また女の子が近付いて来た。制服を着た女の子だった。ストレートの髪。端正な顔立ち。つい、目で追いかけてしまう。遺伝子はずっと私を支配している。だんだん近付いて来る。女の子も私の方を見ている。目が合う。ちょっとドッキリする。すると私の前で女の子は立ち止まる。ポケットに手を入れて金づちのようなものを取り出す。そしてそれを高く掲げる。眩い光が発せられる。しばらくしてから前を見ると、そこには呪術師がいた。金づちと釘と藁人形を持ち、ぶつぶつ呪文を唱えている。紫と緑のエフェクトが彼女を包み込んでいる。それだけ揃っていれば、まず呪術師に違いない。そしてニッコリ微笑みながら、彼女は指笛を吹いた。すると大きな鳥が舞い降りて来た。鳥は彼女を乗せると、あっという間に飛び去ってしまった。
またしても私は幻を見ていたのだろうか? その場に呆然と立ち尽くしながら考えた。一日に二度も幻を見るなんてことがあるのだろうか? 今まで生きて来てこんな体験をするのは初めてだとさっきまで思っていたが、これで二回目ということになる。今日は特別に特別な日に違いない。気持ちを切り替えて私はまた歩き出した。するとやっぱり向こうから、女の子が近付いて来た。和服を着た女の子だった。上品でしとやかな身のこなし。歩く姿にも気品が感じられる。伏し目がちな彼女を私はじっと見てしまう。私の遺伝子はターゲットを逃さない。上目づかいに彼女が私を見る。目が合う。そして予想通り、彼女は私の前で立ち止まる。胸元に手を入れて何か金属のようなものを取り出す。そしてそれを高く掲げる。眩い光が発せられる。今度は何だろうと思って前を見ると、そこには手裏剣を手にした妖艶なくノ一がいた。胸元から楔帷子が見える。その奥は素肌のようだ。彼女が合図すると大きな凧が舞い上がった。彼女はその凧に飛び乗ると、あっと言う間に飛び去ってしまった。
今日は特別で特別に特別な日のようだった。私は確信していた。一生に一度はこういう日があるものなのだ。そしてポケットに手を入れた。何か入っていると私は確信していた。予想通り手ごたえがあった。そして私はポケットに入っていたものを取り出し、迷うことなく高く掲げた。眩い光が私を包み込んで行った。目の前にいた老人が目を丸くして私を見ていた。全身に力がみなぎって来るのがわかった。今、私の身体に、魔力と呪力とチャクラと霊力とフォースとタオが満ちて来るのがわかった。今日は特別な日だ。何にでもなれそうだった。




