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「あとで聞いた」 【お題:面影】

作者: 竜司

 どうも、皆さん初めまして? 竜司です。

 今回、初めての掌編に挑みました。稚拙な文体につきましては、どうかご了承下さい。

 かなり短いので十分くらいで読めてしまうと思います。テーマは「面影」です。しかし、あとから読んだら「なんだこりゃ」って思いました。

 では、コーヒー片手にどうぞ。





「あぁ、もうだめだ」

 サイドメニューは言った。

「人生って、切っても切り離せないものがあるでしょ? 例えば、僕の名前とか。サイドメニューってなによ。名付け親の顔が見てみたい。僕、苦しんでます」

 すると、テニスがやってきて、サイドメニューの肩を叩きながら、愉快にこう言った。

「なぁぁ~~に、心配ないさぁ。この世のことは悩み飛ばす、ほら、つべこべ言ってないで、ライオンキング観てきなよ。きっと心が晴れ晴れするよ」

「えっ? 本当? このドロドロの心をサラサラに戻せるの?」

「あたぼ~~よ。なんなら、キャッツでもいいぜ」

 サイドメニューは、しばらく空を眺めていた。かなり爽やかな表情で。しかし、すぐに顔つきが暗くなった。テニスは困惑した。

「ど、どうしたんだい? サイドメニュー君」

「テニス君、僕は……気付いた。何故、君はそんな幸せそうなのか。それはきっと、名前が格好いいからだ。僕とは天とマントルの差だ」

「マントル? そこまで行くのかよ。驚きだな」

「……つか、もういいよ。君みたいな何もかもうまくいってる感じの奴と一緒にいたくナイ。自分が惨めに見えてきた」

 サイドメニューのその一言に、テニスは目つきを変えた。

「何もかもうまくいってるだって? そんなわけないだろ。わかった風な口をきかないでもらいたいな、サイドメニュー君」

「いやいや、君だってわかった風な口きくなって。完全上から目線だしっ……、なにが悩み蹴飛ばせだよ、はは」

「誰も蹴れとは言ってないよ。君は案外適当だな。顔も名前も」

「何だと? 今何て言ったお前? 貴様」

 とうとう二人はつかみかかった。その時だった――。

「やめないか!」

「!?」

「誰だ!?」

 突如、二人の前に姿を現したのは……

「私は、グルグルだ」

 そう、グルグルだった。

「何のようだ。グルグルさん」

 サイドメニューがグルグルを睨んだ。

 グルグルは言う。

「いや、何というか、見ていられなくなったからさ。君たち、ところで教えてくれよ。そんな下等な争いをして、楽しいのか?」

「何?」

 テニスがグルグルの前に立った。

「下等だって? どの辺が下等なんですか? グルグルさん」

「うん、テニス君。君の言うことはね、まさしく真実だ。確かにサイドメニューは、顔も名前もヤバい。全然いけていない。彼は、ダサい。それは確かだ」

「だってよ、サイドメニュー」

 でもね――――、とグルグルは続ける。

「だからといってなんだと言うのか。いかに顔が終わっていようが、名前がキモかろうが、切っても切り離せないコンプレックスを他に露出しなくてはならない人生であろうが、それはかなり、虚無的だ。至極、どうでもよいことだ。いや、もっと言うなら、本質を捉えていない」

「本質ゥ……?」

「テニス君。もしかしたら、君のように恵まれた容姿や名前を有している人間には、これは一生かかってもわからないことなのかもしれない。その意味で言えば、ある意味、君みたいな人は恵まれていないとも言えるだろう」

「ああ、僕が恵まれてないことなんかねっ! ねぇっ! ねぇんだっ」

「ほら、そういう所だ。もう少し慎みたまえ。己を冷静に客観視するのだ」

「うっせ! うっせうっせ」

 テニスは去った。

 グルグルは、膝を抱えて体育座りをしているサイドメニューに近寄った。

「初めましてかな、サイドメニュー君」

「…………」

「君が暗い気持ちになるのは仕方がないことだ。だが、どうにもならないわけではない」

「…………」

「幸せという言葉の響きが、いつかきっと君を、照らすはずさ。彼には決して浴びることができない光がね」

「……彼?」

「テニス君のことさ。いや、しかし、私は言い過ぎたかもしれない。決してというのは言い過ぎか。もしかしたら、これから彼の人生にも、考え方が変わるような大きな転機が訪れるかもしれない」

「しれないしれないって、あんま確証ないですね」

「ちょうどいい。サイドメニュー君。私の家に来なさい。おいしいケーキをご馳走しよう」

 サイドメニューは、グルグルのあとを、とぼとぼと付いていった。



 グルグルの家は案外小さかった。入ってすぐサイドメニューの目に飛び込んできたのは、美しい女だった。

「紹介するよ。彼女はオリジナルだ」

 オリジナルは、礼儀正しくお辞儀をして、グルグルとサイドメニューを迎い入れた。

「あ、初めまして。サイドメニューです」

「サイドメニュー君、いや、もう面倒だから、サイドと呼ぼう。サイド君。彼女は口がきけないんだ。悪く思わないでくれ」

「そうなんですか、大変ですね」

「大変……か」

「あ、いや、別に偏見してるわけじゃ」

「いいんだよ。サイド君。わかってる。オリジナル。今日買ったケーキの余りがあったろう。出してやってくれ」

 そう言って、グルグルは帰ってきて早々に、玄関に向かってしまった。

「私は用がある。ゆっくりしていてくれ」

 グルグルはどこかへ行ってしまった。

 サイドはとりあえず椅子に座った。冷蔵庫を開けて、ケーキを探すオリジナルを眺める。見た目からして十六か十七といった所だろう。グルグルの娘なのだろうか。

 しばらくすると、目の前に美味しそうなケーキが出された。オリジナルは無言で「どうぞ」と言った。

「いただきまっする」

 見事に滑ったが、サイドは構わずケーキを食べた。とても美味しい。甘さが控え目で、さっぱりしている。

「いゃあ、なんと美味しいケーキ……、嘘だ、こんな旨いケーキがこの世に……」

「あたしが作ったの」

 やけに可愛い顔をしてそう言ったのは、サイドを微笑ましい笑顔で見つめるオリジナルだった。

「あ、マジですか。あなたが作ったんですか。それは道理で、やっぱ美しい人が作ると、それなりのものに……」

「ありがとうございます。嬉しいです」

「いやいや、どうも。ところであなた、口がきけてますよね? 今、確実に、いやまさかの幻聴ですか? このやりとりは……」

「本当は話せます。でも、おじさんの前では恥ずかしいから、話せないの」

「え? 恥ずかしい? てか、僕は大丈夫なんだ」

「あたし、極度の人見知りなんです。だから、おじさんの前では、小さい頃から静かな所ばっかり見せてきたし、今さら、普通に話すなんてできないの」

「はぁ……」

「まぁ、あなたみたいな人は怖くないから平気」

「?」

「逆にかんがえれば、どう思われたって問題ないってわけ。あ、気を悪くしないでね、そういうつもりで言ったんじゃ………………」

「いや、まぁね。へへへ。君の言いたいことはわかるよ。どう見たって下等な生物だもんな、僕。いいよ、気にするなって。逆に言えば、話しかけやすいというプラス思考なんてできるか馬鹿。もう限界だ。僕は今までいつもこうだった。こういう扱いだった。家族くらいのもんだ。優しかったのは。俺は他人と関わるのをやめるよ。今日限りだ」

 一気にまくし立てたサイドは、ガシャンと音を立てて席を立った。皿の上でフォークが小刻みに揺れる。サイドの瞳には、涙が薄く浮かんでいた。

 サイドは家の外に出て、叫んだ。

「この世は腐ってる! 不条理だ! ……俺は、幸せになんかなれない!」

 オリジナルも慌てて外に出た。

「そ、それは違うよ、サイドメニューう~~」

「オリジナル! その名を易々しく口にするなッ」

「十分易々しいよっ……このバーカ」

「あああぁぁぁぁあぁあ!!!! もうだめだぁ! 一瞬でも君に恋心を抱いた俺は馬鹿だったぁあ! お前の言う通りだっ」

「ええ!? やだっ!! キモイッ」

「キィィイ。腐り過ぎだろ世の中ァァァァァァァァァァァ」

「グルグルおじさーん! 変な人がいるぅ~。助けてぇ」

「テメェグルグルとは口きけなかったのではないのぇ!? ボリケーノお」

「死んでてよキモイー!」

「ギャアァァア」



 ――――数年後。

 グルグルの元に、一人の男が現れた。

「やぁ、久しぶりだね」

 グルグルは気軽に声をかけた。男は、「お久しぶりです」と小さく言った。

 男の容姿は、良いか悪いかで言えば、極めて微妙だった。見方によっては、普通に良く見える。だが、見方によれば、格好をつけ過ぎていることが伺い知れてしまう。

「覚えているかね? 何年か前、君は私と半ば口論となった。最後に君がどんな捨て台詞を残して去ったか、覚えているかい?」

 男は、静かに空を眺めていた。とても落ち着いている。

「グルグルさん。そういえば、あることに気がついたんです。そう、どんなに顔が良かろが悪かろうが、名前が終わっていようが始まっていようが、まさしくそんなことは、至極、どうだっていいことなのだと。本質を捉えていないのだと」

 グルグルはそれを聞いて笑い出した。

「今更になってそんなことを理解したのか。まぁ、世の中にはそれすら理解できずに死にゆく者たちすら存在する……」

「ええ、しかしグルグルさん。どうしても真理を掴みきれない所があります。本質とは果たして、万人に共通なのか?」

「いや、共通とは言い過ぎだ。人それぞれに、幸せの基準が異なるのは確かなことだよ。しかしだな、広い意味で言えば、これは半ば宗教じみている。この話し合いすら馬鹿げていると、君ならばいつの日か気付けるだろう」

「グルグルさん」

「おっと、私は用があった。家の中にオリジナルがいる。ケーキをご馳走しよう。入ってくれ」

 そう言ってグルグルは消えた。男はそっとドアを開けて家の中に入った。最初に目に飛び込んできたのは、美しい女だった。

 男はとりあえず椅子に座った。オリジナルは、冷蔵庫を探っている。ケーキを探しているようだ。

「どうぞ」

オリジナルは、ケーキを男の前に置いた。

「ん? スプーンがないぞ? いや、フォークでもいいけど……」

「手で食べなさい」

「はっ……まじかよ。やるね……」

 男は頬張った。

 そのケーキのうまいことといったら、まるで地上に天国を見たかのようだ。

「な、なんて旨いんだ? 美味すぎる。有り得てたまらないぞ……、嘘だ……」

「買ってきたの」

「あ、わざわざすいません」

「別にあなたの為ぢゃないけど。ただ余ってただけ」

「……そっすか……」

「そうそう、最近どう?」

「え?」

「……人生はどんな感じ? うまくいってる?」

「あぁ、いや~……微妙ですね」

「ふーん」

「あ、そうだ。グルグルとはどうなんですか? 話せるようになった?」

「……いえ、まだですけど…………」

「そうか」

「あの」

「ん?」

「どうしてあなたがそのことを?」

 男からは、かつての面影はほとんど消えていた。





 「どこが面影だボケ」と思った方、その通りです。

 どっちかっていうと、テーマは「幸せ」とか「人生」って感じですかねぇ?

 ま、これからも掌編はたくさん書いていきたいのでよろしくお願いします。あ、勿論、本編の方もガンガン書いていきますので。

 では、またいつの日か。




以下、相方rakiの解説。


えー・・・、それこそ、「あとから聞いた」話なのですが、どうやらこの掌編、ただのコメディではなく、結構深いお話だったりするんです。

まず、解釈の点で2通りあると聞かされました。

最後にオリジナル(グルグル)に会いに来た男ですが、読者の方々は誰だと判断しましたか?

作者の竜司によると、サイドメニューとテニスどちらかは断定できず、読者の想像に委ねる形にしたそうです。

僕は完全にサイドメニューだと決め付けていたのですが、タイトルも『あとで聞いた』なので、オリジナルがグルグルと喋ることができないというエピソードはサイドメニューが後にテニスに話したという可能性もあるんですよね。

なるほど・・・と思います。

序盤のやり取りから考えると最後に現れた彼はテニスでもおかしくないなぁ、と思います。


それから、テーマに関して。

この掌編小説は全体がコメディタッチで描かれていますが、実は非常に哲学的なテーマを含んでいます。

ジャンルを決める時、哲学という分類があればそちらを選択していたかもしれません。

竜司は後書きで「どっちかっていうと、テーマは「幸せ」とか「人生」って感じですかねぇ?」なんて語ってますが、的を射てますよね。作者なんだから当たり前ですが(笑)

この発言からも、彼が意図してこのようなストーリーにしたと言えます。

何が「哲学的」か。それを端的に表せば、まさしくこの物語のキーワードである「名前と容姿」です。

自分の意思では決められず変えることもできないもの。固定的で、自らの存在を決定付けてしまうもの。切っても切り離せないもの。

そんな「名前と容姿」をグルグルは「虚無的」「どうでもいい」と言い切ります。

そこに、「人生」や「幸福」の真理が見えて来るんだと思います。

そして、先に書いた、2通りの結末。どちらの結末においてもその真理に気付いた人が居る。

サイドメニューは何を経てその真理を得たんでしょうか。

あるいは、テニスは・・・。

実は、僕たちが何気なく味わっているコンプレックスや優越感、それに対する諦めや克服を内包しているのがこの作品の面白いところなのかもしれません。

少なくとも僕はそう思ってます。

そういった面では、僕の中編『面影リグレット』とは180度違う作品だと思います。

深みではこの『あとで聞いた』の方が数段勝っていますけどね。

僕は竜司の人間性を知っていますから、さらに面白みもありました。なかなかいい作品だと思います。



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