コスモス③
コスモス視点です。
騎士団へと入団し、私の騎士としての人生がようやく幕を開けた。
これから多くの犯罪を取り締まり、助けを求める人達に手を差し出す。
そしていつか、勇者と認められるような騎士になる……そんな期待に胸を膨らませていた。
だが私の希望は……入団と共にすり減っていった。
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入団式を終え、私を含めた新人30名は担当教官オダマキの下、広いトレーニング場へと集結した。
「それでは新人諸君……これから毎日行うトレーニングについて話す」
新人騎士に課せられるトレーニング。
内容自体は走り込みや基礎的な筋トレ……武器を用いた組み手と言ったシンプルなもの。
だが……そのルールはあまりにも非人道的だ。
まずトレーニングは丸一日近く行われ……その間、休憩時間は一切設けられておらず……食事や水分補給すら禁じられている……。
「ふっふざけるな!! そんなトレーニングやってられるか!! 俺は騎士をやめる!!」
トレーニングに耐える自信がない1人の新人が退団を教官に申し出た。
「おっ俺も!」
「俺もだ!!」
彼に賛同するかのように……退団を望む声がどんどん上がる。
私は手こそ挙げなかったが……あまりの過酷な内容に理解が及ばなかった。
「おう、そうかそうか……騎士をやめるのか。
だったら、退団金を支払ってもろうか……」
「たっ退団金?」
「さっきサインしただろう? 誓約書をよう……」
ニヤついた教官が懐から取り出したのは……ついさっきサインをした誓約書だった。
内容は騎士として国に忠義を果たす……みだりに騎士団の情報は漏らさないと言った基本的なものだ。
ところが教官が取り出した誓約書には明らかに後から付け足した文章が記載されていた。
その内容は……退団する場合は退団金を支払うというもの……。
しかもその金額は国を1つ買えるほどの莫大な額だ。
国王や大臣でもない限り……そんなお金を支払うことはできない。
「ちょちょっと待てよ! そんなのさっき書いてなかっただろ!!」
「いいや書いていたぞ? そしてお前達は全員了承してサインした。
つまり退団金を支払わなければ、俺達は法の名の元で……お前達を逮捕できる」
それは明らかに脅迫だった。
しかも……法を盾にした卑劣な脅迫だ。
この横暴さに私は耐えきれず前に出ようとしたが……。
ボカッ!!
足を踏み出そうとした直前、オダマキが突然新人の顔を殴りつけ……倒れた彼の頭を踏みつけた。
「うるせぇってんだよ……若いだけが取り柄のゴミ共が……。
借金するなり家族に払わせるなり……金を払う方法はいくらでもあるだろう?
ゴミはそんなことも理解できないのか?」
「なっなんだと……」
「おぅ……そうだそうだ聞いたぞ?
お前……すげぇ美人の姉ちゃんがいるんだったな?
それを俺に差し出すって言うのなら……特別に退団金を免除してやっても良いぞ?」
「そっそんなこと……できるわけがないだろう!!
姉ちゃんには婚約者がいて……結婚の準備だって……」
ひどく青ざめた顔で教官の代案を拒否する新人……。
当然だ……いくら保身のためだからといって……愛する家族を身代わりにできる訳がない。
「だったら黙ってろ!!
言っておくがな……俺達がその気になれば、お前らの人生も家族の人生もどうとでもできるんだぜ?
なんせ俺達は……法の下に集まった正義の味方だからなぁ。
アハハハ!!」
「……」
それ以降……退団を申し出ていた新人達は口を閉ざした。
莫大な退団金……法という絶対に壊れない盾……それらを目の当たりにしたことで、反旗を翻す気力もなくなったんだろう……。
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それからトレーニングと言う名の新人つぶしが始まった。
シンプルなトレーニング内容自体は正直、そこまで苦ではなかった。
だがトレーニング中は休憩時間は一切ないため、飲食も会話もできない
そんな状態が丸一日近く続けば……肉体的にも精神的にもつらい。
『おいっ! のろのろ歩いてねぇで走れよカス!!』
『その程度の筋トレでバテてんじゃねぇよ、腰抜け!!』
その上、オダマキや先輩騎士から容赦なく浴びせられる罵声……時には教育と称して暴力まで奮ってくる。
だが彼らの行為には新人を育てようとする気など微塵も感じられない。
教官は私達に基礎的なトレーニングを口頭で指示するだけで。自分自身は高みの見物と言わんばかりにフカフカのソファに座り……女を侍らせて酒を飲んでいる。
それは紛れもなく、過酷なトレーニングを強いられている私達への挑発だった。
下である私達を虐げ、自分の立場に酔いしれている……実に不快だ。
『ハハハ!! 俺のおごりだぁ!』
さらには酒瓶に残っていた酒を床にぶちまけ……。
『喉が渇いたんだろう? だったら舐めろよ、犬みたいに』
私達の人権そのものを辱めてきた。
普通ならこんな屈辱的な施しは受けないだろう……。
だが肉体的も精神的にも追い詰められていた私達にとって……それはオアシスに近かった。
私達は人としての恥を捨て……生存本能を優先し、床の酒を犬のように舐めた。
『アハハハ!! おい見ろよ、あいつらマジでやりやがった!!』
『うわぁ……キモッ! マジで舐めてるし……』
『どんだけ意地汚い訳ぇ? キャハハハ!!』
侍らせた女達と嘲笑うオダマキ……。
本当にこれが……国を守る騎士の顔なのか?
新人だからと言って……こんな人を人とも思わない下衆なことを平然とやるこんな奴が……。
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過酷なトレーニングをようやく終えたとしても……新人騎士に休まる時間などない。
『おい新人共! この辺掃除しておけ!』
『酒とつまみ買ってこい! 無論自腹な!』
先輩騎士達にパシリのように扱われ……こき使われる。
逆らえばすぐに暴力に訴えてくるが、トレーニングで体力など残っていない私達には反撃することも耐えることもできず……ただ黙って従うしかない。
だから私達は、先輩騎士達に従いつつ最低限の食事を水分補給を終えるしかなく……気付けば意識を失うように眠る。
そして朝になり……トレーニングと言う名の地獄が始まる。
毎日その繰り返しだ……。
そのせいで新人の何人かは心を病んでしまい……廃人と化した者は施設と言う名の牢獄に放り込まれる。
情報漏洩防止という名目で外に出る際には入念なチェックを受けるため……持ち出せるものは限られているため、外と情報を共有することはまず不可能。
万が一、なんらかの証拠を持ち出せたとしても……正義の名に恥じぬ組織でなければならない騎士団の実態を訴えたところで……国は絶対に認めたりしないだろう……。
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はっきり言って逃げてしまいたい気持ちは強かった。
退団金だって父と母に言えば出してくれるだろう。
だがそれ以上に、私はこの異常な新人つぶしを止めたいという思いに駆られた。
新人期間は約1年……その期間を終えれば、私は見習い騎士として本格的に騎士団の職務に就くことができる。
そして勤勉に任務を全うしていけば、騎士達は私の言葉に耳を傾けてくれるはず。
今は力のない騎士だから何もできないが……騎士としての力と立場を得ることができれば、この過ちを正すことができるはず!!
私はそんな思いから騎士団に背を向けず……異常な新人つぶしを耐え続け、1年の新人期間を終えることができた。
だが私は知らなかった。
騎士団という組織が……すでにどうしようもない所にまで堕ちているということを……。
次話もコスモス視点です。




