コスモス①
コスモス視点です。
本作は続編という形になります。
前作【マイティア0(以下省略)】から読んでいない方はぜひそちらから読み進めてみてください。
また、本編後半に出てくるゾンビがどうして出てきたのかは【マ醜い私を唯一愛してくれた親友は、家族を選んだ。だから私は世界を壊す ~マイティア0.25~】を読んでみてください。
【人は必ず裏切る。だが――死者は裏切らない】
だから私は人類を救うことにした。
誰も裏切らない世界にするために、生きている人間全てを殺す。
――そう考えるようになったのは、いつからだっただろうか。
少なくとも、あの頃の私は違った。
誰よりも正しく、誰よりも人を信じていた……あの頃は……。
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私の名前はコスモス
勇者ツキミと鏡の巫女カルミアとの間に生まれた1人息子です。
父は普段は家で怠けてばかりの仕方がない人ですが、勇者としての実績は数知れず……この国で起きた犯罪の6割は父の働きによって解決されているとまで言われている。
さらに父は……勇者の座を争う武闘大会においても20年間無敗を誇る猛者でもある。
格闘術から剣術……ありとあらゆる武術に精通し、特に弓の腕はズバ抜けている。
この国で父と戦って敵う者など存在しない……とまで言われています。
そんな父は国民から強い支持を集め、尊敬の意を込めて”最強の勇者”と呼ばれている。
そして母は……国宝である”無魂の鏡”を預かり守る、由緒正しい巫女。
時に優しく……時に厳しい、そして誰よりも美しい……私にとって理想の母であり、女性です。
周囲にいる人たちもみんな良い人ばかり……。
私の教育係であるじいや様を筆頭に……誰もが思いやりのある人達です。
そんな私には……夢があります。
それは父のような勇者になることです。
人を助け……人を守り……世の安寧のために尽力する……。
そんな父の背中に……私はずっと憧れていた。
そして決心した……。
騎士団に入り……勇者を目指そうと……。
その夢を叶えるために……私は努力を惜しまなかった。
元騎士団の教官であったじいや様や父に手ほどきをしてもらって武を磨き……学校でも勉学に勤しんだ。
勇者に限ったことではありませんが……何事も努力を積み重ねていくことが重要なんです。
とはいえ……ただ学生としての努力を積み重ねれば良い訳ではないんです……。
他人への思いやりや尊重……勉強だけでは学べないことを学ぶために……私はたまの休日に、清掃や募金と言った……いわゆるボランティア活動にも積極的に参加するようにもなりました。
こう言った経験や人との繋がりが、人生の大きな財産となると母に教わりました。
見返りなんてありませんし……特段目立つようなことでもありませんが……。
『いつもありがとうございます』
笑顔で掛けてくれるその一言が、何よりの喜びだったからです。
だけど今思えば……あの世界は美しくも脆い世界でした……。
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「コスモス、おはよう」
「リンドウ、おはようございます」
彼女は私の幼馴染、リンドウ。
優れた剣の腕と知性を持ち、誰よりも努力を惜しまない女性です。
そして――私と同じく、勇者を目指しているライバルでもあります。。
「では……ランニングから始めましょうか……」
「そうね……でもその前に、しっかりと準備体操よ」
「あっそうですね。 失念していました」
週に何度かこうして2人で会い、共に鍛錬や勉学に励んでいます。
今日も朝から公園で落ち合い、ランニングや筋トレ等の基本的な鍛錬を行う約束をしていたんです。
彼女も私同様……父に憧れて勇者になることを目指しているようで、同じ夢を持つ者同士という共通点もあったことで……友人の中でも特に仲の良い方です。
”勇者は男性でなければならない”
”女性が男性に力で敵う訳がない”
勇者の称号は代々男性が受け継いできたことと世間の歪んだ偏見も重なり、これまで女性が勇者になったことは1度もありません。
それどころか、勇者を決める武闘大会にすら女性が参加することすら認められた前例もないため……リンドウの夢は努力だけでは乗り越えられない壁が多くあります。
『そんな古い常識は私が勇者になることで払拭するわ!』
それでもリンドウは決して諦めず……女性でも勇者になれることを証明しようとただ真っすぐに夢へ向かっている彼女の姿はとてもキラキラしているように見えました。
リンドウは努力家ですが……それだけではありません。
「あっ! コスモス。 何か落ちてる……」
「財布のようですね……」
ランニングの道中……リンドウは偶然財布を見つけました。
財布はボロボロでお金も一切入っていないため、ゴミと称しても違和感が湧きませんでした。
「お金が入っていなくても、落し物は落とし物……騎士団に届けてくるわ。 コースからは少し外れるから……コスモスは先に行っていて」
「いえ、私も同行しますよ。 これも鍛錬と考えれば、良い機会です」
「そう……ありがとう。 じゃあ行きましょうか」
「はい」
どんなに手間が掛かろうと……特に意味がないことだとしても……リンドウは国民としての義務を怠らない。
そんな彼女の純粋で真っすぐな心に、私は人としても女性としても強く惹かれていました。
惹かれているとは言っても……リンドウに交際を申し込む気はありません。
勇者になる夢に向かって懸命に努力している今の私には……誰かを愛する余裕は正直ありません。
そんな気持ちのままでは、仮にリンドウと交際したところで……きっと彼女としっかり向き合えないでしょう……。
そうなったらお互い……良好な関係を維持することはできなくなります。
ただの自己完結ではありますが……もしもリンドウと交際するのであれば……せめて自分に自信を持てる人間くらいにはならないと……相手に不安を抱かせてしまいます。
もちろん……これはあくまで私自身の気持ちであって、リンドウが私をどう思っているかはわかりません。
将来……彼女が誰かと添い遂げるようなことになれば……その時は、友人として全力で祝福するつもりです。
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落とし物を届けた後、私達は図書館に赴いて勉強を始めました。
「コスモス、どうかした?」
「いえ……なんでもありませんよ」
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財布を騎士団に届けた後、私達は図書館で予習に励んでいました。
お互いにわからないところをカバーし合ったおかげで、予想よりも予習が進みました。
「コスモス……いよいよ来週ね」
予習の最中……リンドウがおもむろに口を開いた。
「そうですね……」
彼女の言う来週とは……騎士団の入団試験のことです。
その試験に合格することができれば……新人騎士として騎士団に入ることができる
つまり……私達にとって夢への第一歩となる重大な試験なのです。
試験まで残りあと数日……最後の追い込みと称して、2人で過去の問題集を進めているところです。
「筆記試験と実技試験……どちらも合格しないと入団できないなんて、改めて考えると厳しいわね」
「そうですね……ですが、人を守るための組織ですから……それに見合う知性を実力を身に着けておかなければ、騎士は務まりませんよ」
「ホント……コスモスは真面目なんだから……」
「真面目……ですか?」
「そうよ……それも馬鹿が付くくらい。 いつも言ってるでしょ?」
真面目……リンドウを始め、周囲の方々はよく私をそう評価します。
自分では普通にしているつもりなのですが……母にもあなたはもう少し肩の力を抜いた方が良いと言われるくらいなので……きっと自己評価が誤っているのでしょうが……。
「そうですね……でも正直、あまりピンときませんね。 きっとこれが性分なんでしょう……」
「全く……じゃあ、これから町に出て少し息抜きしましょう。
ちょうどお昼だし……」
「ですが……試験勉強が……」
「勉強ばかりじゃ体を壊してしまうわ。
少しは頭を空っぽにしてリフレッシュすることも、人として大切なことでしょう?」
「そういうものですか?」
「そういうものよ。 さぁ!」
「!!!」
私はリンドウに腕を掴まれ、言われるがまま町へと遊びに繰り出しました。
こう言ったケースが初めてという訳ではありませんが……どうも”遊び”という行動には正直、慣れません。
嫌な訳ではありませんが……自分のためではなく、他人のために何かする方が性に合っているんでしょう。
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そして迎えた入団試験当日……。
これまでの努力の成果を発揮する日が来ました。
「コスモス……しっかりね」
「コスモス様……ご自分を信じて、全力を出すのです!」
母さんとじいや様が、試験会場へ赴こうとする私を玄関で送ってくださってくれました。
使用人の皆さんからも、たくさんエールをもらいました。
皆さんの期待に応えるためにも……夢を叶えるためにも……絶対にこの試験に合格しなければなりません。
「母さん……父さんは?」
「……」
私の問いかけに対し、母は無言のまま首を横に振る。
みんなが私を送り出してくれる中……父さんだけは何も言ってくれず、リビングでくつろいでいました。
”いってまいります”と声を掛けても、”あぁ……”としか返してくれなかった。
実を言うと……父は私が騎士団に入ることを快く思っていないのです。
私が初めて騎士団に入る目的を告げた時……。
『寝ぼけたことほざいでんじゃねぇよ……』
開口一番……父は私の目的を否定しました……。
いや……それ以前に、私の勇者になりたいと言う夢にも否定的な意思を示していました。
その理由を尋ねてはみたけど……。
『騎士団なんてゴミの掃きだめだ……存在する価値もない。
勇者なんてしんどいだけで……ロクなことはない』
何度尋ねても……父は薄い回答しか返してくれませんでした。
これまで私のやることに対して何かと協力的だった父に初めて描いた夢を否定されたのは正直つらかった……。
だけど……勇者になって人を助けたいという夢は捨てられず、私は父の反対を押し切る形で努力を積み重ねてきました。
次第に父は”好きにしろ”と言わんばかりに、無言を貫くようになりました。
親子関係自体はそれからも良好でしたが……私は関係を悪化させたくないと、無意識に父の前で夢を語らなくなりました。
「では……行ってまいります」
多少引きずるところはありましたが……私は描いた夢を胸に、家を出ました。
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「コスモス……お互い、ベストを尽くしましょう」
「はい……頑張りましょう」
会場内でリンドウと熱く手を重ね、互いにエールを送った後……私達は試験に臨みました。
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試験を終えてから1週間後……。
いよいよ今日は合格発表の日です。
私はリンドウと2人で一緒に発表を見に行こうと約束し……図書館の前で待ち合わせていた。
「……どうしたんでしょうか?」
ところが……約束の時間を過ぎても、リンドウは姿を見せなかった。
時間には厳しい彼女が遅刻するなんて……珍しい。
何かあったのかと不安に駆られもしましたが……単なる遅刻という可能性もなくはないので、待ち合わせ場所から離れるのは得策とは言えない。
ひとまず私はそばにあった遠くの人と話ができる機械……公衆電話で彼女の家に電話したものの……すでに彼女は家を出ていると彼女の母親から聞き、もう少し待つことにしました……。
とはいえ……あまり時間の猶予はありません。
実は試験に合格した者は、規定された時間までに騎士であることを示すバッジ……紋章を受け取る必要があります。
もしも紋章を受け取らなければ……騎士になる意思がないと見なされ、合格をはく奪されてしまう。
現時点で合格が確定した訳ではありませんが……仮に合格しているのであれば、そんなことでせっかくのチャンスを不意にする訳にはいきません。
それはリンドウだってわかっているはずです……。
※※※
「仕方ない……」
しばらく待ったものの……リンドウは結局現れませんでした。
彼女の身が心配ではありますが……私はひとまず1人で合格発表を確認しに向かった。
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「……! リンドウ?」
その道中……私は公園で誰かと話しているリンドウを目の端で捉えた。
相手は同い年くらいの少年みたいだけど……こんな時に何をしてるんだ?
私は2人の元へと駆け寄り、リンドウに声を掛けようとしました……。
だがその時……少年がリンドウの肩を掴んで叫ぶようにこう告げました。
「リンドウ、頼む! 僕の気持ちを受け止めてくれ!
僕は君を必ず幸せにすると約束する!
だから……僕と結婚を前提に付き合ってくれ!」
少年の言葉が耳に届いた瞬間……私はリンドウに声を掛けるのを中断した。
今のは間違いなく告白……というよりも、求婚と言った方が正しいのかもしれない。
「……」
対するリンドウは複雑そうな顔で黙っている。
友人とはいえ、こんなプライベートな空間に介入するべきじゃないと判断し、私はその場から立ち去ることにした。
幸いにも、2人は私の存在に気付いていないようだったので……。
「リンドウ……」
彼女の返答が気にならないと言えば嘘になる……。
だけど、今は……優先すべきことがある。
私は振り返ることはせず、公園から駆け出した。
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「……あっあった!」
試験会場に赴き、巨大なプレートに掛かれている合格者リストの中から自分の試験番号を探すこと5分……。
私は合格者の中に私の番号を見つけることができた。
リンドウの番号もついでに探そうとも考えましたが……規定時間が迫っていたのでそれは断念せざる終えませんでした。
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「このたびは合格おめでとうございます。
こちらが騎士の称号……紋章であります」
「あっありがとうございます!」
受験票と引き換えに、私は受付にて念願の紋章を受け取った。
「ついに……騎士になったんだ……」
小さな紋章ではあるが……これには責任や正義と言った重みが感じられる。
これが夢への第一歩……そしてこれからは1人の騎士として……人を守り、人に尽くすんだ。
「コスモス……」
胸元に輝く紋章を見つめていた私に、背後から声がかかった。
振り返ると――リンドウが立っていた。
「リンドウ……あなたも合格したんですね」
「えっえぇ……まあね。 あなたも合格したみたいで、良かったわ」
「これからは……同じ騎士として頑張りましょう」
その言葉に嘘はない。
けれど――どこか、噛み合わない。
ほんのわずかな違和感。
「えぇ……。 ねぇ、コスモス」
「はい、なんでしょう?」
「今日はごめんなさい……待ち合わせに遅れたりして……」
「いえ……」
「実はね? 友達の女の子から急に相談したいことがあるって電話があって……2人でしばらくカフェで話をしていたの」
「えっ?」
――その瞬間。
世界が、わずかに歪んだ気がした。
リンドウの口から出たのは紛れもない嘘……多少目が泳いではいるが、表情はさほど崩れていない。
今まで彼女の口から嘘なんて聞いたことがない私にとって……これは初めてつかれた嘘。
それは私にとって……言葉では言い表すことができない衝撃的なことだった。
「……そう、ですか」
言葉は自然に出た……けれど、胸の奥で何かが軋む。
私は見ている。
リンドウがあの少年に想いを告げられていたあの場面を……そして彼女は、黙ってそれを聞いていた。
なのに今、彼女は言った。
“女の子の友達とカフェにいた”と。
……なぜ、そんな嘘を。
「どっどうしたの?」
「リンドウ……実は、ここへ来る途中……あなたが告白されている現場を見たんです」
気づけば、口が動いていた。
「えっ!?」
「友人とはいえ、プライベートなことなので……声は掛けませんでしたが……」
「コスモス聞いて! 彼は最近知り合った友達で……確かに告白はされたけど、交際はお断りしたわ!」
「そう……なんですか……」
「本当だから! 彼とは親しい友人ではあるけれど……男女の関係とかじゃないの!
証拠とかは……ないけれど、どうか信じて!」
「……」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが冷たく沈んだ。
「コスモス?」
「リンドウ……なにか誤解されているようですが……私はあなたの言葉を疑ってなどいません。
そもそも私達は親友であって恋人ではないのですから……そんなに気に病む必要はありませんよ」
それは、本心だった。
彼女が告白を断ったことも、今の言葉も――おそらくは事実だろう。
「ただ……」
喉が、わずかに引きつる。
「私達の仲で……嘘なんかついてほしくなかった……」
「!!!」
彼女の表情が凍りついた……。
彼女の瞳が、大きく揺れる。
その反応だけで、十分だった。
「違うの! あれは――」
食い気味に言葉を重ねるリンドウ。
声が、わずかに震えている。
わかっています……人間生きていれば、多かれ少なかれ嘘をつくことくらい。
私とて、無意識に嘘をついてしまったことはあります……。
それでも……私とリンドウの間に、嘘なんてものは存在しないものだと勝手ながら思っていました……。
お互いに裏表のない関係……それが私とリンドウの絆だと……信じていたんです。
そんなものは勝手な思い込みですし……我ながら器が小さいなとも思います。
だけど……ショックは隠せなかった。
「すみません……せっかく合格したのに……今の言葉は忘れてください」
「ううん……悪いは私だから」
そう言って、私は視線を外す。
これ以上、彼女の顔を見ていられなかった。
見てしまえばきっと……私は、“正しくない感情”を抱いてしまうから。
次はリンドウ視点です。




