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AIRPORT 1 Complete Edition : 東京国際空港管制保安部  作者: Sully Hughes


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Chapter 3 Part 1

緊急着陸を成功させた一件をきっかけに、片山と真奈美たちの間には少しずつ信頼関係が芽生えつつあった。真奈美は片山の指導のもとで着実に力を伸ばし、業務でも自信を見せるようになっていた。片山もその姿を静かに見守っていたが、それでも彼と周囲の間には越えられない壁があるように見えた。真奈美たちが食事や飲みに誘っても、片山は決まって「まだ仕事が残っているから」と断っていた。

________________________________________


季節は過ぎ、夏を迎えたある日のこと。

管制室の空気はいつもと変わらぬ慌ただしさを見せていたが、その一角で田辺が窓の外をじっと見つめていた。

佐藤が歩み寄り、声をかけた。

「田辺さん、外なんか見て何をされているんですか?」

田辺は小さく笑みを浮かべて答えた。

「ああ、ちょっと気分転換にな。」

そのまま視線を外に向けたまま、田辺が問いかける。

「今日は、片山はいないのか?」

「はい。今日は有給です。どうしても今日は休ませてくれと言っていたので。」

佐藤が答えると、田辺は短く息を吐いた。

「そうか。あいつがいないと、やっぱり少し空気が違うな。」

眼下には次々と着陸する航空機がライトを点滅させ、夏の日差しに照らされた滑走路へと降りていく。その様子を眺めながら、佐藤が口を開いた。

「そういえば片山が来てから、山口の成長は目を見張るものがありますね。」

佐藤が腕を組みながら口を開いた。

「そうだな。」

田辺はゆっくり頷いた。

「あの子も最初は頼りなかったが、今じゃ堂々としてきた。片山の存在は大きいんだろうな。チーム全体の動きもよくなってる。」

佐藤は小さく笑みを浮かべたが、すぐに真顔に戻った。

「それでも……片山自身が壁を作っているのが気になります。」

「俺も同じことを思っていた。」

田辺は窓の外に視線を向けたまま、低い声で続けた。

「それに、あれだけ実力があるんだ。なんでずっと地方にいたんだ。それも15年も。」

佐藤は答えず、しばらく黙って航空機の着陸灯を目で追った。やがてため息をつき、「いずれ本人が話すときが来るんでしょうね」とだけ言った。

話題を変えるように、田辺が口を開いた。

「それにしても、佐藤もずいぶん変わったな。初めて会ったときは、上昇志向の塊みたいだったお前が、今じゃ部長でみんなをしっかりまとめてる。」

佐藤は意外そうに笑い、

「いいえ、とんでもないです。田辺さんのおかげで、今の自分があります。それに、今でも助けてもらってばかりですよ。」

と肩をすくめた。

田辺は少し目を細め、感慨深げに呟いた。

「俺も定年まで残りわずかだ。こうして空を見られる時間も限られている。」

「ほんと、寂しくなります。」

佐藤が言うと、田辺はゆっくりと彼に向き直った。

「実はな、ひとつ頼みがあるんだ。」

その言葉に、佐藤はわずかに眉を上げ、真剣な眼差しで田辺を見つめた。日中の強い光が窓から差し込み、二人の表情をはっきりと照らしていた。

________________________________________


それから数日後、朝の業務開始前。いつもは各自が黙々と準備をしている管制塔の空気に、佐藤の声が響いた。

「みんな、少しだけ時間をくれ。大事な報告がある。」

普段は穏やかな佐藤の声色が、このときはどこか張り詰めていた。その緊張を敏感に感じ取った管制官たちは、それぞれの作業を止め、自然と佐藤の周りに集まった。内田が「何だろうな?」と小声で呟き、篠田は手にしていた資料をそっと机に置いた。三津谷は腕を組み、険しい表情で佐藤の口を待った。

佐藤は皆を見渡してから、一呼吸おいて口を開いた。

「実は、秋の人事異動で、田辺さんが仙台空港に移ることが決まった。本人の希望だ。」

その言葉に場の空気が一変した。誰もすぐには言葉を発せず、わずかな沈黙が重苦しく流れた。レーダールームから駆けつけていた篠田が、最初にその沈黙を破った。

「えっ、田辺さんが? 仙台に……本当にですか?」

声には驚きと戸惑いが滲んでいた。

佐藤はうなずきながら続けた。

「そうだ。田辺さんの地元でもある。定年まで残り少ない期間を、慣れ親しんだ場所で過ごしたいとのことだ。」

自然と視線が田辺へと向けられる。田辺は少し照れくさそうに頬をかきながら、

「まあ、俺もそろそろ若い人たちに任せる頃だろうからな。」

と口にした。その声音には、達観したような穏やかさがあった。

「いやいや、田辺さんがいなくなるなんて困りますよ!」

内田が真剣な顔で言った。

三津谷も深くうなずいた。

「そうですよ。田辺さんの判断にどれだけ救われたか。」

真奈美もうつむきながら小さく声を漏らした。

「私も、もっとたくさん教えていただきたかったです……。」

その言葉には素直な寂しさが込められていた。

田辺は皆の声を聞きながら、少し目を細め、感慨深そうに微笑んだ。

「ありがとうな。でも、現場は常に世代交代していかないといけない。俺も先輩たちからそう教わってきた。お前たちなら、もう十分やっていけるさ。」

その言葉に一同が静かにうなずいたが、納得の表情とは程遠いものだった。空気の中に漂う寂しさと喪失感は消えなかった。

一方で、片山は驚いたように田辺を見つめていたが、言葉を発することはなかった。彼の目には、一瞬の戸惑いと、わずかな寂しさが浮かんでいた。真奈美はその微細な変化を見逃さなかった。片山はすぐに感情を隠すように視線をそらし、無言で自分の持ち場へと戻っていった。

「……片山さん、どうしたんだろう。」

真奈美は心の中で呟きながら、片山の背中をじっと見つめ続けていた。彼の沈黙の奥に、まだ語られていない何かが潜んでいるように思えてならなかった。


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