Chapter 9 Part 2
業務が終わり、それぞれの管制官たちは束の間のオフを迎えていた。夕暮れの羽田空港は滑走路の灯火が点り始め、赤く染まった空と機体のシルエットが美しく交わり、昼間の喧騒とは違う落ち着いた表情を見せていた。
三津谷はデスクに腰掛けながら、携帯電話を手に取り妻に電話をかけていた。
「……ああ、今日も無事に終わったよ。今から帰るから、夕飯は3人で食べよう。」
彼の声は柔らかく、家族の存在が日々の大きな支えになっていることを物語っていた。
一方、内田はパソコンを広げ、画面に食い入るように見ている。
「えっと……温泉旅館にスキー場か。どうしようかな……。」
小声で呟きながら、真剣な表情で旅行サイトをスクロールしていた。
篠田は椅子に座り、スマホを手にしていた。普段の冷静で几帳面な顔つきとは違い、画面を見ながら表情を緩めている。
「……ふふ。」
小さな声が漏れ、普段は他人に見せない一面が覗いていた。
その頃、佐藤は部長室に戻り、電話の受話器を握っていた。
「……ああ、昨日の件だ。犯人は無事に捕まった。……片山のことか?……関空で?」
眉をひそめながら呟くその言葉には、長年の経験から来る直感が滲んでいた。
一方、真奈美は自分のデスクに残り、静かに日記を開いてペンを走らせていた。
「……今日の業務も無事に終えられた。片山さんが羽田に来てから、もうそろそろ一年になる。ここに来たばかりの頃は緊張ばかりで、自分の力不足を痛感していたけれど、その間に仲間の温かさを知り、支えられてここまで来られた。片山さんに『お前ならやれる』と言ってもらえたあの日のこと、今も忘れない。あの言葉が私を導いてくれている。チームのみんなと過ごしたこれまでを振り返ると、胸の奥がじんわりあったかくなる。このチームなら、これからどんな困難があっても乗り越えられる気がする……。」
ペンを止めた真奈美の頬には小さな笑みが浮かび、文字と共に決意が刻まれていく。
――その頃、片山は管制塔の窓際に立ち、羽田空港を一望していた。行き交う飛行機、点滅する誘導灯、そして忙しなく動き回る地上スタッフたち。彼は静かに空を見つめながら、自らの中に新たな決意を強く抱いていた。
真奈美はペンを握り直し、再び紙面に心の声を綴った。
「……片山さんやチームのみんなに、もっと頼られる存在になりたい。あの日、あのとき感じた焦りも、今では『みんなとなら大丈夫』という勇気に変わっている。今日の小さな一歩が、明日の大きな力になると信じたい。だから明日も、私にできることを全力でやろう。いつか胸を張って
『自分もこのチームの一員として空を守っている』
と誇れるように……。」
彼女は一度深呼吸し、最後の一文を丁寧に書き加えると、そっと日記を閉じた。机の上には温かな余韻が残り、その横顔には柔らかな決意の光が差していた。
夕暮れの羽田の空は静かに群青へと移り変わり、灯火が一層鮮やかに輝き始めていた。
――そしてまた、羽田に新たな一日が始まろうとしている。
真奈美はヘッドセットを装着し、片山に小さな声で呼びかけた。
「片山さん、今日もよろしくお願いします。」
片山は一瞬彼女を見てから、静かに頷いて答えた。
「ああ、よろしく。」
片山と仲間たちの物語は、これからも続いていく。




