Chapter 8 Part 4
その時、管制塔では受話器が鳴り響き、片山が素早く取った。背筋を伸ばし、緊張の色を隠さず声を発する。
「はい、片山です。」
「倉木だ! リベレーターの一味を確保し、システムも一部復旧した!」
管制室に一気に歓声が広がる。片山は息を整え、力強く応えた。
「了解です! 本当にありがとうございます!」
モニターに次々と復旧の兆しが映し出され、暗闇に覆われていた画面が光を取り戻していく。
「片山さん! システム、反応しています!」
真奈美が笑顔を浮かべ、声を弾ませて報告する。片山はすぐに切り替え、落ち着いた声で指示を出した。
「倉木さんからの報告だ! 犯人が捕まり、システムが一部回復した。全員、通常システムへの移行を慎重に始めろ。遅れを取り戻すぞ!」
片山の言葉に、各管制官が即座に動く。明るさを取り戻したモニターの光が、皆の顔を照らした。
「みんな、まだ気を抜くな!」
佐藤が重々しい声を張り上げる。
「最終便を送り出すまでが俺たちの闘いだ!」
「はい!」
全員の力強い返事が管制室に響き渡り、再び航空機への指示が次々と飛んでいく。復旧しつつあるシステムと人の力が一体となり、羽田の夜空を支えていた。
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同じ頃、レーダールームにも復旧の連絡が届いた。三津谷が端末を確認し、思わず声を上げる。
「……戻った! システムが動いている!」
内田が大げさに両手を広げて笑った。
「いやぁ、助かった!」
篠田もモニターを確認しながら頷き、安堵の笑みを浮かべた。
「よかった。」
三津谷は二人のやり取りを聞きながらも、真剣な表情を崩さずに言った。
「でも、最後まで油断はできない。ここからが本番だ。」
三人は互いに視線を交わし、再び目の前のモニターに集中した。
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一方、空港のロビーでも照明が徐々に戻り、ざわめきが安堵へと変わり始めていた。暗闇の中で泣き叫んでいた子どもたちも、明かりが灯ると次第に泣き止み、母親に抱きしめられながら安心した表情を浮かべた。
「ご搭乗の皆様へご案内いたします。システム障害によりご迷惑をおかけしました。現在、復旧が進んでおりますので、順次ご案内いたします。」
アナウンスが流れると、乗客たちの間から安堵のため息が広がる。
「よかった……。」
スーツ姿の男性が額の汗を拭い、隣にいた女性も深く頷いた。
「本当に助かったわ……。」
母親は小さな声でつぶやきながら、抱いていた子どもの背中を優しく撫でる。子どもは涙で濡れた顔を母の胸に埋め、ほっとしたように目を閉じていた。
スタッフたちは一人ひとりに笑顔で声をかけ、落ち着いた誘導を心がけていた。
「お客様、順番にご案内しますので、このまま列をお進みください。」
「お困りの方はいらっしゃいませんか?」
混乱の中でも必死に明るさを保つスタッフの声がロビーに響き渡る。その姿に、乗客たちも少しずつ落ち着きを取り戻し、次第に整然とした列ができていった。恐怖に包まれていた空間は、少しずつ希望を取り戻しつつあった。
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他のシステムも徐々に復旧し始めていた。しかし、サイバー攻撃の犯人が捕まっても、片山たち管制官の闘いはまだ終わってはいなかった。すべての便を安全に送り出すまで、緊張の糸を切ることはできなかった。
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日付が変わり、深夜1時前。最終便であるANA928便が滑走路へと進入していく。片山はマイクを握り、冷静な声で指示を出した。
「ANA928、こちら東京タワー。滑走路34Rからの離陸を許可する。」
「東京タワー、こちらANA928。34Rからの離陸を開始します。」
機体は滑走路を力強く駆け抜け、轟音と共に夜空へと飛び立った。そのライトが暗闇に吸い込まれるように上昇していくのを全員が見守った。
片山は再びマイクを握り、静かに声を飛ばした。
「ANA928、こちら東京タワー。ディパーチャーにコンタクトしてください。」
「東京タワー、こちらANA928。ディパーチャーにコンタクトします。お疲れ様でした。」
その交信が終わった瞬間、管制室内にようやく安堵の空気が広がった。
「みんな、お疲れ様。」
片山の静かな言葉に、真奈美をはじめ管制官たちは深くうなずき、緊張の中で張り詰めていた表情をようやく緩めた。
そこへ倉木と伊藤が管制室に戻ってきた。二人の顔には疲労の色が濃く刻まれていたが、その瞳には確かな達成感が宿っていた。
「サイバー攻撃を仕掛けた男を逮捕しました。奴は組織の一員で、これから本庁で取り調べる予定です。……これも皆さんの迅速な対応があったからこそです。協力に心から感謝します。」
倉木の言葉に片山はうなずき、真剣な眼差しで答えた。
「俺たちだけじゃありません。これは空港全体が一つになって守った結果です。」
そう言って片山は倉木と固く握手を交わした。その瞬間、管制室に漂っていた疲労感の中に、確かな誇りと絆が満ちていくのを誰もが感じ取っていた。
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業務を終えた管制官たちは、椅子にもたれながら疲れた笑みを浮かべていた。鈴木が真奈美に向かって声をかける。
「真奈美、よくやったな。」
「いえ……皆さんがサポートしてくれたおかげです。」
真奈美は恥ずかしそうに視線を落としながらも、胸の内には確かな誇りが芽生えていた。
内田は椅子に深く座り込み、頭を掻きながら笑った。
「いやぁ……無事に終わってよかったな。でも、当分こんな状況はごめんだ。」
「まったくだ。」
三津谷が苦笑混じりに相槌を打ち、篠田も少し肩を落としながらうなずく。
「ですね。……でも、最後まで乗り切れてよかったです。」
そのやり取りを佐藤は穏やかに見守り、静かに口を開いた。
「今日は大変な一日だったが、全員がよくやってくれた。君たち一人ひとりの力があってこその結果だ。俺は誇りに思う。」
佐藤の言葉に、全員が改めて互いを見つめ、そして静かにうなずいた。
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やがて片山以外のメンバーが帰路につき、管制室は静けさを取り戻した。片山は窓際に立ち、外の夜景を見つめる。街の灯りと空港の滑走路の光が遠くまで続き、そこには再び取り戻された日常があった。




