Chapter 8 Part 3
そのころ、一方、倉木と伊藤は必死にシステム復旧を試みていた。モニターに向かう伊藤の指先は止まらず、倉木はその背後から鋭い眼差しを注いでいた。
「侵入しているプログラムの正体が分かりました!」
伊藤の声が緊張で張り詰めたサイバー対策室に響く。倉木が素早く彼のモニターを覗き込んだ。
「……これは?」
「“リベレーター”が使っているウイルスです。サブサーバー経由で空港システムに侵入し、機能を停止させるだけでなく、内部データを抜き取っています。おそらく、空港のセキュリティ情報やフライトデータが狙われています。」
倉木の表情がさらに険しくなる。
「つまり、羽田の弱点を把握し、次の攻撃を仕掛けてくる可能性があるということか?」
「ええ……しかし、彼らのウイルスには致命的な欠陥があります。」
伊藤はモニターを指差し、自信を込めて説明した。
「ウイルスは自動で拡散し、すべてのシステムに侵入しようとしますが、アクセス権限の高いサーバーに接続する瞬間、一時的に反応が遅れます。その隙を突けば逆探知が可能です。」
「できるのか?」
「はい。発信源を突き止める絶好のチャンスです。」
倉木は短くうなずき、低く言い放った。
「やってくれ。時間との勝負だ。」
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一方、管制室では片山たちが依然として手動で航空機を誘導していた。電子システムの補助がない中での作業は限界に近づいていたが、彼らは決して諦めなかった。
「JAL462、こちら東京タワー、最終アプローチを維持。滑走路34Rに向けて進入を継続。」
片山の冷静な指示に、途切れがちな無線からパイロットの応答が返る。隣では真奈美が震える手でヘッドセットを握りしめ、声を張り上げていた。
「ANA213、こちら東京タワー! 現在システム障害中ですが、安全に誘導します。速度をそのまま維持してください!」
「了解、東京タワー。」
真奈美の声には緊張がにじんでいたが、責任感が彼女を支えていた。片山はその横顔を見やり、短く声をかける。
「真奈美、大丈夫か? 落ち着いて、一つずつこなせ。お前ならやれる。」
その言葉に真奈美はハッとし、深呼吸を一つ置いてから、再び真剣な目でモニターを見据えた。
「……はい、分かりました!」
彼女の瞳には迷いが消え、管制官としての覚悟が宿っていた。片山も静かにうなずき、再び次の航空機に指示を飛ばす。その様子を横目で見ていた鈴木が片山に視線を送り、互いに顔を合わせて小さくうなずき合った。混乱の夜空に、管制官たちの声が確かに届いていた。
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そのころサーバールームでは、倉木と伊藤の奮闘が続いていた。
「このウイルス……それも内部から発信されている。」
伊藤の声は硬く、緊張に満ちていた。
「内部からだと?」
倉木の表情が険しさを増す。
「はい。攻撃の発信源は空港内にあるはずです。つまり、空港内に潜む何者かが、直接ウイルスを仕掛けた可能性が高い。」
伊藤はキーボードを叩き続け、汗が額を流れる。秒単位で迫る危機が彼の指先をさらに加速させた。
そのとき、倉木の部下である捜査員から無線が入る。
「警部!到着ロビーで不審な動きをする男を発見しました! 」
倉木は即座に無線機を握りしめ、短く鋭く命じた。
「押さえろ。その男を捕らえろ!」
その指示と同時に、複数の捜査員がロビーへと走り出す。到着ロビーでは、黒いキャップを目深にかぶった男がノートパソコンを操作しながら周囲を警戒していた。目立たない服装だが、その挙動は明らかに不自然だった。
「おい、あいつだ。」
捜査員たちが連絡を取り合い、男を静かに取り囲む。そして一瞬の合図で一斉に飛びかかった。
「逃がすな!」
倉木の声が無線越しに響き、複数の捜査員が男を床に押し倒した。男は激しく抵抗し、ロビー中に怒号が響き渡る。
「離せ! お前らに何がわかる!」
その叫びに周囲の乗客たちが驚き、悲鳴を上げる。人々がざわめき、混乱が広がっていく中、倉木が現場に駆けつけ、男の肩をがっしりと掴んだ。
「お前が『リベレーター』の一員だな。ウイルスを仕掛けたのはお前か?」
男は一瞬視線を逸らし、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべた。
「お前らがどれだけあがこうが、もう止められない。解放の時はすぐそこだ……。」
「解放だと?」
倉木が眉をひそめた瞬間、男の腕から覗いたタトゥーが目に入った。それは電光掲示板に映し出されたものと同じ――翼を広げた鳥と鎖を引きちぎるマークだった。
「間違いない……。」
捜査員が男の手からノートパソコンを奪い取る。倉木がすぐに伊藤へ声を飛ばす。
「伊藤、このパソコンを調べろ!」
「了解!」
伊藤はその場で解析を始め、目を凝らして画面を追った。
「システムを乗っ取ったウイルスのデータがここにあります! これが拡散元です!」
「今すぐ復旧の手順に移れ。感染を食い止めろ!」
倉木の声に伊藤は即座に応じ、猛烈な速さでキーを叩く。
「セキュリティプログラムを上書きして……よし、遮断します!」
緊迫した数分間の後――
「……成功です! 拡散を食い止めました! システムの一部が回復を始めています!」
伊藤の声が震えながらも力強く響く。倉木は深く息を吐き、男を捜査員に引き渡した。
「こいつを連行しろ。」
男は項垂れ、力なく引きずられていく。倉木は胸に重いものを抱えながらも、冷徹に次の指示を下した。
「よし、急げ。他のシステムも完全に復旧させろ。」




