Chapter 8 Part 2
やがて日が沈み、羽田空港全体が夜の光に包まれる頃、異変は突如として始まった。
バチッ――
空港全体の明かりが一斉に消え、管制室内の機器も一瞬停止する。暗闇の中で非常電源が作動し、青白い非常灯が点滅した。
「どうした!?」
「電源が落ちました!」
佐藤と鈴木の叫び声に、管制室は一瞬にして騒然となった。慌ただしくキーボードを叩く音や交信を試みる声が重なり、室内の空気は一気に緊張感に包まれる。
その直後、出発ロビーの電光掲示板に異様な映像が浮かび上がった。翼を広げた鳥のシルエットに、鎖を引きちぎるような不気味なマーク。黒地に赤い炎のような色彩で、中央には英語で――
「LIBERATOR」
と記されていた。
「リベレーター……。」
真奈美が震える声で呟く。
「リベレーターだ。情報通り、奴らが動き出した。」
倉木が険しい表情で声を張り上げ、伊藤はすぐにノートパソコンを開いた。
「侵入を確認! 空港システムに不正アクセスされています! データが次々と書き換えられている!」
「くそっ、対策班を呼べ!」
佐藤が指示を飛ばし、周囲の管制官が一斉に立ち上がる。
「全員、エマージェンシーに移行! 通信手段が確保できているか確認しろ!」
片山の鋭い声が響き、各管制官が慌ただしく航空機との交信を試みる。
「こちら東京タワー! 現在システム障害発生中! 航空機との通信は維持していますが、状況は不安定です!」
鈴木が必死に呼びかける。真奈美も焦りを隠しながら声を張った。
「JAL621、こちら東京タワー! 通信が不安定ですが、通常通り対応中! 落ち着いてください!」
「了解、東京タワー!」
返ってきた応答は途切れ途切れで、緊迫感を一層強めた。
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同じ頃、レーダールームでも異常が発生していた。モニターの一部が一瞬ノイズで乱れ、航跡が点滅する。
「データが一部飛んでるぞ!」
三津谷が鋭い声を上げる。
「こちらもです!」
篠田が焦りながら報告するが、異常は収まらない。
「おいおい、レーダーまで狙うなんて、冗談じゃねぇぞ……!」
内田が声を荒げるが、三津谷がすぐに引き締めた声を返した。
「冗談で済むか! これじゃ正確な位置把握ができない。絶対に見落とすな!」
篠田は汗を拭う暇もなくモニターを操作し続け、内田も真剣な顔つきで隣に座り込む。レーダールーム全体が見えない敵と戦う最前線と化していた。
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そのころ、倉木と伊藤は空港のサーバールームに駆け込んでいた。冷気が漂う室内にはサーバーラックが並び、赤や青のランプが不気味に点滅している。
「侵入経路を突き止めました! 空港内のサブサーバーを経由しています!」
「遮断できるか?」
「試みますが、攻撃はかなり巧妙です……時間がかかります!」
伊藤の額には玉のような汗が滲み、指先は止まらずキーボードを叩き続けた。
「急げ。時間がない。」
倉木が鋭い視線を投げかけ、管制塔全体は一瞬たりとも気を抜けない緊迫感に包まれていた。
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片山はモニターを凝視しながら、低く呟いた。
「奴らの目的は何だ……? なぜ羽田を狙った?」
その問いに答える者はいなかった。しかし、目の前にはシステムダウンという最大の危機が迫っている。それでも片山は冷静に判断を下し続け、真奈美や鈴木たちがそれに応じて次々と対応していった。
「手動管理に切り替えろ!」
佐藤が大声で指示を飛ばす。その声には確固たる決意が宿っていた。
「システムがダウンしても、人間がいれば守れる!」
「全員、このまま気を抜くな!」
片山の力強い声が続き、管制官たちは一丸となって奮い立った。真奈美は拳を固く握り、モニターに向き合いながら声を張る。
「ANA152、こちら東京タワー! 手動での管制に切り替えています。指示に従ってください!」
「了解、東京タワー!」
返ってくるパイロットの声に、真奈美の胸に緊張と同時にわずかな安堵が走った。隣の鈴木も負けじと声を飛ばす。
「JAL320、こちら東京タワー! 指示を繰り返します、34Rでの着陸を許可します!」
「了解!」
二人の連携する声に、片山は小さくうなずいた。
管制官の窓からは、夜空に無数の航空機のライトが点滅しながら静かに光を放っていた。混乱の中でも、空を飛ぶ者たちは確実にそこに存在し、管制官たちの声を頼りにしていた。
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一方、羽田空港ターミナルビル内は暗闇と混乱に包まれていた。突如として消えた明かりと、不気味な「リベレーター」のマークに、多くの乗客がパニックを起こす。
「皆様、落ち着いてください! 現在、空港全体で緊急事態に対応しております!」
スタッフの声が必死に響くが、泣き叫ぶ子どもや、不安そうに行き先を見失った乗客が次々と押し寄せた。
「お母さん、怖いよ!」
小さな子を抱えた母親が必死にあやす。スタッフが駆け寄り、安心させるように声をかけた。
「大丈夫です。こちらに避難してください!」
乗客を誘導する職員の額にも汗が浮かび、声はかすれていた。それでも彼らは止まることなく叫び続ける。混乱の最前線で、空港スタッフの奮闘が続いていた。
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同じ頃、レーダールームでも緊迫したやり取りが続いていた。危機的状況の中でも、次々と着陸機が指示を求めてくる。モニターには途切れ途切れの航跡が点滅し、通常以上に管制官たちの集中力が試されていた。
「三津谷さん、このままじゃ処理が追いつきません!」
篠田が声を張り上げる。
「わかってる!」
三津谷も即座に応じ、管制卓に身を乗り出した。
すると内田が顔を上げ、苦渋の表情を浮かべながら言った。
「三津谷さん、この際一部の便を近隣の空港にダイバートさせるってのはどうですか……? 」
その言葉に三津谷がうなずき、すぐに答えた。
「確かに、それしか方法はないかもしれない。負担を分散させるべきだ。」
篠田も同意し、真剣な表情で言葉を添える。
「はい、私も賛成です。このままでは危険すぎます。」
内田はすぐに通信を取り、管制室へ向けて提案を伝えた。その声には能天気さはなく、状況を切り抜けるための必死さがにじんでいた。
「こちらレーダールーム、部長、片山さん。一部の便を近隣空港へダイバートさせる案を提案します!」
少し間を置いて、佐藤の力強い声が返ってきた。
「内田、よく判断した。すぐに可能な便から手を打て。片山も確認してくれ。」
「ありがとうございます!」
内田は短く答え、再びモニターに目を戻した。




