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70 千葉大学オープンデイ

夕べ、アップしましたが、後半を少し書き直しました。

 千葉大学のオープンデイに行く朝、マイクロバスの前にメンバーが並んだが、そこに海里(かいり)と田中先生はいなかった。そして、引率には鮫島(さめじま)先生が加わった。


 引率の高校2年担任の竹内先生が、マイクロバスに乗った生徒に話しかけた。

「最初に、西千葉キャンパスで概要説明があります。その後、各学部の個別相談があります。銀河さんと甲次郎さんは、情報データサイエンス学部の学生が迎えに来ますので、その学生について行ってください。亥鼻(いのはな)キャンパスへは鮫島先生が連れて行ってくれます」


 蒔絵は、隣に座っている兄に会釈をした。

「鮫島先生、おねがいします」

銀河は甲次郎と並んで座っていた。甲次郎は、高校生に1人で混ざるので、今日は銀河と一緒に行動することになっている。


 竹内先生の説明はまだ続く。田邊先生は、(しおりを読めば分かるのに)とうんざりしていた。そもそも、「千葉大学オープンデイ参加のしおり」という冊子を作ること自体、田邊先生は反対だったが、「昨年も作った」と言われて、渋々受け取った。例のごとく、クラスのメンバーには、デジタルで送付しておいた。


例年、千葉大学のオープンデイは公共交通機関で来なければならないのだが、至る所で、碍子(がいし)や電線への降灰の影響で、電車が停まっている。そこで、今日は多くのバスや車が、駐車場に停まっていた。


「蒔絵―」

どこかで聞いたような声が聞こえて、鮫島先生の背筋に悪寒が走った。

声の主は、浦瀬鮎子(うらせあゆこ)だった。

「あれ?青森から来たの?」

「園芸学部が見たいから」

「農学部じゃないの」


浦瀬鯨人(げいと)がその理由を暴露した。

「こいつ、千葉大学にどうしても入りたいんだって」

「え?農家を継ぐって言っていたじゃない?」

「それがね。従兄弟(いとこ)の家が『メガファームを作るため、(うち)の農地を買い取りたい』って言ってきたんだ」


「ほー、それで?」

「大学に行ける金銭的余裕ができたんだ」

「でも、農学部じゃなくて園芸学部?」

「何故か、千葉大学に行きたいらしい」


「理由は聞きたくないな」

「俺も恥ずかしくて言いたくない」

再び、鮫島先生の背筋に悪寒が走った。


「蒔絵ちゃんや銀河君は、何学部を見学するの?」

「私は、亥鼻キャンパス見学」

「薬剤師?それとも看護師?蒔絵ちゃんは看護師ってタイプかな?」

「女子は看護師って、発想が嫌いだな」


 蒔絵は肩をすくめた。銀河は、蒔絵が医者を志望する理由を、まだ聞いていないので、耳をそばだてて聞いていた。しかし、青森組に集合がかかり、話題はそこで途切れてしまった。


 上村航平(かみむらこうへい)が、銀河に耳打ちした。

「蒔絵って、看護師じゃないんだ」

「そうみたいだね」

銀河は、なんとなくはぐらかしてしまった。


 全体説明は大教室で行われた。青森組は教室の前の方に座っていたが、「概要説明」が始まると、鮎子の首がガクンと前に倒れた。何度か、鯨人に突かれていたが、その頭が最後まで上がることはなかった。

 銀河は頬杖をついて、つまらなそうな顔で話を聞いていた。


 休憩時間に甲次郎が心配して、蒔絵に尋ねた。

「銀河さん、つまらなそうですね」

「甲次郎君、これから長い付き合いになるだろうから、説明しておくね。銀河は、ああいう顔して聞いているけれど、話はすべて頭にインプットされているから、大丈夫」


それを証明するために、蒔絵は銀河を突いた。

「千葉大学は『教養課程』って言わないんだね」

「あ?『普遍教育』っていうみたいだな。ただ、『教養展開科目』って言葉も使っているから、あんまり内容は変わらないんじゃないか」


何の資料も見ず、ボーッと聞いているような銀河は、実はしっかり内容を理解していた。

「2年後に、自分は銀河さんに追いつくことができるんでしょうか」

「銀河は、バドミントンや家事もしながらだから、実際に勉強に掛ける時間は少なかったよ。集中すれば大丈夫」

甲次郎にはその「大丈夫」が重い言葉だった。



 全体説明の後、蒔絵は亥鼻キャンパスに、専用の送迎バスで向った。

久し振りに、兄と2人きりになって、ぽつぽつと世間話をしていたが、穂高(ほだか)は、蒔絵にどうしても聞いておきたいことがあった。

「蒔絵・・・」

穂高は、この後に続く、「銀河に、海里がやったことについて話したか?」という質問を言い出せなかった。

「何?」

今日を楽しんでいる蒔絵に、穂高は言い出せず、別の話題に振ってしまった。


「あー。どうして医学部に行きたいなんて言い出したんだ」

「穂高も『なんて』って言うんだ。それは、私の学力で無理だという意味?女子が医者になることが大変だという意味?それとも、医者になったら、家庭はどうするんだという意味?」


二人っきりになったので、口調が途端に兄妹(きょうだい)の関係に戻ったようだ。


「『なんて』にそんな深い意味はないよ。蒔絵はバドミントンで進学か、就職すると思っていたから、意外だっただけだ」

「バドミントンで、一生食べていくなんて考えていないな。選手の後は、コーチか監督でしょ?自分でやるのは楽しいけれど、人に教えたいと思わないもの」


「銀河がそれを言うなら、納得できるけれど。蒔絵は面倒見がいいから、教えるのが嫌だとは思わなかったよ」

「銀河や私が感じている世界を、人に説明できる気がしない」

センスの固まりの2人は、何度も後輩に指導をして、理解して貰えず、がっかりした経験があるようだ。


「なるほど。じゃあ、医学部を急に目指したいと思ったきっかけは何?」

「きっかけは、・・・『ブルドーザー埋没事件』かな?やっぱり、百葉村に医者がいないといけないと思ったんだ。千葉大に行けば、自宅から通いながら勉強ができるだけじゃなく、百葉村に医者をスカウトするのに役に立つと思ったんだ」


「あの時か・・・。お前達、泣いていたもんな。でも6年かかるぞ。銀河は、蒔絵の進路について、なんて言っているんだ?」

「銀河が反対すると思う?今日だって、一緒にオープンデイに来ているじゃない」


「でも、銀河は飛び入学で入ったら、3年で卒業しちゃうぞ」

「まあ、理系は普通は大学院に行くけどね」


「そうか。そこまで考えているのか。じゃあ、現役合格を狙わないとな」

「勿論、決勝で負ける時の言い訳考えていたら、勝つわけがないでしょ?それと同じ。背水の陣で臨まないと勝てないよ」

「百葉村初の医者誕生か」

「穂高が自宅で理系科目を教えてくれるのは、私のアドバンテージだから。先生、よろしくお願いします」


「ところで、医学部受験の話は、家族にした?」

「ううん。穂高にお願い。最後まで、家族に黙っていて欲しいんだ。変な反対が入ると嫌だから」


「そういうわけにいかないよ。医学部だ。学費がかかる」

「奨学金を申請するよ。県内就職だし、私が入学する時には更紗(さらさ)も大学生でしょ。共働きに2人の大学生の負担ってことで、世帯収入でも、奨学金は通ると思うんだよね。

その頃には、穂高も結婚して、家から出て行くはずだから、お兄ちゃんの収入は世帯収入に数えられないと思うし」


「2年後かぁ。おい、お前の奨学金のために、俺を追い出すな」

「だって、子供部屋2つ空いたら、銀河と私で自由に使えるでしょ?栗橋先生といい感じじゃない。結婚したら同居は嫌でしょ?」

「栗橋先生は多分僕のこと嫌っているような気がするんだ。だから、()はならないな」

(穂高は、栗橋先生のことは嫌いじゃないんだね)



 2人は自分たちの話に集中していて、周囲に注意が及ばなかったが、西千葉キャンパスから亥鼻キャンパスまで移動する送迎バスで、今の話に耳を傾けていた者がいた。

薬学部の説明を聞きに行く鯨人であった。



 一方、銀河と甲次郎は、「飛び級入学」の説明会の方に移動していた。

「銀河さん。本当に中学生の僕が行っていいんですか?」

「呼ばれたんだから、いいんじゃない?」

甲次郎は銀河の言葉を聞いても、不安が解消されなかった。


 会場に着くと、先ほどと同じように、概要や受験方法の説明が行われた。何人かが、配られた資料に書き込みをしていたり、iPadでノートを取ったりしていた。甲次郎は、リュックからノートを取り出し、話の内容をメモしだした。

 

「以上で説明は終わりです。何か質問はありますか?」

何人かが手を挙げた。甲次郎も、銀河に手をあげていいかと顔を向けた。銀河は(何で俺に確認を取るかな?)と思いながらも、「いいんじゃない?」と答えた。


 銀河は質問をする生徒をぼんやり見ながら、その出身校や志望学部を想像していた。


最初の質問者は、学ランを着た細身の生徒だった。

「千葉県出身者が有利に働くことはありますか」

(県内なのか?)

「そんなことはありません」

用意された答えを、役人のような口調(くちょう)で教授が答えた。


次の質問者は、校章が胸に着いているポロシャツを着た女生徒だった。

「募集人員は、あらかじめ決まっているのですか」

「そのレベルに達する生徒がいる場合は、何人でも取ります」

(今年は、東京周辺から流れてきた受験生も多いはずだから、千葉大は優秀な生徒を、大量に囲い込むつもりかな)


3番目に指名された甲次郎の質問には、会場から小さな笑い声が上がった。

「自分の机を貰えるって、そこには何を置いてもいいんですか?」


解答をした教授は、(この子が例の中学生だな)と思い、優しい笑顔で答えた。

「どうぞ、家族の写真でも、お菓子でも置いていいですよ」

「いいえ、自分のパソコンやプリンターとか置けるのかな?と思って」

「パソコンは支給されますし、プリンターはネットワークでつながれているんで、私物を持ち込まなくていいですよ」

教授は、再び、子供に話すように優しく答えた。


しょげて座る甲次郎の耳に、銀河が口を寄せた。

「違うよな。私物のパソコンを持ち込んで、個人的な研究なんかをしていいかって話だろう?」

甲次郎が頷いた。銀河達の後ろにいた中性的な顔をした生徒が手を挙げた。

「すいません。自分の机で、個人的な研究や副業をしていいですか」


数人の教授で話し合って、代表が答えた。

「ものに寄りますね。機密事項を外部に流出されると困りますし、学業がおろそかになるといけませんから」

手を挙げた生徒は、銀河の肩に手を置いた。

「ここで考えられる副業って何かある?」

「えー?プログラムの練習で作ったゲームとか、委託されて作っているHP(ホームページ)の編集作業なんかが考えられるかな?」

教授は銀河の言葉を聞き取って、答えた。

「それは入学してから、個別に判断させてください」



 説明会が終わってから、昼食時間になった。甲次郎は、振り返ってさっきの生徒に頭を下げた。

「ありがとうございます」

「え?何、自分の質問をしただけだよ」

甲次郎はまた、突き放された気がした。いつも優しく話を聞いてくれる里帆と一緒にいると、こういう関係に戸惑うようだ。


「甲次郎、学食に行くぞ」

「僕も一緒に行っていい?僕、F学園の武藤火狩(むとうひかり)

「ああ、神奈川の」

F学園は神奈川県の有名私立で、T大学生を2桁以上出している。

「他に一緒に来た子もいるんだけれど、別の学部を見に行ったんだ」


 銀河が別に断りもしなかったので、3人で生協のフードコートに向った。土日は休みなので、オープンデイに合わせて、焼きたてパンや定食が用意されていた。


 フードコートに着くと、航平が声を掛けてきた。

「銀河ぁ。良かった。もう食べちゃったと思った。あれ?知り合い?」

「今、知り合った。F学園の武藤火狩さん」

 火狩は、チェックのスラックスを履いて、髪は肩まであるが、自分のことを「僕」呼びしている。

甲次郎もさっきから、火狩の性別について首を(かし)げているが、銀河は「火狩さん」と迷わず、呼んだ。

航平は、(え?女性?聞くのもどうかな)と悩んで、その話題を避けた。


「航平は、理学部に行ったんだろう?どうだった」

「うん。まあ、学部の説明の後、校舎見学したな。学科は悩み中だけれど、ここの理学部受けたい気になった」


「そっか、俺たちはこれから、各希望学部を回るんだろうな。集合は1時って言っていたよな」

甲次郎は、リュックからノートを取り出して再確認しようとしたが、火狩がすぐさま、「1時、けやき会館入り口だよ」と答えた。


「菱巻銀河君は、何学部?」

「ん?俺名前教えたっけ」

「えへ。実は僕、百葉村の未来TECに従兄弟がいるんだ。君の噂は色々聞いていたんで、会いたいなと思っていたんだ」


 嫌そうな顔をした銀河に気を使って、航平が話を続けた。

「俺も父親が未来TECの社員なんだ。良かったら、従兄弟さんの名前を教えて」

相場結城(あいばゆうき)って言うんだ。今年入ったばかりの社員だよ。なんか、村の合同体育祭に参加したり、『(ゆい)』って言うの?屋根の灰をみんなで落としたり・・・。アットホームで楽しい村なんだって?」

「その話の中で、銀河の名前が何で出てきたの?」

「ブルドーザーから人命救助をしたのが、高校生だって・・・」


銀河の顔が固まった。

「俺の家族が死にかけた話な」

「でも、みんな助かったんでしょ?格好よかったって、結城君、YouTubeも送ってくれたんだよ」


航平が、立ち上がろうとした銀河を引き止めて、火狩(ひかり)に説明した。

「火狩君、あのYouTubeで、ストーカーが来たりして大変だったんだ。銀河もあの事件を思い出したくない。だから、その話を()めてくれる」


火狩は目を見開いて、立ち上がった。

「ごめんなさい。そうですよね。配慮が足りませんでした」

そう深々と頭を下げた。フードコートにいた高校生達は、その姿に注目した。


「あー。見つけた。火狩(ひかり)ちゃん。何しているの」

数人のチェックのスカートの少女達がやってきた。チェックの模様は、火狩のスラックスと同じだ。そして、その少女達が、火狩の腕にしがみついてきた。


「火狩、なんで謝っているの?いじめられているの」

火狩の友人達の責めるような言葉に、銀河は、何も言わず立ち上がった。航平が慌てて声を掛けた。

「じゃあ、3時に駐車場だから」

銀河は、振り向かずに手だけ挙げて、午後の集合場所に向って歩き出した。


甲次郎があたふたと銀河を追いかけた。

「怖かったね。どれが、火狩君の彼女なのかな?」

「ただの女友達じゃないのか?」

「だって、火狩君ってモテそうだったよ」

(ふーん?ああいうのがモテるのか?)



 火狩は、自分の友達が再び、銀河達に失礼なことをしないように、事情をしっかり説明した。そもそも、従兄弟からの情報を、友達にも見せて、キャーキャー言っていたのは自分なので、かなり落ち込んだ。しかし、午後も色々な会場で会う可能性があるので、恥を忍んで、友達に説明を繰り返した、


「えー。でも、YouTubeで見た『菱巻兄弟』って、色黒で精悍(せいかん)な感じだったよね」

「夏が終われば、日焼けが()めたんじゃない?」


「でもね、一昨日、従兄弟から送られてきた文化祭の写真だったら、今みたいな感じなんだよね」

 火狩のスマホには、鰹縞(かつおじま)(ひとえ)の着物を鯔背(いなせ)に着こなした銀河が、アプリの説明をしている隠し撮りが送られてきていた。それを見た友人は、首を(かし)げた。


「まあ、これはこれで格好いいんだけれど、銀河君って、バドミントンのJr(ジュニア)の日本代表なんでしょ?少し太りすぎなんじゃない?」

別の友人は、写真をじっくり見た。

「まあ、相撲取りだと思えば、胸板も厚いし、目元も涼しげだし、有りだな」


 大変失礼な感想である。


 火狩は、友人達と違う感情を銀河に持っている。それを言葉にすると「憧れ」というのなだろうか。

実際、午後の「情報データサイエンス学部」会った時は、胸が高まったし、その後の模擬講義の会場でも、銀河が座っている場所がよく見える位置に席を取った。


 会場から出る時、再度勇気を出して、火狩は銀河に声を掛けた。

「あの、さっきは本当に失礼しました。また、試験会場で会いましょう」

銀河は面倒くさそうに、答えた。

「俺は高校1年なんで、今年は受験しません。あっ、痛」


銀河が誰かに背中を叩かれて、それまで見せなかった笑顔で、振り返った。

「蒔絵の馬鹿力」

「そんなこと言うと、銀河のために買ってきた亥鼻キャンパスの学食パンをあげないよ」

紙袋に入ったアンパンを蒔絵が、銀河の目の前で振ると、銀河はすぐさま蒔絵の手首を掴んで、アンパンに(かじ)り付いた。


 火狩は、2人のやりとりに胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。


 蒔絵は、銀河に腕を(つか)まれて、少し顔をしかめた。銀河はすぐ、その変化に気づいた。蒔絵の手首には、海里が強く掴んだ(あと)が、まだくっきり残っていた。

「どうした?この腕」

「今日、来ていない人に掴まれた」


銀河は、ぎりっと奥歯を噛みしめた。

「いいじゃない。今日その人は来ていないんだから」

蒔絵は何でもないと言うような調子で答えた。


 銀河は、2人を見つめていた鮫島先生の視線に気がついた。先生が逃げ出す前に、銀河はその腕を掴んだ。そして、低く抑えた声で聞いた。

「鮫島先生、田中先生と海里はどうして今日来なかったんですか?」


鮫島先生は、蒔絵に視線を送った。蒔絵は、人差し指で小さくバツを作った。

「2人はもう来ません。僕は、蒔絵さんから何も聞いていないので、蒔絵さんに直接聞いたらどうですか?」

鮫島先生は、「先生モード」に戻って答えた。


 銀河は、蒔絵を振り返った。蒔絵は首を傾げて、にっこり笑うだけだった。

銀河は、そこでも深呼吸をした。多分、今聞いたら冷静でいられる自信がなかった。蒔絵が話したくなるまで、待つしかなかった。


 バスでは、蒔絵が銀河の横に座ってきた。

バスが走り出すと、蒔絵が銀河の耳に口を寄せてきた。

「心配したと思うけれど、あの晩、銀河にいっぱい()()して貰ったから大丈夫だよ」


 銀河は目をつぶって、文化祭の晩のことを、一つ一つ思い出した。

口を覆って、静かにしている銀河を蒔絵は見つめた。

(正解にたどり着いたかな?)


 後ろの席の鮫島先生は、椅子の隙間から、2人が肩を寄せ合って寝ているのを見た。

(一件落着なのかな?しかし、我が妹ながら、蒔絵は何を考えているか、よく分からない。本当に医学部進学について、黙っていてもいいのかな?まあ、学力が追いつかなければ、すぐに諦めるだろう)


 穂高には、最後まで、蒔絵という人間を理解することはできなかった。

千葉大学のオープンデイを「参考」にさせていただきましたが、すべて、創作です。

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