63 文化祭が始まった
リウマチの薬が上手く適合したお陰で、鈴音の生活は好転した。蒔絵が提案したとおり、毎日、双子のうち1人と過ごすことにして、ゆったりとした子育てをすることにした。その生活は、鈴音の心にも体にも良い影響を与えるようになった。
文化祭の朝も、鈴音は祖母と一緒に、弟たちと鮫島姉妹の浴衣の着付けをしていた。
「更紗は、おばさんの若い時によく似ているのね。おばさんの浴衣がよく似合うわ」
バドミントンを引退してから伸ばし始めた更紗の髪は、アップにまとめられ、揺れる髪飾りがよく似合っている。
「鈴音さん、襟をもっと抜いてくださいよ。あんまり詰まった襟だと、肩幅が広いのが目立つ気がする」
「そんなことないよ。あんまり抜くと、女郎みたいだから、このくらいがいいの。ほら、紫苑が嫌らしい目でじっと見ているじゃない」
「姉ちゃん。誤解を招くようなこと言わないで」
紫苑も、鉄次のお下がりの、鰹縞の浴衣を鯔背に着こなしていた。勉強で忙しくて、文化祭の準備になかなか加われなかったが、文化祭当日は人手も足りないので、巡回係に回ることになっていた。と言っても、巡回という名目で、更紗を見せびらかしたいという意図が見え見えであった。
蒔絵はと言うと、最近夜遅くまで勉強しているせいか、少しほっそりしたので、補正のタオルを1枚減らして着付けて貰った。肩まで伸びた髪を、まとめて可愛いリボンで結んである。銀河も、そのうなじに視線が離せなかった。白地の浴衣なので、日中は下着が透けないように、腰をすっぽり覆うエプロンを身につけて歩き回ることにしている。
エプロンは、女子全員が、お揃いのひよこのアップリケを付けた。「ひよこの部屋脱出ゲーム」という高校1年生クラスのマスコットが、ひよこなのだ。
着付けが終わって、蒔絵が、藍を抱いて登校しようとすると、すっと、銀河が藍を抱き上げた。
「着崩れると困る」
言葉は少ないが、藍のよだれがついたり、藍に襟をいじられて着崩れたりしないように気を使ってくれたのだ。
「ありがとう。夕べ、銀河の作った『脱出ゲーム』やってみたけれど、面白かったよ」
「お世辞ありがとう。子供だましだから・・・」
何故か少し棘のある言葉が帰ってきたので、蒔絵は自分が何かしたのかと我が身を振り返ってみた。心当たりはなかった。しかし、蒔絵はすぐ気持ちを切り替えた。
「気にしてもしょうがない。今日、文化祭が終わったら、聞いてみよう」
文化祭は、8時半に各クラスでHRを行った後、10時まで最終準備。そして、10時から16時まで一般公開。その後、そのまま、体育館での百葉村挙げての盆踊り大会に移る。生徒は盆踊りに参加してもよいし、夜店を楽しんでもよかった。
夜店は村の人達が運営する。金魚すくいや射的、チョコバナナに林檎飴。子供達は非常に楽しみにしている。
電源の容量の関係で、体育館の中で焼きそばなどの調理はできないが、夜店の間は学食も開いているので、焼きそばやフランクフルト、鯛焼きなども食べられる。体育館と学食には冷房も効くので、そこまで暑いわけではないが、かき氷や冷やしフルーツなども用意されている。
村祭りは7時までで、最後に浜辺で花火が上がる。百葉高校の卒業生有志が寄付したもので、真っ白な大輪の菊のような花火が1発だけ上げられる。
それは、地震や津波で被害者が出なかった百葉村から、神様へ感謝の1発なのだ。富士山の噴火が収まったので、村人全員でグランドに出て鑑賞することになっている。
誰が言い出したのか分からないが、「花火の火花が消えるまでに告白したら、恋が実る」という噂が中高生の中で広がっていた。
「お早うございます。皆さんよく眠れましたか?」
朝のHRで、田邊先生が、普通クラスの生徒に声を掛けた。多方面で忙しかったらしく、先生の目の下には隈ができていた。それに引き換え、高校生は浴衣や法被姿で、目をキラキラさせている。女生徒は、自分たちでできる範囲で髪を結い上げ、うっすら化粧もしている。
体育祭では禁止されていたが、文化祭ではどれも「衣装」と言うことで許されているのだ。
浴衣を着る生徒は、事前に大分着付けを練習をしてきた。しかし、どうしても上手く着られない者は、茶道部の茶会の準備のために登校している小百合さんに、手助けして貰っていた。
「今日の予定は、皆さんのスマホに送っておきました。手首にタグを巻きましたか?このバーコードをかざすと文化祭で1,000円、村祭りで1,000円分の買い物ができます。現金決済はないので、貴重品はロッカーに入れて鍵を掛けておいてください」
手首のタグをつけていない者は、会場に出入りできないことになっている。校門や生徒玄関などに、センサーが設置されていて、タグなしで通過する者がいた場合は、ブザーが鳴り、防犯カメラにその写真が記録されることになっている。
今日も手ぶらでHRにきた田邊先生は、ふと連絡事項を忘れてしまった。
「後、何でしたっけ?」
翔太郎が助け船を出す。
「今日のHRはこれだけで、盆踊りが終わったら自由解散でいいんですよね」
「ああ、そうそう。花火の後は各自気をつけて帰宅するように。銀河さんは、藍ちゃんを忘れないでください」
教室から笑いがこぼれた。蒔絵と対になった浴衣で登校した銀河は、既に作業用に、たすき掛けをしていた。
「16時に、姉ちゃんと義兄さんが迎えに来ます。家族でお祭りを楽しむんだそうです」
ふっくらした腹に角帯が、きっちり巻き付けられており「ザ・日本人」という着付けになっていて、それなりにかっこがいい。女子達がこっそり盗み見ていた。
田邊先生は、もう一つ言うべきことを思い出したようだ。
「ああ、明日は9時に教室集合で、それから後片付けです。そして11時に体育館で表彰式と閉会式です」
翔太郎が、クラスメートに向って拳を上げた。
「優勝するぞ!」
「おー」
気乗りのしない声がいくつか上がった。優勝より、恋愛の方が高校生には大事なようだ。
またまた翔太郎が手を挙げた。
「先生、月曜日は代休ですよね」
「皆さんは、無理に休まなくてよいですが、私は休みます」
教室の後ろで、鮫島先生は頭を抱えた。文化祭のパンフレットも印刷してあったはずなのに、田邊先生は、数日前、QRコードで保護者にパンフレットの画像を送ってそれきりだった。最近は生徒も保護者もその流儀に慣れてきたので、誰も文句を言いに来なくなっていた。
朝のホームルームが始まって、各自が最終準備に動き出した時、蒔絵と銀河が田邊先生に呼ばれた。
「明後日は、9:00に校門の前に千葉大学行きのマイクロバスが停まります。昼は大学の学食が使えるそうです」
「はい」
元気に答える蒔絵の横顔を、銀河はこっそり見つめた。お互い、まだ、どの学部を見学するかという話をしていなかった。
「みなさん。10時なりました。一般公開の時間です」
校内放送が聞こえると同時に、前半の担当がスタンバイの位置に着いた。高1のクラスも午前3時間と午後3時間の2班に、教室にいる解説担当が分かれている。
ゲームを作った銀河は前半の担当なので、後半担当の蒔絵は、里帆と一緒に校内を見て回ることにした。
2人はお揃いの鈴が入った髪飾りを付け、エプロンをひらひらさせながら、小学生の展示から見て回った。
「教室の展示の中に、美術部の作品も一緒に展示して貰って、助かった。例年、部員が少ないから、文化祭の時は、ずっと美術室に貼り付きだったんだもん。今年は見て回れるから嬉しい」
「里帆ちゃんの双子の成長記録のスケッチ、最高だね。双子の油絵も、脱出ゲームのヒントに使わせて貰って、こちらこそ、ありがとうだよ。鈴音ちゃんが、双子の記念に『油絵を買いたい』って言っていたよ」
「えー。そんな、プレゼントします」
「そんなこと言わずに、1万円でも2万円でも貰えばいいじゃん。16時に教室に鈴音お姉ちゃんが来るから、その時、絵を渡せばいいじゃない?」
小学生の教室の廊下で、海里が2人を待っていた。
「海里も後半が担当なの?」
「銀河の代わりに、後半は俺がゲームの説明をするからね。まあ、昨日遅くまで、銀河が確認していたから、ゲームの方は大丈夫だけれど、『リアル脱出ゲーム』の方のバグがあるかの確認が不十分で不安」
不安がる海里を尻目に、銀河に対して絶対的信頼がある蒔絵は、胸をぽんと叩いた。
「バグがあったら、午前中に分かるでしょう?銀河が直しておいてくれるよ。午後は大丈夫」
「まあ、そうだろうけれど、蒔絵はそんなに綺麗な格好しているのに、ゴリラみたいに胸を叩くなよ」
蒔絵は、今日始めて褒められて、ニヤニヤした。
「綺麗なんて・・・ありがとう。海里は正直だね」
「『馬子にも衣装』なんて言わないよ」
そう言いながらも、蒔絵のうなじから目が離せなかった。
「さあ、里帆。弟君の展示を見に行こう。あれ?人だかりができている」
「百葉村の風景」のジオラマは、最後の1週間で大きな変貌を遂げていた。
地震前の「百葉村の風景」は、朝の光に輝き、BGMはビバルディの「春」第1楽章が流れていた。地引き網をする漁師が動いたり、小学生が元気に登校したりするなど、至る所に動きがあった。
どれも下で小学生が、ペープサートで動かしているのだ。
3Dプリンターで外枠を作った外房線は勿論、電池で動いている。何度も往復するプラレールに、見学する子供達は目を輝かせていた。
海岸沿いの国道には、航平が貸しだした自動車の模型が並んでいた。道路自体が動くようになっているので、通勤時間の自動車のように動いていた。道路が書かれた紙を動かすため、6年生が、机の下で大きなローラーを一生懸命回している。
空に浮かぶ、折り紙で折ったトンビも、釣り竿に付けて6年生が揺らしていた。
浜辺には、菱巻家が運営していた「海の家」もあり、海水浴客や釣り人が海岸を楽しそうに歩いていた。人間は流石に折り紙で作ることができないので、子供達が描いた絵を縮小印刷して立ててあった。人力のギミックが多くて、微笑ましいジオラマである。
突然、津波を知らせるサイレンが鳴った。BGMが、ビバルディの「夏」第3楽章に変わり、バイオリンの激しい調べが響き渡った。
穏やかな朝の風景に突如、地震と津波がやってきた。
山が一部崩落し、道路が陥没する。青いビニールテープを裂いて作った波が、海岸線を洗った。未来TECの社屋も、あと少しで最上階まで届くかと思う津波に襲われた。社屋は、屋上から光りを取り入れる吹き抜け構造なので、窓が一切ないが、屋上まで津波で覆われると、今度は誰も避難できない。ビニールテープの波の中に、ぽつんと社屋だけが浮かんだ。見学者の笑顔が引きつった。
しかし、津波は未来テックの社屋をすべて飲み込む寸前に、引き波に転じた。
波が引いた後は、転覆した船が一艘、浜に残されていた。海の家は骨組みだけになった。線路は壊れ、浜には材木が大量に流れ着いていた。
曲は突然、ビバルディの「冬」第1楽章に変わる。雪の代わりに降り続くのは、富士山の灰。
流石に本物の灰をジオラマの上に降らせると、第2回目ができなくなるので、ジオラマの前に透明なビニールシートを垂らし、そこに灰が降る映像を映し出した。
ビニールシートの向こうのジオラマでは、屋根の上から灰を落とす村人達が現れた。村人総出で、灰を除去した記憶が呼び起こされる。
そして、浜辺の灰を除けるため、ブルドーザーが浜辺を走り出した。これは、クラスの予算で、ブルドーザーのラジコンカーを買って走らせた。ガタガタの砂浜に走るブルドーザーは、なんと大きな穴に落ちてしまう。見学者はダンプカー埋没事件を思い出した。カラカラとむなしく回る車輪に気を取られていると、その後に、村人の見たことのない事件が起こった。
灰が降る風景が一転して、土砂降りの雨が降る風景に変わるのだ。その向こうで、今度は崩落した山から大量の水が流れ落ちてきた。折り紙で作った熊や猪などが、山から町に避難してきた。
突然、稲光が鳴り、百葉村の電源がすべて落ちる。ジオラマの電気が暗くなる。一瞬をおいて花火が上がる音がする。子供達が貼り絵で作った花火の絵が描かれた幕が、ジオラマの前を遮った。
そこで、曲調が替わり、ビバルディの「秋」第1楽章が流れてきて、花火の幕が上がると、未来TEC社屋と、百葉村立百葉高校、そして村役場の上に巨大な太陽光パネルが、皓々と光り出した。自家発電の電源が村を救ったのだ。
そして、最後に再び「春」の第1楽章が流れてきた。
壊れていた外房線が復活し、2車線道路も復活し、そして、町までの新たな路面電車まで走り出していた。見学に来ていた上村航平の父親も、新設の路面電車を嬉しそうに眺めていた。平和な未来の「百葉村の風景」で、ジオラマ劇場は終わった。
最後に、ギミックを動かしていた小学生が、机の間から顔を出して、頭を下げて挨拶をした。帆希が代表して廊下に前に出てきて、アンケート用紙を配った。
「中学2年生の『大正ロマンメイド喫茶』で、このアンケートを回収しています。新しい路面電車のデザイン案を、是非描いてください。閉会式で、素晴らしい路面電車のデザインには、『未来TEC賞』が出ます」
甲次郎のクラスとのコラボ企画を作ったようだ。未来TECとも上手く交渉したようだ。
見ている大人の中には、涙を流している人もいた。人の心を動かすことができたようだ。
小学生達は残念ながらそれを実感する間もなく、必死で、次の回までにセットを組み直さなければならない。帆希と和帆は、姉を見つけて、手を小さく振った。
「すごいね。小学生の作品と思えない」
蒔絵の賞賛に、里帆は恥ずかしそうに微笑んだ。背景の書き割りは里帆の描いた絵を、スキャナーで読み取って、拡大カラーコピーしたものだ。小6の担任が、学校のプリンターを駆使してくれた。
「翔太郎君の弟の甲次郎君が、ギミックの手伝いしてくれたの」
当の甲次郎は、中学2年の教室で、アンケートを回収していた。
甲次郎は、2学期の始業式の日に、出口監督に申し出て、野球部を円満退部した。
自宅に戻って、退部したことを親に報告し、「本当に自分が学びたいのは、ロボットプログラミングなのだ」と訴えた。食事に関しても、毎朝、自分が食べたいものを自分で作って食べるようになった。そこから、親との関係も上手く修復できたようだ。
翔太郎は、里帆の家に行く口実がなくなって、少しがっかりしたが、甲次郎が毎日元気に登校するようになったことは嬉しかった。
蒔絵と里帆の後ろを、海里は巡回と称して、つかず離れず歩いていた。
蒔絵と里帆は、小学生の甚平ファッションショーを覗き、中学2年の会場で、アンケートに答えた。途中で紫苑と更紗のカップルに会った。
「更紗のクラスは何をやっているの?」
蒔絵の質問に、更紗は悪戯がバレた時のような笑顔を見せた。
「菱巻鉄次講師を呼んで、『サバイバル体験教室』」
「ずるーい」
「だって、オープンキャンパスや就職試験対策で、みんなが集まれなかったんだもん。私達も、ほとんど顔を出せなかったし・・・」
3年の教室の中では、ロープワークの体験や、非常持ち出し袋の展示。日常その辺にあるもので、非常時に使えるアイディアなどが紹介されていた。そして、何故か、鉄次と一緒に写真を取りたい生徒の列ができていた。それを見て、紫苑はそそくさと、会場を後にした。蒔絵も、紫苑達が逃げ出した理由が分かったので、特進クラスに向った。
そこには、普通クラスのなぞを解いたグルーブが、次のなぞにチャレンジしていた。
「蒔絵ちゃん。この部屋のなぞを解くと、その後はまた、普通クラスに戻るんだよね」
「うん。じゃあ、教室棟から出て、普通クラスに向おう」
普通クラスは、当然、ゲームを始める人の受付に長蛇の列ができていた。勿論、中はこれからスタートする人と、戻ってきた人でごった返していた。あまりの混雑に、時間待ちのため、銀河が作った「脱出ゲーム」を始めている人もいる。
「翔太郎君、嬉しい悲鳴だね」
受付で入場する人をさばいている翔太郎に、里帆が声を掛けた。
蒔絵は銀河に話しかけようとしたが、ゲームに関する問合せで、客の対応をしていた。
銀河に、こっそりカメラを向ける中学生がいたので、それを遮るように蒔絵は銀河の側に寄った。顔を上げた銀河は、「先に飯を食ってこい」と口の動きで伝えてきた。
確かに1時から担当に入る蒔絵達は、今しか昼食のチャンスはない。後ろ髪を引かれる思いで学食に向った。学食もかなり混んでいた。ふと見ると、海里が席を取っておいてくれた。
「ありがとう。海里はこれから食べるの?」
「まだ、これからカウンターに行くんだけれど、希望があったら買ってきてあげるよ」
蒔絵と里帆はその好意に甘えて、席に着いた。
「お待たせ。ホットドッグとオレンジジュースセットでいいんだよね」
「ありがとう。海里も私達と同じ量で大丈夫?」
「銀河や翔太郎みたいに、豚骨ラーメンは食わないよ」
「あー。銀河は私のいない隙に、また豚骨ラーメンを食べたんだ。だからあんなお腹になっているんだ」
「あれ?蒔絵は、ぽっちゃりお腹が好きだったんじゃないの?」
「触るのはいいけれど、あんまり出ていると不健康だよ」
「触る」という言い方に里帆が突っ込んだ。
「蒔絵ちゃん、その言い方エッチ」
「そうかな?でも、着物を着るのには良かったみたい。今朝、鈴音お姉ちゃんに、『補正がいらなくていい』って褒められていたから」
里帆は、鈴音が東京に帰ると、また双子に会えなくなるので、不安になった。
「ねえ、鈴音さんっていつまでこっちにいるの?」
「お姉ちゃんはね。1年育休取っていて、通院もあるから、お正月までは少なくともいるよ。その後は、こっちへの転勤が許されれば、こっちにずっと住むことになると思う」
「転勤できるといいね」
双子と離れたくない里帆は、心の底からそう思っていた。
「まあ、嫁姑戦争もあるみたいだから、お姉ちゃんとしては帰りたくないだろうな」
「蒔絵ちゃんは、姑がいい人で良かったね」
海里が突っ込んだ。
「そんな将来のこと、決まっていないだろう?」
「そんな将来じゃないよ。18歳で成人だし」
「いや、蒔絵は、医学部受けるんだろう?」
蒔絵は、(何故、それを知っている)という目で、海里を見つめた。海里は慌てて言い訳をひねり出した。
「だって、日曜日のオープンキャンパスに亥鼻キャンパスに行くだろう?」
蒔絵は冷たい声で答えた。
「亥鼻キャンパスには、薬学部も看護学部もあるのに、どうして医学部って思ったの?」
いつも冷静な海里は更に墓穴を掘ってしまった。
「いや、俺も医学部に行くんで、一緒だといいと思って・・・」
蒔絵はトレーを持って、すっと立ち上がった。
「里帆ちゃん。時間だから教室に行こう」
蒔絵は焦った。
銀河に相談する前に、海里が自分の進路を知っているのはまずかった。
例え、海里が父親から聞いていたにしても、一刻も早く、銀河と話をしないといけない。
(誤解を解くのは、大変なんだよね)
「里帆ちゃん、学食での話は、聞かなかったことにしてくれない?私忙しくて、銀河と進路の話をしていないんだよね」
「うん。分かった」
しかし、その後、蒔絵はなかなか銀河に会うことができなかった。
私の卒業した高校は、体育祭と文化祭が続けて開催され、文化祭の夜に2つの祭りで使ったものを、キャンプファイヤーで燃やしていました。高校生は(文化祭にやってきた他校生も含めて)その回りを、ぐるぐる回りながら踊ったんですが、火に近づくと、離れろとばかりに、朝礼台の上に乗っていた応援団長から、バケツで水を掛けられたものです。滅茶苦茶な高校時代だったなぁ。