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3 鮫島先生は困惑した

今回の作品は、前回の反省から、一話を短くすることにしました。毎日軽い気持ちで読んでください。

 鮫島(さめじま)先生は、教科書販売の仕事が終わった後、職員室に戻った。近嵐(ちからし)教頭にお願い事をするためだ。衆人環視の中、生徒から土下座されるのも困るが、引き受けた仕事はどう考えても、鮫島にとって気が重い仕事だった。


「鮫島先生、お仕事終わりましたか?」

こちらが声をかける前に、近嵐教頭から声をかけられた。

(もうバレたのか?)

冷や汗をかきながら、近嵐教頭のところに行くと、全くの別件で呼び出されたということが分かった。


「鮫島先生、ご紹介します。4月から本校の数学と情報処理を担当なさる田邊義崇(たなべよしたか)先生です」

「お久しぶりです。穂高(ほだか)先生」

目にいたずらっぽい光を宿して、挨拶してきた男を鮫島先生は知っていた。


「あぁ?義崇(よしたか)・く・ん?」

「覚えていてくださったのですね」

「田邊先生は、鮫島先生の中学高校の同期生だったのですよね」

「あっ、はい。でも、田邊・・・先生は、東京電力にお勤めでしたよね」

「そうなんですが、余りに激務なので、すぐ退職しました。折角、子供も生まれたのに、子供の寝顔しか見られないなんて、悲しいじゃないですか」

 

 田邊先生は、ツーブロックのショートカットに、鼈甲(べっこう)のラウンド眼鏡をしていて、スーツもその辺の量販店のもではないところが、給料の良い会社で働いていたことを示していた。そして何より、結婚式の二次会にでも行くようなよく磨かれた革靴が、いかにも教員というナイキの運動靴の隣で輝いていた。

 

 ニコニコ笑っている田邊先生の隣で、肩を丸めた鮫島先生が立っているのを見て、近嵐教頭は「鮫島先生には荷が重いかな?」と考えたが、それを顔に出すことはなかった。


「積もるお話はあるでしょうが、田邊先生は今年新採用と言うことで、同じ年齢ではありますが、鮫島先生には『指導教官』をお願いします」


 鮫島は採用3年目で、「今年こそ担任に入るか」と思っていたが、なかなか声がかからなかったことが不思議だった。その理由は、「新任教員の指導教官」という仕事だったのかと、今、納得した。


 しかし、もともとは「指導教官」は、田中先生に割り振られた仕事だった。ところが田中先生は、どうしても息子の担任になりたかったので、再三の校長の依頼を固辞した。

そのため、鮫島先生に「指導教官」が回って来たのだ。


「では、鮫島先生、田邊先生が折角おいでになったので、校舎のご案内でも・・・」

そこまで言われて、鮫島先生は重大案件を思い出した。


「あの教頭先生、実は新入生登校日に、菱巻銀河君が、お姉さんの赤ん坊を学校に連れてきたんです。それも双子の」

「どうして連れてきたのですか?」


「はい。お姉さんは今日、東京にいるご主人のところに行っていて、赤ちゃんの面倒を見る人が家にいないと・・・・。それで、数学の試験の時に、隣室にベビーベッドを置きたいとの申し出があったんですが、教室の使用届を受理して貰えますか?」


「それはいいですが、隣の教室で泣き出したらどうするんですか?」

「銀河君が、テストを中断して、迎えに来るそうです」

「それで、鮫島先生がテストの間中、双子を見ていると?」


 田邊先生が小さく手を挙げた。

「自分の子供は1歳なんで、少しは子供の世話が出来ます。数学の試験は何時(いつ)からですか?自分も双子の子守に協力しますよ」


「あら、いいかしら。その隣の隣の教室では、進学補習をしているので静かにして貰わなくてはいけないの。2人で見ていただけるなんて有り難いわ」



 職員室を出ると、すぐ鮫島先生は、田邊先生に感謝した。

「義崇。助かったよ。流石、今時のお父さんだな。おむつ替えたりミルクあげたりできるんだな」

「いや?したことなんかないよ。『寝顔しか見られなかった』って言っただろう?」

「さっきは『少しは子供の世話が出来ます』って言ったじゃないか」

「まあ、勢いで言ったな。でも、双子って面白そうじゃないか」


 鮫島先生は、4月からの1年間、この男の指導教官を上手くやれるのか、かなり不安になった。

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