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25 衣装代は1人700円だった

昔の制服って、意外と捨てられない人っていますよね。

 体育祭の要項が各クラスに流れたのは、体育祭2週間前だった。プログラムもルールもほとんど変更なかったが、1ヶ所大きな変更があった。それは「未来TEC」の社員もパフォーマンスに参加するということだ。


 蒔絵達の父親は「未来TEC」の社員だが、どんなパフォーマンスをするか、家族にも秘密にしていて、休みの日に蒔絵が菱巻家に出かける時も、最近は「ゆっくりしておいで」などと言う。どうも、自宅でこっそり練習しているらしい。


 1年生のクラスでも、出し物は決まった。TVの清涼飲料水のコマーシャルで、高校生が踊るパフォーマンスを真似することになったのだ。最初は、色々なスポーツのユニフォームを着て踊ろうという話だったのだが、特進クラスの女子の一言で、衣装に大幅な変更が加えられた。


「どうせなら、仮装で踊りたい」

「衣装代は?1チーム3万円だよ。1人700円程度でどんな衣装ができる?」

海里(かいり)から現実的な反対が入った。


「ん~。制服をアレンジしたら?」

「例えば?」

「校則違反の制服を敢えて着る。ミニスカートとか、ルーズソックスとか、金髪とか・・・」

「長ランとか、ボンタンとか」


「それって、何の仮装になるの?」

田邊先生が気乗りしなさそうに(くちばし)を突っ込んできた。


「『百葉(ももは)卍リベンジャーズ』とか・・・」

「みんなで、不良の格好する訳ね」

田中先生も軽蔑するような口調だった。大人受けしないと言うことが、2人のリアクションからも分かる。


 突然、翔太郎が大声を出した。

「じゃあ、漫画『呪術高校』の高校の服って、どうかな?」


「呪術高校」という漫画は、現在、中高生から大人まで大人気の漫画で、呪霊を払う呪術師になる勉強をしている高校の話で、生徒の着ている制服は、それぞれ大分アレンジしてあって、なかなかお洒落(しゃれ)である。


話が決まらないことに、イライラしていた銀河は切り札を切った。

「田中先生の『三条先生』、鮫島先生の『八海先生』なんかも見てみたいよな」


 田中先生は、漫画中で最も人気があるキャラで、持ち上げられて、まんざらでもない空気を(かも)し出した。銀河が、海里に目配せを送った。海里は、自分の父親を持ち上げた。


「その一時(いっとき)だけ、白い髪にして、黒いサングラスかけたら、(すご)くいいよな。みんな」

空気が読める生徒は心を1つに合せて、田中先生をおだてまくった。


負けじと、蒔絵も兄を持ち上げた。

鮫島(さめじま)先生は、背も高いし、肩幅も広いし、サスペンダーして、『ここからは、時間外勤務です』って言ったら、凄くカッコいいと思います」

「キャー」

乗りのいい女生徒何人かが、嬌声を上げてくれた。


こっそり、教室の後ろのドアから出て行こうとする田邊先生に気づいて、翔太郎が、声を上げた。

「田邊先生は、どの先生がいいですか?」

猫巻棘(ねこまきとげ)で・・・」

「生徒じゃないですか」

銀河が少し考えて、ひらめいた。

「あー。でも、拡声器持って『動くな』とか言ったらいいよね」


 担任達が、なんとなく納得してくれそうな雰囲気なので、生徒達は、誰のキャラクターになりたいか、それぞれに立候補しだした。キャラが(かぶ)っても気にしないことにしたので、揉めることはなかったようである。

 衣装は個人の責任で、700円以内で、制服を改造するか、手持ちの衣装を改造するということで話は決まった。

 ダンスについては、特進クラスのダンススクールに通っていた生徒が、練習映像をみんなに送ってくれたので、1週間以内にダンスはマスターするという厳しいミッションが与えられた。勿論、担任の先生方もだ。


「銀河は何をやるの?」

蒔絵と里帆が興味を持ってやってきた。

「パンダ先輩」


「え?」

「いいだろう?古くなった長Tシャツの腕の部分を黒く染めて、白いトランクスに黒いスパッツ穿けば、パンダのできあがりだ」


「まさか、目の周りを黒く塗って、パンダ耳つけるの?」

「うん。鈴音姉ちゃんが、ネズミ-ランドで買ってきた熊耳を、黒く染めればいいんじゃないかと。蒔絵と里帆はどうするんだ?」


「蒔絵ちゃんは名前の通り、禪院蒔絵(ぜんいんまきえ)。私は、嫁入硝子(よめいりしょうこ)

「いいな。煙草をくわえた里帆ちゃん。ギャップ燃えしそうだ。蒔絵は、制服をあまり詰めるなよ。暴れると破れるからな」

「そんなに詰めないわよ」


 銀河は、制服を詰めると、蒔絵の胸が強調されるので、そんなことを言ったが、当然、蒔絵が気がつくはずもなかった。

 


 その後は仲良しグループに分かれて、「何の役をするか」や「どう制服の改造をするか」の話を始めた。

「海里は何やるんだ?」

「決めてな~い。主人公は、5人も希望者がいるんだ。やる気なくすよな」


里帆がなんの悪意もなく、素朴な意見を述べた。

「『三条先生』と、高校時代友達だった夏冬傑(げとうすぐる)なんて似合いそう」

全員が息を止めた。銀河がその場の空気を察してフォローに回った。

「海里、無理しなくてもいいんだよ。親子で(つい)の役なんて嫌だよな」


 海里は周囲を見回した。

「なんか、みんな勘違いしているんだね。教師としてはどうかと思うところはあるけれど、俺は、親父のことは嫌いじゃないよ。あの人、不器用なんだよね。昔の価値観からなかなかバージョンアップできないんだ」

「じゃあ、夏冬傑をやって、親子2人で衣装作るのもありか?」

「いいね。親父はこのままじゃ、まともな衣装を作れるはずないから、俺が最高の『三条先生』を作ってやるよ」


 蒔絵が、不思議そうな顔をした。

「息子って、父親のことそういう風に考えられるもんなの?それとも、海里君が大人なの?」

海里と銀河が顔を見合わせた。銀河がぼそっと言った。


「男にとって、親父ってさ、自分の将来の姿なんだよ。だから、娘に嫌われる父親を見ると、可愛そうに思うしな・・・」

銀河が珍しく、蒔絵を責めるようなことを言った。

「だって、お父さんの匂いとか、どうしても受け付けないんだよね」

里帆も(うなず)いている。


女性陣の助けに入ったのは、航平だった。

「女の子が、父親の匂いを嫌がるのはしょうがないよ。思春期には、遺伝的に近い男性を避けるため、父親の匂いを嫌だと感じるという研究結果があるみたいだよ」


里帆が少し考えてそれに加勢した。

「そう言えば、私も、弟が中学生になった途端、凄く臭いと思うようになったな」


「じゃあ、俺の匂いはどうだ?」

突然、翔太郎が腕を上げて、女子に、自分の脇の下のにおいを嗅がせようと迫って来た。


蒔絵と里帆が立ち上がって逃げ出すのを見て、海里がため息をついた。

「そこの匂いは、男子同士でも嗅ぎたくないと思うよ」

「えー。じゃあ、上半身裸のキャラで、女子ハートを捕らえようって案は、効果なし?」

「んー。汗臭い上半身で女子に近づくのはどうかと思う」


銀河が助け船を出した。

「そもそも、衣装を作りたくないから、ズボンだけにするんだろう。俺の祖父ちゃんのボンタンがまだ残っているから、貸してやるよ。上半身は体育祭までに、しっかり筋肉をつけて来いよ」


航平が、銀河の祖父の過去に驚いた。

「銀河のお祖父ちゃんって、不良だったの?」

「いやぁ。百葉村はさ、元々漁師町で、結構みんな、昔はやんちゃだったんだよ。だから、60代の人の制服って、ボンタンとかだったはずだぜ、家の祖母ちゃんのスカートも長かったもん」


銀河の話で、百葉村に生まれ育った生徒は、自宅の祖父母のタンスを(あさ)ることになった。

そこには、お宝たくさん眠っていたし、祖父母の昔のアルバムを見て、家族で盛り上がった。

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