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21 球技大会が始まった

まずは球技大会1回戦をお楽しみください。

 中間テスト最終日の午後は、遂に球技大会だ。

蒔絵は、登校してから、体育の授業が2回しかなくて不安だったが、航平や里帆の上達を見て、不安が和らいだ。

「私がいない間、みんな頑張ったんだ」

 

 学年対抗の球技大会なので、総当たり戦だ。バレーボールの1回戦は3年対1年。2回戦が2年対1年。3回戦が2年対3年だ。そして、優勝チームが教員チームとエキシビションマッチを行う。


海里(かいり)、1,2回戦連続じゃあ、(つら)いな」

航平は大分、海里と打ち解けたようだ。


「いや、教員チームにも勝って、完全優勝を目指すには、いい組み合わせだよな。銀河」

「そうだな。エキシビションマッチの前に、休みが取れるからな」


 銀河は、エキシビションマッチには、蒔絵を下げようと考えていた。

いくら球技大会で、15点の3セットマッチと試合時間が短くても、まだ、登校してから2回しか練習していない蒔絵の負担を考えると、無理はさせられない。

エキシビションマッチなら、5人で戦っても苦情は出ないだろう。そう、銀河は考えていた。

 

 そんな銀河の気持ちを知ってか知らずか、蒔絵はパワー全開で試合に臨んでいた。

最初こそ、外野から「あの女の子、あんなのつけてまで試合に出なくていいのに」などという声も()れ聞こえていたが、その活躍を見ているうちに、応援の声に変わっていった。



 最初のサーバー、蒔絵は無回転のフローターサーブとオーバーハンドサーブを器用に打ち分けた。3年生チームは、女子1名を含むチームだったが、嫌らしいほど、その女子を狙ってサーブを打ち込み、3年生を翻弄(ほんろう)していった。


 蒔絵のサーブで7点が入ったところで、3年生は女子選手を、男子の補欠と入れ替えた。

蒔絵は、フェイスガードの視界にも大分慣れて来たので、そこで、ジャンピングサーブを繰り出した。野球部の男子が、体を使って、やっとボールを上げた。かなり低くしか上がらなかったので、アンダーハンドレシーブ2本で、1年生のコートに戻ってきた。

 翔太郎が、綺麗なレシーブで蒔絵の前に上げた。蒔絵のトスを受けて、銀河が3年のコートにたたきつけた。


 応援の女生徒から、嬌声(きょうせい)が上がる。点を取ったので6人が集まって、肩を組んだ。

「銀河君、調子に乗らないでね」

女子から歓声が上がったことを海里がからかった。

「蒔絵、次は海里がバックアタック打ちたいって」

()めて。そんなの打てない。それなら、翔太郎にトスを上げて」


 9本目のサーブも、ジャンピングサーブだったが、先ほどの3年生が綺麗に拾った。

3年生のスパイクを前に、銀河と航平がブロックに飛んだ。

3年のアタッカーは、ブロックを避けて、軽く銀河の脇にボールを落としたが、里帆が待ち構えていて拾い上げた。それを銀河が、すぐ跳び上がって、相手コートに押し込んだ。


「蒔絵、ジャンピングサーブはもうするな」

蒔絵が飛ばしすぎているので、銀河がブレーキをかけた。


 蒔絵も素直に銀河の指示に従った。それでも、無回転のフローターサーブを綺麗にレシーブするのは大変だ。ただ、3年生にも意地がある。上手く、スパイクにつなげて、お返しとばかり蒔絵にたたきつける。

 

 観客が息を飲んだが、蒔絵の前に航平が下がっていた。蒔絵の顔面を狙うようなボールを、オーバーハンドで返した。(にぶ)い音がした。


「突き指していない?」


蒔絵が心配したが、航平は振り返らず「大丈夫。グーで返したから」と答えて、本来のポジションに戻っていった。


 綺麗に上がったボールを、翔太郎がバックアタックで返した。

エンドライン(ぎわ)を狙ったアタックは、綺麗に線上に落ち、再び1年生の得点となった。


 結局そのセットは、3年生は2点を取っただけで、3人目の銀河のサーブを誰も取ることができず、終了した。



 2セット目は、銀河のサーブから始まった。銀河のサーブはまるでボールが破裂するような音がした。3年生もやっとのことで、返すが、1年生にはチャンスボールしか戻らず、蒔絵のトスを、翔太郎が気持ちよく打つか、海里が姑息(こそく)なフェイントをするかで、大量の得点差がつき、1年の勝利が決まった。



「2セット目のサーブは、里帆からだけど、どうする?」

「練習したから打ってみたい」

「いいね。里帆、頑張って」


 2セット目は、里帆のサーブから始まった。体育の授業で、里帆は、男子のネットの高さを中々越すことができなかったが、最近、やっと越すことができるようになった。


「いきま~す」

里帆のたおやかな声と共に、アンダーハンドサーブが打ち出された。今までの剛速球と比べると、風船のように飛ぶボールを、観客もハラハラしながら見つめた。

里帆のサーブは、ネットを越えると力尽きたように真下に落ちた。

「うそ、そこに落ちる?」

ネット際に落ちた球は、3年生が必死に拾ったが、審判から反則が示された。


「パッシングセンタ-ライン」

3年生は、自分の右足が1年のコートに、はみ出ているのを恨めしそうに見つめた。


「里帆、サービスエース」


 本日、里帆がゲットした初めての得点だった。

流石(さすが)に、2本目のサーブは、相手の強力なスパイクを呼び込み、返った球を里帆は返すことができず、尻餅をついてしまった。


 銀河が里帆に走り寄り、転んだ里帆の腕を取って立ち上がらせた。

「大丈夫?どこかにぶつかった?目をつぶっちゃ駄目だよ」

里帆の恐怖心は、この一言で消えてしまった。


 次の3年のサーバーは、野球部のキャッチャーで、かなり運動神経もいい。里帆を狙って深いサーブを打ち込んできた。しかし、銀河が受け、蒔絵に戻すことができた。蒔絵からのトスを、銀河がバックアタックしたが、少し弱く、相手のスパイクを呼び込んだ。しかし、海里がブロック1枚でそれを止めた。


 次の翔太郎は、あまり狙いすぎて、サーブをネットに引っかけてしまった。

「翔太郎。先輩の顔を立てろ-」

野球部の先輩のヤジにしょぼくれてしまった。しかし、次の海里のサーブまで回れば、銀河が前に上がってくるので、気を取り直した。


 海里は、高い身長から、まっすぐにフローターサーブを深く打つ。

流石の田中先生も、しっかりギャラリーで手に汗握って応援している。


海里のボールは、3年のスパイクに(つな)がったが、銀河がブロックに飛ぶ。それを避けても、足元で航平が拾う。すぐさま、蒔絵が短いトスを上げ、銀河がクイックを打つ。

蒔絵との阿吽(あうん)の呼吸だ。2人は軽くハイタッチをして、その後、拾った航平の背中を叩く。


 田中先生も「グッジョブ」とこっそり拳を握りしめた。


 結局、海里のサーブが変わることなく、2セット目も1年生が取り、1年生が3年生を下した。



 次のセットが始まる束の間の時間に、1年生チームは次の作戦を立てた。

「2年生もこのローテーションで行くか?」

「いいね。最初から、サーブを飛ばしていくよ」

蒔絵の張り切りようが、銀河は不安だったが、何も言わないでおいた。


「2年のメンバーは、全部男子で、バスケ部3人、野球部3人で来ると思う」

翔太郎は、昼食を部室で取るが、(ひそ)かに上級生のメンバーも探っておいてくれた。


「里帆は俺と翔太郎が、蒔絵は航平がガードに入れよ」

「守ってもらってばかりで申し訳ない」

「いや、下を拾って貰えるのが有り難い。思い切って飛べるから」


「次こそは、女子の声援を貰えるように頑張る」

そうやって張り切る翔太郎の肩を、海里が抱いた。

「残念だな。世の女性は、坊主よりデブが好きらしい」


「お前らは、勘違いしている。相撲取りを見てみろ。世の女性はつるんとした色白が好きなんだよ」

銀河の変な突っ込みに、蒔絵が更に変な突っ込みを入れた。

「銀河の下半身は、つるんとしていないじゃない」


そこにいる全員が息を飲んだ。かろうじて海里が口を開いた。

「蒔絵、純真な里帆ちゃんの前で、そんなエロい・・・」

蒔絵は自分が何を言ったか、気がついてしまった。


「うそ。臑毛(すねげ)が濃いって話で・・・」

「さあ、みんな2回戦が始まるよ」


蒔絵の頭を銀河が軽く抑えた。

「興奮して、サーブミスるなよ」

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