表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デブでも銀河は夢を見る  作者: 八嶋緋色


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

207/210

207 子供の判断力

 未谷製造(ひつじたにせいぞう)の予感は当たった。

翌朝、倉庫に隠してあったドローンが一台なくなっていたのだ。念のため、充電池も外しておいたのだが、汎用(はんよう)型電池なので、北斗は他の機械から(はず)してつけていったのだろう。


 製造はすぐさま、学校に電話を入れた。蒲生(がもう)校長が電話口で、のんびりと受け答えした。

「はい。息子さんが、ドローンを学校に持ち込むかもしれないというお話ですね。はい。美登里(みどり)さんを乗せるようなことがないよう、こちらでも注意して見ています。ご連絡有り難うございます」


(多分校長は、ドローンを電動自転車に毛が生えたものだと思っているんじゃないか?)

確かに、普通の小学校3年生が動かせる程度の機械なら、そういう認識でも大丈夫だが・・・。


 製造は心配なので、午後から避難訓練の見学に行くことに決めた。



 一方七星(ななせ)は、ドローンに乗って、1人で登校していった北斗を見送って、何食わぬ顔をしてスクールバスに乗って登校した。


 

 学校に着くと、七星はグランドに直行した。七星の想像通り、グランドで北斗はドローンを乗り回していた。垂直に20mまで上昇している北斗に、七星は大声で声を掛けた。

「北斗、何しているの?」


「このまま、3階まで上がれるか確認している」

そう大声で答えて、北斗が乗ったドローンは地上に降りて来た。


「それじゃ、駄目でしょ?人が乗ったドローンを、北斗が操縦しないと・・・。それに、人目がないからグランドで練習しているんだろうけれど、屋内だと電波の通り方が変わるから、実際に階段で練習しないと駄目だと思う。北斗が操縦するドローンに、私が乗ろうか?」

腰に手を当てた七星は、北斗に向かってまくし立てた。

 北斗は少し肩をすくめると、小さな声で答えた。

「そうだよね。もう時間がないから、昼休みに練習しよう」


 そう言うと、北斗はグランドの用具庫に、ドローンを置いて教室に向かった。百葉村では、このように貴重なものを放置しても、ものが取られることがなかった。そこに隙があった。



「おい、武。あの2人、用具庫に何か置いて行ったぞ」

教室の窓から一部始終を見ていた(れん)は、武に話しかけた。

「鍵を掛けていなければ、何か見ることはできるけれど」

「あの用具庫は、鍵がそもそも掛っていないよ」


 練が、何か思いついたようだ。

「俺達、1時間目、美術だよな」

「あー。グランドで、写生するって言えば、外に出られるよな」


 専科の先生がいないので、美術の時間は担任が授業をすることになっている。

夏休み明けは、文化祭に備えて、各自作品製作をすることになっているが、担任の田中先生は、版画をしている6年生から離れられない。版画で使う彫刻刀で、事故が起こってはいけないからだ。



「田中先生!文化祭に展示する絵なんですが…」

練は何食わぬ顔で、担任に話しかけた。

「小野田さん、絵のテーマは決まりましたか?」

「はい。僕たち、あまりグランドに出たことがないので、最後にグランドの風景をスケッチしたいと思います」

「そっか、外は暑いから、気をつけてください。中武(なかたけ)さんはどうしますか?」


 夏休み明けのグランドは、灼熱地獄だ。クーラーの効いた教室から外に出たくない千翔(ちか)は、男子2人を胡散臭(うさんくさ)そうな目で見た。この暑い中、外に出たがる男子は何か企んでいるに違いなかった。長年の経験から、やっかい事の匂いを感じ取った。


「私、教室の中の風景を描きたいので、ここにいます」

その言葉を聞くと田中先生は、3人の選択を何の疑いもなく許可し、6年生を連れて、美術室に向かった。

田中先生は、美術室で6年生を見ながら、事務仕事でもしようと考えていた。文化祭前にしなければならない仕事は、いくらでもあった。


 

「良かったな。千翔がついて来なくて」

武は教室を振り返りながら、練の後について行った。2人はまっすぐ、用具室に向かった。

ドローンを操作するリモコンは、北斗が安全のため、教室に持っていったが、ドローン本体でも動かすことができた。


「これ、何だ?小さな車みたいだよな」

 用具庫に隠されたドローンは、空を飛んでいる時は地面と水平に広がっていたファンが、車体に縦に格納され、一見すると、遊園地のゴーカートのようだった。


「朝、北斗がこれに乗って登校してきたのを見たぞ。空を飛ぶんだ」

 そう言うと、練はドローンに乗り込んでみた。運転席はバイクのようにまたがることができた。運転席に座ると、目の前にスタートと書いてあるボタンが見えた。

 前にはハンドルがついているので、練は、何となく運転できそうな気がしてきた。


「練、俺も乗りたい」

そう言うと、大柄な武が、座席の後部にまたがってきた。

「重量オーバーじゃないか?座席は一人分しかないぞ」

「大丈夫だよ。前に詰めれば」


 一人乗りのドローンであるが、小学生2人くらい乗せても重量オーバーではない。


 無謀にも、練はスタートボタンを何も考えず、押してしまった。

狭い用具庫に、エンジン音が響き渡り、4つのファンが車体からせり出し、大きな音を立てて回転し始めた。人を乗せて浮上するのだ。ファンの威力はかなり強力で、あっという間に、轟音を立てて、天井近くまで上昇した。


 練は慌てて、ストップボタンを押した。天井近くまで上昇したドローンはそこで止まった。

もし、再びスタートボタンを押していたら、エンジンが停まって2人は落下してしまっていただろう。


「武、動くな。バランスが崩れる」

「練。下ろしてくれよ」

そう言われても、うっかり変なボタンを押して、落下したらと考えると、練はもう、どのボタンも押すことができなかった。

練も武も、途方に暮れて泣きだしてしまった。

「お母さ~ん」

「ぐすん。ぐすん」


 2人が泣き疲れた頃、用具庫のドアが開く音がした。


 その音と共に、ドローンは、静かに下降し始めた。

ハンドルにしがみついていた練が、顔を上げると、北斗がリモコンを持って立っていた。


「降りられますか?」


 北斗の後ろから、齋藤先生が顔を出した。

「何しているの?今は、美術の時間ですよね」

ドローンから降りた2人は、腰が抜けて立てなかった。


「齋藤先生、ドローンを用具庫に置いておくと、危ないので教室に運んでいいですか?」

北斗は、座り込んでいる2人に目もくれず、担任に話しかけた。それがまた、練の気に触った。

「そうね。でも、ドローンは避難訓練には使えませんよ。そこは分かっていますよね」

 

 北斗はドローンのリモコンを使って、故障箇所を点検した。すべてのボタンを押したが、どこも異常なく作動した。壊れた場所はないが、サドルが濡れているのをみつけて、北斗はちらっと、練と武の濡れたズボンに目を向けた。


 2人は顔を真っ赤にした。よっぽど怖かったのだろう。


 北斗は、ドローンに乗っていくことを諦めて、ファンを畳んで、ゴーカートのような形に戻した。小型車型のドローンは、誰も乗せていないのに、とことこと北斗について行った。


 北斗が出て行った後、齋藤先生は優しく、2人に声を掛けた。

「練さん、武さん、怪我はしていませんか?一緒に保健室に行きましょう。保健室に着替えもあるし…」


 練と武は、齋藤先生に連れられて、保健室に向かったが、着替えが終わると何食わぬ顔をして、教室に戻った。練の心の中には「このままでは済まないぞ」という抑えきれない怒りが静かに煮えたぎっていた。


 田中先生は、齋藤先生から報告を受けたが、避難訓練で頭がいっぱいで、2人への指導は後回しにされた。

子供って怖いですよね。想像の斜め上のことをしでかします。でも、大人でも、子供のまま成長しちゃった、怖い人がいるようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ