表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/129

20 中間考査が終わった

考査が終わると先生方は採点に追われるはずですが、なんと言っても、1学年40枚。きっと、すぐ採点が終わってしまうんでしょうね。因みに、多分、田中先生は、マークシートで採点しているんじゃないでしょうか。10分くらいで、採点が終わってしまいそうです。

 蒔絵(まきえ)が登校して1週間。水曜日から始まった中間考査は、あっという間に終わった。

高校に入学して初めての中間考査は、銀河が作った予想問題で、普通クラス全員の成績はまあまあだった。銀河は2年前に紫苑(しおん)が受けた試験の解析をして、先生方の出題傾向を割り出していたのだ。

 

 村立の中学校は、先生方の異動がほとんどないので、毎年同じような問題が出題される。


ただし、英語だけは毎年、教科書が変わるので、別の対策が必要だった。それは、ビデオばかり見せられている普通クラスも、考査の出題内容は共通だからだ。田中先生は、直前にテスト対策プリントを配るのだが、そんなに直前では、勉強のしようがない。

そこで、銀河は、特進クラスの海里(かいり)と交渉した。「毎時間、特進クラスで勉強している内容を、教えて欲しい」と。


「いいよぉー。でも、交換条件がある。中学の時みたいに、銀河の予想問題を横流ししてくれよ。そうしたら、毎時間、俺が書いた英語ノートを写メして、iPadで送るから」

「それは、特進クラスで全員に流すのか?」

「まさか。親の期待に添うのも大変なんだよ」


 田中先生は、中間考査の採点後、普通クラスの英語の成績が予想外に良くて、悔しがった。しかし、自習について校長に注意されていたことを思い出し、「ビデオを見せていても成績が変わりませんね」と、

従来通りのビデオ学習を続ける言い訳にした。


 そしてそれは、普通クラスにとっても、幸運なことだった。特進クラスのように、受験問題を解き続ける授業など、秒で寝てしまうメンバーばかりだったからだ。では、普通クラスの英語の授業は、英語の字幕のビデオを漫然と見ていただけなのかというと、実はそうではなかった。



それは今から1ヶ月半ほど前から始まった。田中先生のビデオ学習の初日、4月の最初の頃のことだ。

田邊先生がたまたま高1普通クラスの教室を覗いた。英語字幕のビデオが流された教室で、ほとんどの生徒が居眠りをしたり、雑談に興じていたりしているのだ。

「なんだ。こりゃ?」


廊下の窓から、田邊先生は、銀河を呼んだ。

「あれは、何の授業ですか?」

「田中先生が、特進クラスで教えている間、俺たちには適当なビデオを見せているんです」

「定期テストは、共通問題ですよね?」

「多分、直前に対策プリントかなんかを配って、お茶を濁すんじゃないんですか?」


(それじゃ、赤点続出じゃないか)

田邊先生としても、担任として、欠点保有者がたくさん出て、夏休みに補習をする生徒がたくさん出るのも困る。


「銀河さんは1年間、ビデオ鑑賞でいいと思いますか?」

「俺は映画を楽しんでいるんですが、他の生徒は困るでしょうね」

「少し工夫しますか」


 田邊先生は、銀河にいくつかアドバイスをした。銀河はその意図を理解して、蒔絵と一緒に授業を変えてしまった。ちょうど、生徒が見ていたのは、「Back to the Future」。随分すり切れていて、田中先生がどこの学年でも見せていたことが分かる。


田中先生は教室に顔を出さないので、毎時間、感想文を出しておけば気づかれない。その上、感想文の中身を見ることさえしないので、出だしの何行か変えておけば、ほぼ同じ感想文を書いても気づくことはなかった。


 銀河と蒔絵は、どうせ映画を見るならば、リスニングの力がつくようにしようと考えた。


最初に行ったのは「聞き取れた英単語の数バトル」。

短いシーンの中で、聞き取れた単語がいくつあるのかで競うのだ。3回も注意して聞くと、いくつかの英単語が聞き取れる。知らない単語は聞き取れないので、間違った単語は辞書で調べて意味を確認する。そうすると次回から聞き取れるようになる。


 レベルが上がると次に行ったのは「英語の字幕穴埋めバトル」。

字幕に書かれている英文で、聞き取りにくい単語を虫食いにして、聞き取る練習をするのだ。英語のリエゾンは、慣れが必要だ。

「連結」、「脱落」や「同化」を聞き取るには、知識も必要だ。

なにせ、言っていない言葉を( )の中に入れるのだ。最初は苦情しか出なかった。


「銀河、言ってない言葉を推測するなんて、分かる訳ないじゃないか」

「じゃあ、みんなは食事の前になんていう?」

「『いただきます』に決まっているじゃないか」

「そうかぁ?『ターキマス』って言っていないか?」

「『いたあきます』『たーきます』・・・ああ、言っている」

「同じだよ。アクセントがあるところは強く長く発音するけれど、他は飛ばしたり、くっつけたり、飲み込んだりしちゃうんだ」


 銀河の説明で納得させられた普通クラスの生徒は、調べた単語のアクセントに気をつけたり、よく使う言い回しを覚えたりし始めた。すると不思議なことに、自然と言ってないはずの単語が聞こえてくるのだ。


 この勉強にモチベーションを持たせるため、蒔絵が工夫を加えることを提案した。

クラスをいくつかの班に分けて、バトルするのだ。勝負となるとみんな燃える。


「やっぱり、なんかご褒美が欲しいな」

翔太郎の提案で、毎時間、全員が10円を出し、勝ったチームが総取りするという勝負が始まった。

勝てば、学食で一品おかずが増えるわけだ。毎時間、真剣勝負なのだ。


 金のやりとりについては、田邊先生は見て見ぬ振りをした。


 銀河と蒔絵は、英語の力については別格なので、問題作成を請け負った。

中間考査前には、クラスの仲間から、ご苦労賃として、購買の人気ナンバーワンの「粒々(つぶつぶ)アンパン」を貰った。自分たちの勉強にもなったので、銀河達はそれで良かった。



 現在、中間考査後、何を学ぶかで、女子は「タイタニック」がやりたいが、男子は「Top Gun(トップガン)」を教材に使いたいと()めている。決着は、中間考査の男女の平均点で決めようと言うことで、田中先生の無茶振りプリントにも、熱が入った。



 昼休み、寸暇(すんか)を惜しんで、中間考査の勉強をしている蒔絵に、銀河が「粒々アンパン」を頬張(ほおば)りながら、尋ねた。


「蒔絵はどっちの映画がいい?」

「『タイタニック』かな?実際にあった話だし、身分制度など社会問題も取り上げているし、学ぶことが多いな」

「真面目か」

「まあ、『Top Gun』にはラブシーンもあるし、男子はそのほうがいいでしょうけれど」

「でも、ラブシーンは、背中に立てられた爪の痛みを思い出すから、俺は飛ばしたいな」


「ご・め・ん・ね」

蒔絵は、(ふく)れてそっぽを向いた。

(それ以外も思い出すから、俺は嫌なんだけれど・・・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ