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デブでも銀河は夢を見る  作者: 八嶋緋色


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199/210

199 ミサイル落下

 紫苑と更紗が、英子(えいこ)の散骨を終えて、百葉村を出発しようとした時、村内に緊急放送が響き渡った。


「日本海佐渡沖、2kmの地点にN国のミサイルが落下した模様。百葉村職員は、村役場に集合。未来TEC社員は全員、大会議室に集合。それ以外の住民は、シェルターに避難すること。N国との戦争の可能性があるため。全員、至急移動せよ」


 紫苑と更紗は(きびす)を返して、錬磨(れんま)を連れて、シェルターに向かった。

蒔絵は、真珠を銀河から受け取って背負うと、1回しっかり銀河に抱きついてから、子供達の避難を手伝うために、保育園に向かった。


 銀河が、未来TECの社屋(しゃおく)に入ると、すぐ葉子と出会った。

「一触即発って危機なんですか?」

銀河の問いに、葉子は肩をすくめた。

「現在、今市(いまいち)総理大臣は、アメリカのジョーカー大統領にお伺いを立てているみたい。ここでN国に反撃をしたら、日本に核爆弾搭載ミサイルの雨が降るからね」


 未来TECの玄関に設置してある大型スクリーンには、今市総理が、N国に『厳重抗議』をし、『対応について関係各国と話し合っている』という報道がなされていた。


 大会議室に社員が全員入ると、入り口のドアが厳重に閉められた。

正面に立っている未谷来都(ひつじたにらいと)支社長は、自分のスマホをテーブルに置いた。

「これから話す内容は極秘だ。この室内のWi-Fiは切ってあるし、電波はすべて遮断されている」

 その言葉を聞いて、銀河は電源を切ったスマホを机に置いた。他の社員も、支社長の意図を汲んで、同様の行動を取った。


「ありがとう。では、今後の未来TECの方針について話をする。この事態は事前に想定してあったことなので、来春(こはる)社長とも、意思疎通は出来ている。現在、他の支社でも全く同じ話が、支社長から伝えられているはずだ」


 社員全員が息を飲んだ。「この事態」を想定してあったということは、この後何が起こるかも想定していたということだ。会議室の社員は、水を打ったように静かになった。


 来都支社長は、何の資料も見ずに話を始めた。


「N国が今回、打ち込んだミサイルからは、佐渡沖に設置してある放射能検知機器に放射の反応がなかったので、放射能は漏れ出していないと考えられる。それはこの次に日本に送り込む、上陸部隊を放射能汚染に(さら)さないためだと推測される」


「上陸部隊」という言葉が示すのは、日本が戦場になるという現実だ。


「N国が上陸を予定している場所は、新潟市から村上市までの海岸線のどこかだと考え、自衛隊はその一帯に、至急部隊を移動させている。また、鳥取以西から九州福岡周辺にも、自衛隊が向かっている」


 来都支社長は、ホワイトボードに張ってある巨大な日本地図を、レーザーポインターで示した。


「未来TECが請け負うのは、自衛隊の配備されていないこの地域の海岸線だ」

そう言うと、新潟市から奥丹後半島までをレーザーポインターで指し示した。


 広大な地域に、会議室からため息が出た。

「『請け負う』というのは、上陸部隊を殲滅(せんめつ)するということだ。その上、空爆にも対処しなければならない。社員の皆さんは、何故、それを自衛隊でなく、未来TECが行うのかとお思いでしょう?」


 未来TECの社員は、誰もがそう思っていても、それを口に出して、支社長の話を遮る者はいなかった。


「それは、この地域にまだ残留している原発から出た、高濃度かつ広域の放射能の中で作業する技術が、現在の自衛隊にないからです。そして、原発の廃炉関係の仕事を請け負った時点で、今市総理と未来TECは、とある密約を交わしました。もし、日本国内に原子爆弾が投下されるような事態になったら、未来TECが放射能処理を行うという密約です。勿論、未来TECが無償でその仕事を請け負ったわけではありませんし、総理が交代したら、その密約は反故(ほご)になります」


 未来TECが高度な放射能処理技術を持っていることすら知らなかったので、話が良く理解できない者も社員にはいた。だからこそ、支社長の話を一字一句聞き漏らさないよう耳を澄ませた。


「では、これから未来TECの描くシナリオを説明します」


 説明は、至極簡単になされた。多くの社員は、上陸部隊を地中深く埋めてしまうという作戦だということしか理解できなかった。

 原発を埋めてしまうために、その地下を掘っていることは知らなくても、「海原町や長岡市の地下都市を造る技術があれば、そのくらいはできるか」ぐらいの理解だ。


 説明の最後に、来都は涼しい顔で付け加えた。


「この作戦は、県や国が、N国が上陸してきた土地の権利をすべて、未来TECに譲った時点で、実行に移します。私有地なら、自衛の範疇(はんちゅう)ですから・・・」


 つまり、N国の攻撃を退けた土地の権利は、すべて未来TECのものになるという「密約」なのだ。


 そこまで話して、来都は自分のスマホを持ち上げた。

「作戦は、遠隔操作で行います。オペレーターは、シェルターの最下層に来てください。多分、空爆が始まって、1日も立たないうちに、その都市の権利は未来TECに譲られるでしょう。SNSで『#自衛隊退職』がトレンド入りしているのですから、自分の町を守ろうという人が増えるわけありません。

 では、オペレーターの皆さん。これから作業に入ります。空爆開始から、1週間以内に上陸作戦を止めましょう。もたもたしていると、『徴兵制度』が始まってしまいます」



 銀河が地下のコンピュータールームに向かおうとするのを、慶司が止めた。

「銀河は、戦闘員なのか?」

「いや、ただのオペレーターだよ。俺だって、生身の人間は殺せない。でもね。R国がU国に戦争を仕掛けた時点で、世界は()()()()(ぎゃく)戻りをしたんだ。日本の国土は、地政学的に最も魅力的な場所にある。もし、この国で生き続けたいとしたら、戦わないといけない」

「でも、間接的にでも人を殺すんだよ。平気か?」

「おいおい、お前は、自宅に入ってきた強盗が、葉子さんを殺そうとしたら、強盗の命を守るのか?」


 慶司は、銀河の腕を(つか)んでいる手を、静かに離した。

 後ろから歩いてきた葉子は、軽く慶司の頭を叩いて、「お留守番、お願いね」と買い物にでも行くような気軽さで地下に向かった。


 取り残された慶司が、テーブルの上からスマホを持ち上げるとそこには、朝陽からの連絡が入っていた。

「慶司や宗司も、美野里や鯨人と一緒に、シェルターの運営を手伝ってくれ」

自分にもできる仕事があることで、慶司は少しホッとした。




 信州大学がある松本市でも、避難の準備が始まった。梅子は、朝陽(あさひ)からの連絡を受けて、弟の七賢(しちけん)達と百葉村シェルターに避難することにした。まだ、松本市では、大きな人の移動はなかった。


「紫苑達が葬式で、エルグランド乗って行っちゃったから、FamilyZがあって助かったよ」

七賢は、潔人(きよと)と一緒にFamilyZに荷物を詰め込んでいた。百葉村まで、何日かかるか分からないので、食料と水、携帯トイレと、潔人達の子供、遥輝(はるき)のためのグッズを詰め込んだ。

こんなに早く、ジューン・フェスティバルで当選したFamilyZが役に立つとは思いも寄らなかった。


 七賢の他に避難するのは、百葉村病院関係者の諏訪圭子(すわけいこ)後閑悠仁(ごかんゆうじん)。葉子の妹の菊子と潔人、その子供の遥輝。そして、角張(かくばり)大輔と鹿児島桜子の9名だ。

桜子は、柏崎で働いている宗輔の心配をしたが、佐渡沖にミサイルが落下した日から、連絡が途絶えてしまっている。

出発を躊躇(ためら)う桜子の腕を取って、宗輔の弟、大輔が、無理矢理車に乗せた。

「桜子ちゃんが、無事なら、兄貴も安心できるから。一旦、百葉村に避難しよう」



 松本から関東地方に抜ける道に出ると、避難者で大渋滞だった。反対側の車線に、次々と自衛隊車両が走るのを見るに付けて、今は緊急事態なのだと思われた。

「SNSでは、『第3次世界大戦勃発』って大騒ぎだ」


 七賢が、運転手の潔人に話しかけている。潔人が渋滞で眠くならないように話しかけているのだが、菊子や桜子の不安を(あお)っていることには気がついていないようだった。


「自衛隊の車はどこを守りに行くんだろう」

菊子は潔人に話しかけた。

「日本海側沿岸かな?日本海側には、新発田や金沢、舞鶴、小松にも基地があるけれど、そこに応援に行くのかな?」

潔人も、詳しくは知らないようで、陸上自衛隊も航空自衛隊もごちゃまぜにしている。


「守るって、ミサイルがまた撃ち込まれるの?それだったら、太平洋側に逃げてもしょうがないよねぇ」

菊子は遥輝を抱きしめた。悠仁(ゆうじん)が慰めるように言った。

「百葉村のシェルターは、前回ぐらいの隕石なら、落下しても大丈夫だって話だよ。食料も1ヶ月は持つし、食糧工場とも(つな)がっているから、1年くらいは籠城(ろうじょう)できるらしい」


菊子が、鼻で笑った。

「籠城って、戦国時代じゃあるまいし」

そう言ってから、戦争が起こるということは、「戦国時代」に逆戻りすることだと気がついた。

「籠城する前に、城にたどり着かないといけないよな。FamilyZで良かったよ。ガス欠の心配がないからね。ナビだと、百葉村まで後、28時間って表示されている」


 同乗者が声を揃えて、「えー」と叫んだ。


「更紗に聞いたんだけれど、蒔絵と銀河は、富士山が噴火した時、銀河の兄ちゃん夫婦と一緒に、東京から百葉村に避難したらしいよ。その時は高校1年生だったらしい。

俺達も、1人で避難しているわけじゃないし、災害対策のFamilyZで移動できているんだから、感謝しようぜ」


 そう言いながら、潔人は、音楽を聴こうとラジオを付けた。


「緊急放送。緊急放送。高岡市がN国の戦闘機による空爆を受けた模様です。小松基地から航空自衛隊が向かっています。自衛隊車両通過のため、小松IC―高岡IC間の北陸自動車道は、一般車両の通行を禁止します」


 反対車線の自衛隊車両の速度が上がった。大輔が低い声でみんなに注意した。

「窓を閉めろ」

FamilyZの装甲車並みの頑丈さが、今日ほど頼もしいと思ったことはなかった。

次回は、人物紹介の予定です。

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