0章5話:戦闘適応訓練
※この話は「ミスフィット・バトルフロント」0章5話です。
本話では、チーム結成後の“戦闘適応訓練”を描いています。
御守 尊、AIKO、それぞれの能力が明らかに。
深見 真視点での彼らの「異質さ」と「手強さ」が浮き彫りになる回です。
初任務に向けた最初の布石を、ぜひ見届けてください!
0章5話:戦闘適応訓練
訓練初日、俺は“スーツ”と向き合っていた。
黒く密着する全身装備──正式名称《生体ナノ戦術装束》。通称“バトルスキン”。
スーツは微細なラインが刻まれた滑らかな表面を持ち、起動すると青白く淡く光る。それは、生体発電機能による補助装置として、戦闘中は常に稼働し続ける。
「霊的存在との干渉はこれで対応することができます。感知補助、気の追跡、衝撃吸収。生身では無理な領域を、スーツが“計算して補完する”ことができる我が研究所の技術の粋を結集した最新鋭の戦闘用スーツです。」
担当技師の説明を聞きながら、俺は腕を回し、伸びを一つ。
「あと物質生成機能もありますが、基本は禁止でお願いします。この物質生成機能を使い肉体の欠損の回復も可能ですが、電力喰いすぎて使い物にならなくなってしまうので、基本は支給武器を使ってください。」
実弾拳銃とナイフ──どちらも霊的干渉を考慮した特注装備。物理が通じない敵が出るかもしれない現場で、結局は物理に頼るとは科学ここに極まれりだな。
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模擬戦1:御守 尊
訓練開始一日目。模擬戦の相手は御守だった。
「うーん、だるい……戦闘ってさぁ、集中力使うじゃん?」
開始前からふざけたテンション。だが、開始の合図と同時に、それは一変する。
御守は一枚の札をふわりと空中に投げた。なんの変哲もない和紙──のはずだった。
瞬間、視界が揺れた。
(なんだ……!?)
空気がよじれ、背筋に冷たい感覚。咄嗟に右へステップで退避。
次の瞬間、俺のいた空間に“何か”が通り抜けた。見えない斬撃。地面が薄く抉れている。
「へー、避けるんだ。意外とやるじゃん。カン鋭いんだね。でもまだまだいくよ。」
御守が笑う。その手には新たな札がすでに数枚、握られていた。
何も書かれていないはずの札が、空中で淡く輝く。
──得体の知れない“何か”が、飛んできた。
目では捉えられないが、スーツが警告を鳴らす。自動で補助ブーストが働き、膝を抜いて横に飛ぶ。
背後で“空間が裂ける”ような音がして、砂煙が舞った。
(……なんだ今の。斬撃か? 術か? それとも、あれ自体が……)
敵の正体がわからないまま、攻撃が繰り返される。札は、ただの紙じゃない。だが、札が直接攻撃しているってわけじゃない。封じられた何かを“通して”攻撃しているような感覚。
「うーん、そろそろ飽きてきたから……これで終わりにしよっか」
肩をすくめ、札をぱらりと放る御守。
大小さまざまなな見える見えないものを含め、10数に及ぶ攻撃が俺に向かう。
とんでもない力を持ちながら、それを無造作に扱うその姿に、俺はただ一言浮かんだ。
──掴みどころがなさすぎる。それに危険すぎる。
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模擬戦2:AIKO
三日目。次の相手はAIユニット・AIKO。
戦闘開始の合図と同時に、彼女の姿が“消えた”。
(!?)
センサーが反応するより早く、背後から風圧。そして衝撃。
腰へ叩き込まれた一撃に、俺の身体が宙を舞った。
(ッぐ……!)
スーツが衝撃を緩和しなければ、骨が粉砕されていた。起き上がる間もなく、AIKOはすでに至近距離。
銃を抜き、三点バーストで牽制射撃──
「弾道、捕捉」
放たれた弾が、“空中で彼女にキャッチされた”。
(……嘘、だろ)
視認すら困難な速度で飛び込んできた彼女の肘が、左肩に直撃。
それでも、踏んで耐え、反撃の右拳をフェイントに右足を軸に左踵で蹴り抜く。
「、、少し予想外」
俺の渾身の反撃は右手で軽く弾かれる。
(俺、これでも警察の格闘トーナメントでトップ8だったんだけどな……)
追撃の膝、踏み込みからの回転蹴り、重力を無視したような機動。まともに付き合えば即沈むと判断し、前方にブーストで距離を取る。
だが──
「反応時間、予測済み。距離変更、再調整」
AIKOは地面を滑るように間合いを詰め、正面からナイフの間合いに入ってきた。
記録をとっていた研究所職員がつぶやく
「AIKO(Artificial Integrated Kinetic Operator): 人工統合型運動オペレーター現在出力率:22%」
記録係がため息を吐きながらいう
「そりゃここに押し付けるよ……」
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そんなこんなで二週間が過ぎた。
スーツにも慣れた。御守の謎に付き合うのも多少慣れた。AIKOの動きは未だに見切れないが、連携は成立するようになった。
地球人外研究所の構造も、少しずつ理解してきた。
──地下には封印された“禁忌指定アイテム保管倉庫”がある。
「君にはまだ見せられないかな。……御守くん君がね、あそこに入り浸る未来が見えるから」
苦笑する京極に、御守は「チッ」と舌打ちしていた。
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翌日の午後。会議室に三人が並んだ。
施設長・京極は簡潔に言った。
「初任務だ。──座標は、ここだ。」
壁面の地図に、赤いピンが一つ、静かに灯っていた。
お読みいただきありがとうございました!
深見・御守・AIKO、それぞれの戦闘スタイルと個性を立てながら、
チーム結成直後のぎこちない空気を意識して描きました。
特にAIKOの“22%出力”という描写は、まだ彼女が完全ではないこと、
そして今後の成長を示唆しています。
次回から、いよいよ本格的な任務編に突入します。
ぜひ、引き続き彼らの物語を追っていただけたら嬉しいです!