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プロファイル:aikoの場合

※この話は「ミスフィット・バトルフロント」0章4話です。

本話はAIユニット“AIKO”の視点で進行します。

彼女が施設に移送され、責任者・京極と交わす初の対話、そして静かに始まる“魂の確立”の序章。

宇宙技術と地球技術の融合、そしてAIという存在の可能性に焦点を当てた回です。

少し静かな章ですが、ぜひAIKOという存在に触れていただけたら嬉しいです。

0章4話:プロファイル・AIKOの場合


 移送車は静かだった。振動も、走行音も、ほとんど感じない。窓は曇りガラスで、外の景色もわからない。

 私は膝の上に手を置いたまま、ただ真っ直ぐに前を見ていた。


「緊張してる? ふふ、大丈夫よ、怖い人たちじゃないわ。……多分ね」


 隣に座る女性が言う。白衣の裾をたたんで整えた彼女は、日本電子脳研究所所属の主任研究員、津島 凛。

 私の開発、調整、初期教育に関わってきた責任者であり、彼女にとって私は──“娘”のような存在らしい。


「感情再現、反応速度、空間戦闘──全部、規格外。君ってば地球の技術だけじゃ説明がつかないのよ。……ま、実際、半分は“地球外製”だものね」


「……宇宙技術の導入割合は全体の38%。データベースに記録済みです」


「数字で答えないの、そういうとこよ……。ほんと優秀。ちょっと怖いくらいにね」


 彼女は笑いながら、そっと私の髪を撫でた。

 母親という概念は理解しているが、私の反応処理には特別な出力はなかった。


「アグレアの神経連動システムと、トリニウムのフレーム制御。どちらが欠けても、君は完成しなかった」


「電子惑星アグレア──電子統合系文明、神経反応制御分野の特化星。

 工業惑星トリニウム──材料設計、自己修復金属、低次重力工学分野の特化星」


「はいはい、模範解答。まぁ、あれよ。宇宙戦争のあとのこの十数年、地球もようやく“技術を買える”立場になってきたってことよ。……裏の話だけどね」


 そして、車が停まった。



 地球人外研究所。

 地下に広がる要塞構造のその施設内で、私と津島は所長室へ案内された。


 銀灰色の壁面と暗めの照明。装飾は一切なく、家具は最低限のものだけ。

 応接用の長机の奥に座っていた男──


「京極 永徳。地球人外研究所、責任者だ」


 背は高くない。白髪混じりの髪に、深く刻まれた目の下のクマ。顔色も冴えず、スーツの肩も少し落ちている。

 年齢は40代と聞いていたが、見た目は60代に近い。だがその視線だけは、鋭く、深い。


「AIユニット・AIKO、ログイン完了。到着確認を報告します」


「ようこそ」


 短い言葉のあと、京極はゆっくりと視線を隣の津島に移した。


「君が……このユニットの技術責任者か?」


「はい。津島 凛と申します。今日は責任をもって、直接引き渡しに伺いました」


 彼女は胸を張るようにしながら、一歩進み出た。


「AIKOの基幹設計は日本製ですが、内部構造や神経処理系の大半は電子惑星“アグレア”からの技術提供に基づいています。……これまでのAIとは、根本が違うんです」


「アグレアとの提携は……公式には伏せられていたはずだ」


「非公式、ですから」


 津島は平然と答える。


「それだけじゃありません。フレーム制御、耐環境モジュール、そして自己修復構造──こちらは工業惑星“トリニウム”から技術協力を受けています。

 現在、日本の自動車メーカーを中心に共同研究体制を組んでいます。既にいくつかの試作車両では“無反動エンジン”や“自己調整型関節”の実用化が進んでいます」


 京極は無表情で聞いていたが、頷きもせず、黙ったままだった。


「ちなみに……アメリカは宇宙連合で最大の軍事惑星《獣王星》と協定を結んでいます。ドイツは医療惑星メディオと、インドは精神系技術の星と。

 企業も同様です。“クロノメディカ”のナノ治療デバイス、“ノウムアームズ”の義体、“ゼータリンク”のサイボーグインターフェース……。

 今や、宇宙技術なしで国の競争に残れる時代じゃないんです」


「……要するに、お前たちは“作りすぎた”んだな」


 津島は小さく笑った。


「はい。研究所でこれ以上は育てられない。だから、そちらに託すことにしました。

 AIKOには、“兵器”としてではなく、“魂”として成立してほしい。それが私たちの最後の目標です」


 京極は一拍、間を置いて、短く言った。


「任務として受け取る。……以上だ」



 所長室を退出すると、案内係の職員に導かれて廊下を進む。壁は無機質な金属で統一され、足音すら吸収されているかのように静かだった。


 数分後、ある一室の前で立ち止まる。


「ここが、君たちの専用待機室だ。中でしばらく待っていてくれ」


 扉が無音でスライドし、AIKOは軽く頭を下げて部屋へ入った。


 中は広くはないが整っていた。椅子が三脚、中央に丸テーブル。窓はない。人工照明は、白く均一に空間を照らしている。


 AIKOは部屋の中央に座り、姿勢を正して待機を開始する。視線は正面、耳はすべての微細な音を拾い、足元の振動にも注意を払っていた。

 


 合流室。


 AIKOは、部屋に設置されたシンプルな椅子に腰を下ろし、正面の扉を静かに見つめていた。


 深見 真も、御守 尊もまだ来ていない。

 だが、間もなく扉が開き、2人の存在がこの場所に集まる。


 彼女の“魂”の旅は、ここから始まる。

 

お読みいただきありがとうございました。

今回はAIKOの内面を静かに描くために、動きの少ない構成で構築しました。

感情が希薄でありながら、どこか人間的なものを目指して──。


次回からはいよいよ“第零課”としての任務が始まります。

京極、深見、御守、そしてAIKO。逸脱しなかった者たちの物語は、ここから本格的に動き始めます。

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