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プロファイル・御守 尊の場合

本話は、御守みもり みことの視点で進行します。


かつて霊的調停を担っていた一族に生まれながらも、今は力を手放し、表向きはオカルト趣味に生きる男。


そんな彼が、地球人外研究所の存在と“尾行”に気づいた末、ある取引を条件に自ら施設の門を叩きます。


人当たりのよい軽妙な語り口の裏に、過去と知識の影を宿す人物像が少しずつ浮かび上がっていきます。

0章3話:プロファイル・御守 尊の場合


 ──なんか、すっごい見られてる気がするんだよね。


 いや、比喩じゃなくて。リアルに“尾行されてる”感覚。

 目に見えない……わけでもなく、実際に見えるし。というか、あの角の看板の影にいる人、おかしくない? 立ち位置ずっと一緒だよ?


 もう一週間以上、ずーっとこんな調子。バイトに向かう途中にも、アパートのポストの前にも、ゴミ出しに行く道にも、必ずどこかに“同じ空気”を纏った誰かがいる。


 (……やれやれ。ここまで露骨にされると逆に興味湧いてくるよね)


 だってさ、ただのオカルト好きで無職の俺がだよ?

 国家直属の監視対象だって? 笑っちゃう。しかも、あの“京極 永徳”が動いてるなんて。


 


 で、今朝。


 俺はついにキレた──というか、ダルくなって、施設に出向くことにした。


 


 「ようこそ、御守くん。来てくれて感謝するよ」


 迎えたのは、胃薬が似合う疲れ顔の男。

 スーツのシワ、目元のクマ、人生に疲れ切った雰囲気。それが施設長・京極永徳の第一印象だった。


 「いやあ、ずーっと張り込まれるとねぇ。そろそろ家賃の一部くらい請求していいかと思ってさ」


 「……すまない。だが、それほど君に関心があったということだ」


 「え、恋?」


 「違う」


 キレ気味に否定された。まぁ、当然か。


 


 俺が彼の元に来た目的はひとつ。


 ──“禁忌倉庫”。 


 この施設の地下深くにあるという、禁具・禁呪・宝具・呪物・神具、あらゆるヤバいモノを封印・保管したスペース。

 しかも、アクセス権限にはレベルがある。1から5まで。数字が上がるほど、危険度と世界崩壊率が跳ね上がっていくらしい。


 で、俺に提示されたのは「アクセスレベル1」。


 ……普通なら渋る条件だけど、俺にとっては十分すぎる魅力だ。


 

「チームに入ってもらう。君の知識と嗅覚、交渉の経験が必要だ」


「……君には、他の二人とチームを組んでもらうことになる」


 不意に、京極が静かに口を開いた。


「へえ、二人?」


「一人は元警察官。現場叩き上げの実力者だ。もう一人は……日本電子頭脳研究所から提供されたAIユニットだ」


「国家のワンちゃんと、兵器ね。なるほど、俺が選ばれた理由がなんとなくわかってきたよ」


 俺は肩をすくめて笑った。


「オカルト担当に、拳と理性と機械仕掛け。バランスは良さそうじゃん。で、俺は知識と交渉役ってわけだ」


「そういうことになるな」



 案内された先の待合室は、思ってたより静かだった。

 中にいたのは、小柄な少女。制服みたいな服を着て、静かに立ってる。


 ──ああ、たぶんこれが“兵器”。


 「こんにちは。あなたが御守 尊さんですね?」


 「そうそう、よくできました。オカルトマニアのポンコツ担当、御守くんです」

  透明すぎる瞳。制御された瞬き。姿勢、体重移動、全部が“設計”されてる動き。


(……こいつが、例の“AI兵器”か)


 「こんにちは。あなたが御守 尊さんですね。情報照合中……一致確認。よろしくお願いします。私はAIKO。今日から同じチームになるらしいです」


 表情は一応笑顔っぽく作られてるけど、瞳が全然笑ってない。逆にすごい。完璧な“外面”だこれ。


 「おお〜〜、喋る喋る。ほんとに喋るアンドロイドって初めて見たわ。なに? 中にちっちゃいおっさんとか入ってる?」


 「入ってません。私は外部制御ではなく、自己判断型のAIです。内部には誰もいません」


 「冗談なんだけどなぁ……まぁ、よろしくAIKOちゃん。あとで君の内部構造図とか公開してくれたら嬉しいな」


 「セキュリティ制限で公開できませんが、“部品の名前一覧”ならご提供できます」


 「それだけでもご褒美だわぁ……」


 手を合わせて拝むポーズをとった俺を、AIKOはまばたきせずに見つめていた。


 (うん、こいつやべぇ。生身じゃ絶対勝てない系。たぶん鼻歌うたいながら戦車破壊できるやつ)


 「深見さんももうすぐ到着します。おそらく、合流はあと数分後になるかと。事前情報では“普通の人”と聞いていますが……実際に見るまで評価は保留です」


 「そっか、ワンちゃんも来るんだ」


 ぼそっと言ったつもりが、AIKOの耳がピクッと反応した。


 「“ワンちゃん”というのは比喩表現ですか? それとも、動物が来るという意味でしょうか」


 「あー……うん、前者かな。優秀な“国家の番犬”って意味。きっと真面目で、冷静で、堅物で、めっちゃきびしそーで優しい……そんな予感がするよ」


 「……なるほど。優しいワンちゃん。いいですね。信頼関係を築きやすい概念です」

 

 「うんうん。で、俺は“ポンコツ”枠で、君が“兵器”枠。なかなかいいチームバランスなんじゃない?」


 「現在の編成は、情報処理上も最適解の可能性があります。──感情的には、まだ判断できませんが」


 「私はAIKO。戦闘支援ユニットで、今日からチームを組む予定です」


 「ちなみに君、表情筋はどこのモーターで動いてんの?」


 「すみません、それは機密です」


 「そっかぁ。まぁ、そのうちパーツ見せてもらうから覚悟してね」


 「その発言は軽度のセクハラに該当する可能性があります」


 「冗談冗談。でも、ちょっと面白い子だね、君」


 俺が座ると、AIKOは少し傾げた。


 「“子”ではありません。“個体”と表現してください」


 「やっば、めっちゃ面白いわ君」


 


 そんなやりとりをしていたら、ドアが静かに開いた。


 振り向くと、黒いジャケットに身を包んだ男が立っていた。背は高く、目つきは鋭い。スーツの下にタバコの匂いをほんのりまとわせて、何も言わずにこちらを見ている。


 「深見さん、ですね。身長175、視線の動き、警戒レベル中。──悪人ではないと判定」


 AIKOが自動的に呟く。


 「へぇ。あれが“犬”か。確かに、優秀そうなツラしてるわ」


 思わず、口元が緩む。


 


 “兵器”と“国家のワンちゃん”、そして“ポンコツ”。


 どう転んでも、普通のチームにはなりそうにない。


 でも、きっと──


 「この組み合わせ、ハマれば強い気がする……」


お読みいただき、ありがとうございました。


御守 尊という人物の輪郭が、少しずつ明らかになってきた回でした。


軽口の多い語りの裏に見え隠れする知性と過去。

彼がこの研究所に加わった意味は、後の展開で徐々に明かされていきます。


次回は、いよいよ深見・AIKOとの初対面へ。

3人の歯車が噛み合うのか、それとも軋むのか。どうぞお楽しみに。

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