予測された未来
はじめまして、梨織と申します。
本作は、「人間vs超常存在」をテーマにしたSF×ファンタジー×組織ものです。
未来視を持つ苦労人の施設長が、破滅を回避するために集めた“普通より少し変な人たち”の物語を描いていきます。
世界観はやや重めですが、キャラの掛け合い・人間ドラマ・超常バトルなども盛り込んでいく予定です。
どうぞ、お気軽に読んでみてください!
0章1話:予測された未来
また胃が痛む。
ここ最近、痛み止めを飲んでも効きが悪い。
このままだと胃に穴が空くのも時間の問題かもしれないな、と京極永徳は思う。
地球人外研究所──世界連合政府の日本地域に存在する極秘組織。その作戦司令室の奥、窓も時計もない殺風景な部屋で、彼は一人、資料の山に埋もれていた。
苦労ばかりの毎日だ。
年齢はまだ四十代のはずなのに、鏡を見るたび六十近くに見える自分がいる。
しわの刻まれた目元を擦ると、乾いた手がささくれを引っ掛けて痛んだ。
……ほんの少し前までは、ただの未来観測官だった。
だが、気づけば“施設長”などという肩書きを背負わされ、地球の安寧だの世界の均衡だのを任される羽目になった。
――神も仏もあったもんじゃない。
いや、実際にはいるのだ。神も仏も。
それどころか、もっと質の悪いものまで、八百万と。
異形、怪異、妖怪、魔術師、吸血鬼、そして――“伝承の主ら”。
それらは元々、この星に根ざしていた。人類よりも先に存在し、長らく互いの領域を守って暮らしていた。
人と交わることもなければ、争うこともない。そういうものだと、世界が無意識に信じていた。
……それが、三十年前に壊れた。
宇宙帝国の侵攻。
地球が“ただの惑星”ではなく、“資源と価値を持った拠点”として狙われたあの戦争。
地球はかろうじて滅亡を逃れた。宇宙連合に加入したことで、帝国が手を引いただけの話だ。勝ったわけでも、守りきれたわけでもない。
本気を出されたら終わっていた。事実、それだけの力を帝国は持っていた。
そして、戦争の混乱は──地球の“抑え”を外してしまった。
旧き神々、超次存在、異星由来の災厄、神性災害、崇められしもの、伝承の者たち。
ありとあらゆる“上位存在”が、今までは水面下でバランスを保ちながら共存していた。
だが、戦争がもたらした秩序の崩壊と、宇宙からの異質な介入によって、そのバランスは静かに、だが確実に壊れ始めている。
神々は今でも表立って争わない。
接触すれば、戦争が始まることを互いに理解している。
だからこそ、今も“見えないふり”をしてやり過ごしている。
それがこの地球に残された、最後の平和のルールだった。
……だが、それも限界だ。
今や怪異は目の前に現れ、異形は隣人となった。
それでも表向きの記録では、「宇宙由来のテロ」「特殊ウイルスによる集団幻覚」と処理されている。
世間の目を誤魔化すのは簡単だ。だが、誤魔化したところで、何も解決しない。
ーーー
京極には、それが“視えて”しまう。
彼は、未来の断片を拾い集めることができる。
可能性のなかに沈んでいく「最悪」の世界を、まるで夢のように脳裏に焼き付ける。
ある日、宇宙が裂ける光景を見た。
またある日には、地球全体が狂気に呑まれる映像が浮かんだ。
異形と人類の混合国家が、人間を労働階級として囲い込むディストピアも見た。
「……いずれも、まともな終わり方ではなかったな」
避けるには、手を打つしかない。
過去を見ても、現状を見ても、最悪の未来に進んでいるのは明らかだった。
かつて、施設は“最強のバディ制度”を導入した。
異次元の天才と最強を自負する戦闘狂どもを組ませて、最短で最強の成果を上げるための制度。
だが、結果は最悪だった。
天才は自己都合で命令を無視し、“最強”は被害を省みず、好き勝手に戦い、自己都合で敵を逃し、あろうことか人間、地球の人々に手を掛けるものも多かった。
やがて一部は組織から離脱し、自らの宗派や軍閥を作り出していく者、旧国に引き抜かれ日本地域とは違うチームは引き抜かれ、派閥は生まれ、各国の思惑が錯綜し、施設は瓦解寸前だった。
──だから、新しい道を探した。
今度こそ、“人の域を逸脱していない者たち”を集める。
常識の範囲で強く、賢く、それでいて協調性を持ち、命令を聞き、適切に連携できるチーム。
……いや、正確にはもう一歩足りない。
この2人だけでは、戦力としては不足だった。
だが、厄介事として押し付けられた“ある存在”が、まさに渡りに船だった。
1人目──深見 真。
日本地域の警察組織に所属していた男。国家の犬と聞くと嫌な顔をするものもいるだろうが、私にとっては、優秀な犬だ。
検挙率は日本で3位。冷静沈着で功利主義的であり現実的。だが根底には人としての善性がある。
引き抜きには難航したが、タバコ税123万円の免除と公務員にしては破格の給料、具体的には警察官であった頃の彼の給料の5倍程度という条件で交渉成立。
強すぎず、弱すぎず、バランスに優れたオールラウンダー。
リーダーとしての資質もある。彼には、AIKOに人間の“理性”を伝える役を期待している。
2人目──御守 尊。
調停の一族の血縁でありその道では、かの一族には関わるなといった逸話、噂話が出回るほどの超名門の出の男だ。
だが今は、その一族の力を手放すことで、一族からの縛りからは出奔し、ただのオカルト好きな変人を装って生きているみたいだ。
彼の霊的存在への知識と嗅覚は本物であり、超常現象に疎い2人へのいい知恵袋となるだろうと期待している。
また、彼は現在、過去の力を知られぬように振る舞っているが、それでいて妙な威圧感と品格を隠しきれていないのが側から見ていて面白い
彼はAIKOに、“知識”と“疑問”を与える役だ。
3人目──AIKO。
日本地域旧日本国政府の直轄にある日本電子頭脳研究所から押し付けられた戦闘用AI。
性能としては戦車、戦闘機、果ては宇宙船とも互角に戦える性能をもつ戦闘用AIらしい。この少女を受け取りに行った時に模擬戦闘を見せてもらったが、正直チビった。このAIがいたらかの宇宙戦争にて地球が勝ったんじゃねって素人ながらに思うくらいには戦闘能力は圧倒的だった。
あぁ思い出したら胃痛が
さてなぜ彼女が私に押し付けられたかというと、一言でいえば精神の成長の為らしい。頭いいくせに小難しい話ばっかしてくる科学者連中のことを要約するに霊的エネルギーを宿すには、魂の確立が必要とのこと。
魂とは、感情の揺さぶりであり、成長であり、知識であるということらしい。正直この手の話は私にはわからない。まぁ、つまりその為精神が最も大きく成長すると見られる13〜16歳あたりに精神レベルを設定しているらしい。
現在は感情の安定性に問題があるが、その力は確かに本物である為、施設としては持て余す案件だったが、京極はその不安定さを逆手にとった。
この2人なら、彼女を「戦力」として扱いながら、同時に「学ばせる」ことができる
──この3人なら、かつての失敗を繰り返さない。
胃痛を抱えながらも、京極は静かに資料を閉じた。
暗闇のなかで、少しだけ光が差す。
まだ、火種が燃え上がる前の段階。
戦いはこれからだが、始まりは今、幕を上げる
最後までお読みいただきありがとうございました!
この0章1話では、世界観と施設長・チーム結成の導入を描きました。
次回は「深見 真」視点で、現在の世界と、彼が巻き込まれていく流れをお届けします。
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