9話 ご開釣
「それじゃ、行ってきま~す」
今朝は池の周りを散策しようかと思い少し早く起きた。結局、あのイノシシ親子の後は誰ひとり来なかった・・・。もう少し忙しくなるまではエンフェイさんの猿軍団は呼べないな。
「待って下さいケンチ様ぁ!私も一緒に行きますぅ!」
ウサギコロンが頭にピョンと跳び乗ってくる。この姿はモフモフで本当に愛くるしい。
「ケンチ様?あのぅ、用水路をですね、も少し深くして欲しいのですぅ。お猿さん達が手伝ってくれたから、あっという間に六反程になってしまってお水を汲むのが大変なのですぅ」
「ろ、ろくたん!?まだ4日間位のお話だよ!?すごいな!!・・・あ~、でもね、作付する物がまだ・・・なにも・・・交換出来てなくて・・・」
「大丈夫ですよぉ!きっと今日はいっぱいきます!!」
「ありがとう(つд`)いい子やねぇ~。うん。モフモフ。きっと来るよね!モフモフ」
「です!!」
「あ~、二人とも行ってらっしゃ~い。私はいーや。昨日食べ過ぎちやってまだ体が重いー。そんで眠い~~」
そりゃそうだろうよ。結局呼び出せたイトウを平らげた後「足んないゾ(ゝω・)」とか言ってニジマス七匹食べてたからね。
「わかった。じゃ、行ってきます。あー、朝ご飯は木の実にしときなよ~!バランスね、バランス!!」
「ふぁ~~い・・・たべとくよ~・・・ムニャムニャ(σω-)。о゜」
完全に生返事だなあ。
「やったあ!ケンチ様と二人っきりですぅ♪ケンチ様は朝ご飯食べましたかぁ?」
「ん?いや、まだだけど・・・」
「それじゃ、私を♡・・・あ!動いたら余計お腹減っちゃいますかねぇ♪」
「・・・そーねー(俺も生返事)。そーゆーコロンは食べたのかい?」
「私もまだですぅ~」
「ちょうどいいのがあるよ」
昨日、リュウとキュウが集めたシイの実がまだポケットに入りっ放しなのを思い出し、コロンに差し出した。
「わ!ドングリ!!・・・いっただきま~す!・・・カリカリ・・・ウン、これは!きっと拾ったばっかりじゃなくてちゃあんと貯蔵してた感じかな?しっかりと乾燥されてて芳ばしいですぅ!ケンチ様もどうです?」
「そういえば、生でもいけるドングリがあるって聞いた事あるなぁ!けれど食べるのは初めてだ。どれどれ・・・ん!このままだとちょっとえぐ味を感じるけど、ほんのり甘いんだね!煎ったらもっと旨いかも!へぇ~、ドングリもやっぱりナッツなんだね!!」
たしか、近所の障害を抱えた方々がクッキー焼いて売ってた店に、ドングリクッキーってのがあって気にはなってたんだよ!くぅ~!食べとけばよかったな・・・。
「ケンチ様~、見てください!!ほら、姉御ですぅ!がお~~」
重要してドングリを2つ、口の端に挟み牙に見立てて威嚇のポーズをとる。
「あはは♪可愛いクマさんだこ・・・と!?」
「ガオー、ガオー!!」
「コロン!ミーシャ!!」
「そですよぉ~?似てますか?ガオー!!」
「いや!そうじゃなくてミーシャが!」
コロンの背後に狩る気満々のミーシャの姿が!!コロン後ろ!!
「ガオー!!・・・くふふっ♪でも姉御ってとっても優しい熊さんですよねぇ・・・。本当だったら私、捕らえられた時点で死んでる筈ですもの・・・。きっとケンチ様の目の前だったから即死させなかったしその場で食べなかった。それにせっかく採ったのにお魚でガマンとかしないですもん。私、お二人に出会えて本当に幸せですぅ!美味しい物い~っぱい食べれて、寝るところは薄暗い穴の中じゃなくって、お風呂も入れて毎日楽しくて・・・姉御もケンチ様もだぁ~い好き♡」
背後に気付く事無く今の気持ちを素直に語り始めたコロンに、分かり易い程照れているミーシャが咳払いをした。
「わ!わ!姉御!!いったい何時からソコにいたんですかぁ??」
慌てふためくコロンが俺の背中にしがみ付く。
「いっ・・・何時からってΣ(゜Д゜;≡;゜д゜)い、今来たばっかりだもん!!別に何も聞いてないもん!何を楽しそうに話してたのかなあ~っと・・・なによ!ケンチ!!ニヤニヤして!!」
「べっつに~~?何でもないですよ~?それよかミーシャさんこそ、どうしたんですかぁ?体重いから家にいるんじゃなかったっけ?」
「・・・ちょっと、あれよ、そう!食べて寝てばっかりじゃ、太っちゃうかなあ~って。あ、二人っきりにするのが気になったからとかじゃないからね!!絶対違うからね!!」
「二人っきりがよかったですぅ・・・」
「なに(-_-#) ピクッ」
「何でもないですぅ!あ~ねごっ♪」
「こっ、こら!やめっ・・・纏わり付くなよ(。・~・。)わ!食べカスついた」
じゃれ合う二人を微笑ましく思い、そろそろ池に着く頃だと歩みを進めるがどうも様子がおかしい。
「変だな」
「ケンチが?」
「違うわ!・・・池の方が何だか騒がしいような・・・」
「お客さんじゃないですかぁ?」
「!!」
思いもしない一言に走り出した俺は、その光景に絶句して荷物を落とした。
多種多様な獣人達が、釣りをしているじゃないか!!あちらこちらで竿が曲がり猿達が忙しそうに走り回る。
こうなったらいいな、が強くて遂に夢まで見るようになってしまったか・・・。
「こ~らあ~!!ケンチ殿!!随分と遅い朝よのう!!そこでなにをしとるか!!速う私と代われ!!」
エンフェイの投げつけた空の瓢箪が頭に当たり、この大盛況が夢じゃないと知る。
「エ、エンフェイさん、これはいったい!?」
「知らんわ!!酸漿から助けてくれと伝言がきて、ここに着いてみればこの有り様さね!
・・・あ~!鬱陶しいねぇっ!貴様ら、もそっと離れて釣りせんか!この馬鹿オスども!!」
エンフェイさんの周辺だけやたらに人口密度が高い。
チラチラ見る者、釘付けになっている者、ソワソワしている者・・・ふむ。エンフェイさんの美貌は種族を超えたか。
「お前らが来たなら私は帰る。いや~、疲れたねぇ~。この貸しは大きいぞ?いつか体で払って貰わないとねぇ・・・あら?いやん♡」
そう言いながら立ち去ろうとするエンフェイの着物の裾が、何かに引っかかりハラリと脱げ落ち妖艶な肢体?が露わになってしまった。途端、オス達の目はハートになり鼻の下がこれでもか!というほど伸びた。
前に「私らはヒトと大して変わらん」と言っていたけど、確かに・・・!思わず違う方を向いてしまったが、一瞬見えた裸体はとても美しかった。
「こらっ!!貴様らの目、ほじくり出すぞ!猿妃様を見るなこの三下共がっ!!呪われてしまえ!忘れろ!でなければ脳もほじる!!」
素早くスゥが飛び回り、あっという間に着付け直すと、牙を剥き出し威嚇してまわる。なる程、オス達が一定の距離をとって大人しくしていたのはスゥアンジャンが牽制していたからか。
俺も忘れよう。スゥちゃんならマジで目玉をほじくりかねないし、デレッとしているとミーシャが怖い・・・。
「わ!スゥちゃん忍者みたいにシャカシャカですぅ!・・・あれれ!?お客さ~ん・・・竿はお一人様一本までですよぉ?どっちかに・・・ひや~~っ!◎△$♪×¥●&%#?!」
顔を真っ赤にしたコロンが釣りをしているオス達から飛び退き急いで逃げた。
まあ、そうだろう。俺だってあんなモノ見たくない!
「うぉい!!ソコの無能ども!!お前らウチの大事なコロンに何てモン見せてくれてるんだp(`Д´)qその釣りの出来ない竿を早く仕舞え!!咬み千切んぞ!!」
ミーシャがグオォォーとひと吠えすると、たちまちオス達の顔色が悪くなり、竿が視界から消えた。最強の捕食者に脅されたのだから、そりゃそうなるか。
・・・危ない。俺も咬み千切られるところだった・・・。
「馬鹿者・・・。相変わらずだねぇ!加減ってものを少しも学ばないようだのぅ」
「で、御座いますね!殺気の塊でした。危うく気を失うところで御座いましたが・・・私はともかく、よく耐えられたな、やるな!コロン!」
「エヘヘσvσ姉御に怒られ慣れてますから~」
そういう慣れ方もあるのか・・・俺は・・・縮むと同時に少し漏れた。少しね!!
「ほれみろ。半分程の客が今ので逃げ出してしまったようだねぇ。もっとも、ソイツらは私目当ての助平共のようだったが・・・全く小さな子供も居るってのに・・・おや!君らは平気なのかえ?随分と逞しい子達だねぇ!!」
ん!?あの子達は!!
「ヘーキだよ!!オネーチャン優しいもん!」
「ねー!」
「ボク、オネーチャン好き~!」
「ボクも~!」
やっぱり!!
「リュウ!キュウ!!また来てくれたの!?昨日は楽しかったねー!!今日はオトーサンは?・・・ああ、そこで伸びてるみたいだね・・・ごめん(´-ω-`)」
「ううん。トーチャンならヘーキ」
「ヘーキ!!」
ミーシャに纏わり付いてはしゃぐリュウとキュウに比べて・・・やっぱりちょっと頼り無いと言うか・・・まあ、優しくておっとりとした心の持ち主なんだろうな。
「ん!!もしかしてだけど、このお客さん達は君たちが!?」
「ウン!昨日の帰り道にそのお魚どーしたとかいっぱい聞かれたの!だから楽しかったよって話したら、みんな来たみたい!」
「オネーチャンキレーっていったら『よし!行くか!』ってヒトもいたよ?」
「うわ~~!嬉しいなあ!君たちが宣伝してくれたからこんなに沢山のお客さんが・・・!すごいや・・・!ありがとう!二人とも!!」
「おい、ニィちやん。竿はドングリじゃ無くても貸してくれるのかい?」
うり坊兄弟と話していると、鼻筋の白い・・・ハクビシン・・・かな?・・・の獣人が釣りをしたいとやって来た。
「あ、はい!貸し出しは木の実とか穀物とかなら何でも大丈夫で、遊ぶだけならそれだけで結構です。魚との交換は果物とか肉とかになりますけど」
「分かった。じゃあ、これでもいいかい?」
差し出された葉の束からはバジルによく似た香りがする。スゥアンジャンの方を見ると頷いているので食べられる葉っぱなのだろう。
それからは、怒濤の勢いで忙しかった。
「はい!確かに!ありがとう御座います。あちらで竿と餌を受け取って、お好きな所で始めて下さい。釣り方はお猿さん達が教えてくれますので、どうぞ楽しんで来て下さい」
「ありがとう」
「この魚持って帰りたいんだけど、どうすればいいの?」
「はいっ!スゥちゃん!!この方よろしく!!」
「なあ!コッチ来てくれよ!隣の奴と糸がこんがらがっちまってよ」
「はいっ!ただいま伺います」
「餌なくなっちゃったんだけど、追加貰えるのかい?」
「はいっ!ちょっとお待ち下さい」
「ソコのお兄さん!針がとれたよ!」
「はいっ!」
「猿のお姉さん居なくなったゾ!」
「それは・・・」
ヤバい。嬉しい悲鳴だ!
お魚交換場も列を作って賑わっているようで果物や肉類が山と積まれている。これはお魚が足りないかもしれないと二度程召喚で追加した。
「・・・だ~っ!疲れた・・・」
最後の一人が帰ったのは日が落ちてもう浮きが見えなくなってからだった。
「ひ~ん・・・クタクタですぅ・・・」
「だね~~。お腹空いたよぉ~~(>ω<。)」
「流石に私も疲れました・・・。まるで足が棒のようです」
みんな“今日はやり切った”的ないい笑顔でへたりこんでいる。んー、なんていうか、この一体感・・・まるで本当の家族のようだな・・・!
「・・・ねぇ、ケンチ・・・このお肉とかさ、どーやって運ぶの?私、もう疲れたからや~よ( ̄0 ̄)」
あ~~・・・結果は上々過ぎる程だけど、ある程度の制限を設けないといけないな・・・。嬉しすぎてうかれてたよ、反省・・・。
「・・・それは私が運びます。今日も倅達がえらい世話になった上に食事にまで誘って頂けるなんて。この位のことしねと、バチが当たるでよ」
そう、今日の立役者のイノシシ親子を夕御飯に誘ったのだ。始めは申し出に警戒していたソントンさんも(まあ、そうだろう。どっちかっていうとイノシシが熊の餌だもんね)ミーシャに懐き一緒に転げ回って遊ぶリュウとキュウを見てあの娘なら大丈夫だ、ぜひと了承してくれた。
「ん~だば、いくべ」
荷車いっぱいに積まれた食料は恐らく五百キロ位はあるだろうに「むん!」と一声発したのみで平然と動かした。
「へえ~~。見かけによらずやるもんだね。ちょっとだけど見直したよ(・ω・)」
帰路の道のりは平坦ではなかったが訳なく運んだソントンさんにミーシャが感心した。
・・・その晩のご飯は実に豪華で楽しかった。俺も久しぶりに肉を焼き、その美味さに舌鼓を打ったのだけど、俺以外誰ひとりとして火の通った肉を口にしなかった。それでもそれぞれが果物や穀物をお腹いっぱいに食べ、エンフェイさんや猿軍団も交えて飲めや歌えの大騒ぎ!中でもソントンさんの腹踊りは息が出来ない程笑えて、一躍皆の人気者になった。
次の日も、その翌日も連日大賑わいをみせた。その度にエンフェイさんやソントンさんが手伝いにきてくれてなんとか乗り切る事ができ、集まった沢山の食物は“給料”という形でみんなに配ることが出来た。
「楽しい仲間に囲まれて毎日が幸せだ。もう向こうに未練はないし、このまま家族として暮らしていくんだ!よ~~し!!頑張らないよーに頑張るゾ!」
だけどもやっぱり何事も無くと言うわけにはいかず、事件は起きた。




