5話 届け物
「いや、コレはその、不可抗力と言いますか、フカフカ効力と言いますか、決してよこしまなアレでは無くて・・・」
「スケベp(`Д´)q!!」
バチコ~ン☆
言い訳の効かない右手の在処は引っ叩かれるのに十分な理由だった。
どうやら俺は酔っぱらってミーシャにのし掛かり寝てしまったみたいだった。
エンフェイが帰ったのに気がつかない位酔ってしまうとは・・・ちょ~っとハメを外しすぎたかなぁ。救いは鼻の牙がクシャミの勢いで外れていた事だ。まだ刺しっぱなしだったならと思うと・・・ひーっ。
「・・・ゴベンバハイ」
真っ赤に紅葉が咲いたほっぺたのせいで旨く喋れない。いつか牙の事も謝ろう。心が痛む
いや~。完全に調子に乗ってたや。酒の席の失敗は数多くあるけど、コレは一位二位を争う大失態だ。思い出す度に頭掻き毟って布団の中で「うわ~。む~。あ~」とか悶え苦しむやつだ。
「本当にごめんなさい!!エンフェイとちょっと飲み過ぎちゃって、糸も針も作ってくれる、って言うから嬉しくって、つい!」
「つい、で姉御のおっぱい揉んじゃうんですかぁ?ケンチ様イヤラシイですぅ」
コロンから軽蔑の眼差しを受ける。面目ない事この上ない。
「うわ~~(泣)違うんだよ~、ミーシャ様ぁ。信じてくれよう。わざとじゃないんだよ~~」
腕を組み仁王立ちしているミーシャの足元にすがると、ぷいっと、そっぽを向いてしまった。
カーテンを揺らす爽やかな風の朝に、俺、土下座。
「ま、まあ?わざとじゃない、ってゆってるし?大っきなお魚二匹で許してやらない事も無いかな?・・・それにそんなにヤじゃないし(๑・౩・๑)」
「え!?最後の方ゴニョゴニョでよく聞こえなかった。お魚の他に何か欲しいの??」
「うっさいバカ!!・・・ホントねぇ、後ろから抱きついてたら殺してたとこだよ!?」
「はい・・・ごめんなさい・・・」
謝ってみたものの、何で後ろからはダメなんだ??
「なあ、コロン。何で後ろから抱きついてたら殺されるんだ??」
「それはケンチ様アレですぅ。その・・・私たち獣だから・・・後ろからは・・・イヤン。ケンチ様のバカ♡」
「言うなっ!!(//ω//)パン!!」
何故俺に平手打ち?反対側のほっぺたまで真っ赤だよ・・・しかしまあ、なる程。大抵の動物のオセッセは後ろから、だもんね・・・。うん。素っ裸のクセにそこは恥じらうのか・・・カワイイのぅ。
「何ニヤニヤしてるのよ!バカ(●`ω
´●)!!」
「ゴメン!!」
平手打ちの構えに思わず謝ってしまう。
「ん~~。姉御もほっぺ赤いですよぉ~?二日酔いですかあ?」
「ち、違うもん!!赤く何てなってないもん!!・・・あ~~!もううっさいうっさい!!コロンはとっとと畑行け!!ケンチは朝ご飯出す!!はやくしろ~~ヽ(`Д´#)ノ」
寝起きから元気だなぁ・・・まるで駄々っ子みたいだ。
「はいはい。今出しますからね~。あ、コロン。畑手入れする時にミミズが居たら数匹取っておいて欲しいんだよね。糸と針が多分そろそろ届くと思うんだ。完成したら皆で池に行って釣りをしようよ!」
やっぱり出陣の朝はワクワクするなあっ!コレは言葉が違っても、世界が違っても全てのアングラーが持つ少年のココロなのだ。いつ届くんだろうなあ~!待ち遠しいなあ~♪
「分かりましたあ~~!ケンチ様、まっかせて下さい♪私、ちょっと釣り楽しみですぅ~!ぶっといウニウニゲットして来るんで待ってて下さ~い♪」
「頼んだよ!気をつけて行ってきてね」
「は~~い♡」
跳ねるように畑へと向かうコロンのまあるい尻尾を眺め送り出す。
さてと。ミーシャの朝ご飯、と。
・・・う~ん、大きなお魚二匹かぁ。今の俺には選んで出せる程のスキルがないしなあ・・・。手当たり次第だと他のお魚勿体ないし・・・。
「ねえミーシャ。そこの塩漬けの甕みたいなの、余ってない?水張ってそこに召喚したいんだけどさ。そしたら大きなヤツ以外は池に放せるじゃない?」
「ん?あるけど、お魚持って行くなら荷車に放せば?水入れれば小っちゃな池みたいになるじゃない?」
「へっ!?驚いた!荷車何てあるの??」
「あるよ~!荷車くらい。ソッチの世界とあまり変わらないんだよ?コッチも。ただ、釣り道具とか、火とか、それが私たちに必要か必要じゃないかの違いでコッチには無いものもあるけどね」
「そうか。そうだよね。人か獣人かの違いはあれども、生を営んでいる事に変わりは無いものね。ゴメン」
無意識に“人が種族として格上”と思っていた自分がいると思うととても恥ずかしくなった。
「んー、ただ圧倒的に獣の方が多いかなぁ。私たちみたいに獣人で話しが通じるのは少ないから、ケンチもあんまり遠出しない方がいいよ?危ないから(・ω・)」
「わ・・・分かった」
そうだよな。あの時の羆がミーシャでなければ俺、もう喰われていたんだろうな。
・・・・ん?喰われ!?そうだった!!
「コッ、コロン!!一人で畑に行かせちゃった!!迂闊だったよ!ミーシャ、コロンを迎えに行こう!!他の獣に襲われてしまう!」
実際、ミーシャもコロンを食べる目的で確保した訳だし!!
「あ~~。ヘーキだと思うよ?この辺りは私の縄張りだからねー。よっぽどの馬鹿で無い限り近寄っても来ないよ~」
「へ~!縄張りかぁ、スゴいな!!ミーシャはこの辺のヌシなのかい?」
「ま~~ね~~(っ´ω`c)」
あ、なんか、スゴい嬉しそう。
「・・・って、もしかして、エンフェイさんからの品、ビビって届けられないでいる、とかってない??」
「・・・ある・・・かも?」
「わお!」
急いで玄関へと向かう俺の手をミーシャが引っ張って止めた。
「もし来てるとするなら反対側。匂いがしないもん。風下に立つだろうから若し居れば勝手口の方かなぁ」
俺なら、わざと風上から現れてい「今そちらに伺いますよ」ってアピールするところだけど、獣の本能的に気配を断ちたいのか?
そんな事を考えながら言われた通り勝手口を開いてみると、そこにはオドオドとした、昨日エンキの元へやって来た二匹とは別の猿が立っていた。
「あっ!あの!おはよう御座います!!貴方がケンチ様ですね?猿妃様より承りました品々を此方に届けるよう仰せつかったスゥアンジャンと申します!!こっ、こちらがご所望品で御座います。どうぞお納め下さい!!」
緊張でガチガチのスゥアンジャンと名乗ったメスの獣人はまだ年端のいかない、そう・・・見た目人間なら12、3歳といったところかな?瞳が綺麗な紅色で印象的だ。エンフェイもそうだったかやはりこの子も服を着ている。何処となく漢服に似ているのは彼女の趣味なのかな?
「あ、あの!お納め下さい!!」
「ああ、ゴメン!・・・はい、確かに!!
う~~ん!!素晴らしいね♪糸は細くしなやかなのに強靱だで、針も餌止め程度のカエシで先は爪に刺さる程ピンピンだあ!!
・・・完璧です!!素晴らしい品をありがとうとお伝え下さい」
「どんなヤツ出来たの~?」
「はい!!かしこまり・・・ひゅー」
のそり、と羆のミーシャが顔を出したものだから、スゥアンジャンは立ったまま気を失ってしまった。
「だっ!?大丈夫??ってかミーシャ!!何故に熊の姿に!?スゥアンジャンびっくりして気絶しちゃったじゃないの!!
・・・スゥちゃん!?スゥアンジャンさん大丈夫ですか!?もしも~し!!」
「だってさ、あの池に行くなら元の姿でケンチ背中に乗せていった方が速いんだもん。荷車なんて引いてたらお昼になっちゃう!それとコロンも迎えにいくんでしょ?わ・た・し、早くご飯食べたいの(●>皿<●)」
悪気はないし、確かにその通りだからこれ以上何も言えない。
「う~ん、どうしよう。スゥちゃん起きないや」
「どうせソイツも食べちゃダメってゆうんでしょ?ほっとけば?」
「そりゃ可哀想でしょ?駄目だよ、置いてけぼりなんて!絶対他の獣が来ない訳じゃないでしよ!?・・・ちょっとスゥちゃん!?スゥアンジャンさん!?
・・・だめだ。起きないや」
「もう面倒くさいなあ~( ̄ω ̄)
・・・ソイツ乗っけていいから連れてっちゃお!!お腹すいた(●>皿<●)」
そう言うなりスゥアンジャンの襟をパクッと咥え背中に放り投げると、俺にも早く乗れと促す。
ミーシャは思ったよりもスゴいスピードで、原付よりもはるかに速かった。途中岩やら倒木なんかがあったのにモノともしない。あっという間にコロンを拾い池へと向かう。
・・・本当に出会った羆がミーシャで良かったと心から思う。ミーシャの背中は温かく割と乗り心地がいい。つやっつやの毛並みをそっと撫でてやると「ん~(≧ω≦)」とか甘い声を出す。やばい。カワイイ。ペットとして。
「ふわぁ~~!森の王様になった気分ですぅ!こんなに高い所から・・・姉御の見る世界ってこんなに感じんですね!スゴいですぅ!さすがですぅ!!キっモチいい~~♪」
コロンが腕を回して俺の背中にしがみつくものだから、興奮して暴れる度に胸が・・・!服越しにポッチが・・・。やめて!キノコ生えちゃうから(泣)
「イヤン♡ケンチ様硬くなってるですぅ♪」
「なっ!!ω##」
ミーシャが急に止まるものだから俺たち三人はつんのめって落下した!勿論、俺が下敷きで。
「痛っててて~!何??急に止まるなよ~。落っこちちゃったじゃないかぁ!」
「フワァ~。ケンチ様大丈夫ですかあ?」
「あ、あ、・・・何故か体中が痛い・・・はっ!?こっ、ここは??私は確か、ミーシャ様邸に居たはず・・・。そうか・・・やはり私は羆に喰われてしまったのか・・・」
「良かった!気がついたかい!?」
「嗚呼!!猿妃様!!先立つこの身をお許し下さい!!もう・・・もう猿妃様にお会い出来ない何て・・・!!」
「あの~もしもし?」
「こんな事になるならやはり今生の別れに抱いて欲しいと頼むべきだった!!呪われろ!!猿妃様以外は全て呪われてしまえ!!
「・・・」
「特にケンチとかいうツルッとした猿!アイツが全部悪い!!アイツが図々しくも猿妃様に頼み事などするから私がこんな目に!!1番色濃く呪われてしまえ!!」
「・・・スゥアンジャンさん?もしかして打ち所、悪かった?さらっとひどい事言ってるけど大丈夫??」
「へっ!?・・・あれ??あれれ???ケンチ様?私、生きて?・・・ひぃ~~!くっ、くっ熊!!ヒュー」
「それはもういいって!!」
ようやく落ち着きを取り戻して事の顛末を聞き、ミーシャが自分を食べたりしないと分かるとスゥアンジャンはポロポロと泣き出した。どうやらミーシャの背中に乗っていた為に匂いがついて、群れに帰る事が出来なくなってしまったのだと言い、嘆いた。
「帰る事が出来ないとあらば、生きていても無意味。更に食べても頂けないと言うのであらば、このまま生き恥をさらしながら生きてゆくしか無いのか・・・」
「・・・お前なあっ!せっかくケンチがほっとけないって連れてきてやったのにさ!!何!?猿って奴らは皆鬱陶しいのばっかなの??エンフェイは私んとこよく来るけど帰ってるよ!?それでも帰れないんならここに居りゃいいじゃん!」
「ぐすっ・・・それは私を養って頂けると?かっ!かたじけない!!自分も届け物のようになってしまった・・・」
「面倒見るのは私じゃないけどね!!」
へっ?・・・・俺?
「それから!・・・ケンチ、コロン、そこに座りなさい」
「はい」「はい姉御♪」
ヒト型になったミーシャは腕を組み、正座した俺たちを仁王立ちで見下ろした。
「さっき私の背中でなにしてたの!?ケンチのが硬くとか何とか-ω-#」
それは誤解もいいとこだ。それに危うくだが大丈夫だったし!
「それはぁ~。ケンチ様がコチコチにぃ・・・」
「こらあ!コロンやめなさい!!他に言い方あるでしょ!?」
素で危ないなぁ!恐ろしい子!!
「いやあ、俺はね?出会った羆がミーシャで本当に良かったなと、違ってたら襲われていたなと思うと身が引きしまる思いで緊張したの!!」
「・・・ありがとうな。ミーシャ」
「なっ!何よ急に(〃ω〃)私はただ、面倒くさい事になるから追い返したかっただけで、その、別に、何かあるわけじゃなくって、ちょっと気になったとか、違う!あれ///」
「ウフフッ♪姉御、顔赤いですよぉ?」
「ちがっ((((*゜▽゜*))))おっ、お腹減りすぎて興奮気味なの!!ケンチ早くお魚出せ~~(●>皿<●)」
駄々っ子のように手足をジタバタとさせ暴れ出した。
「あっ危な!爪、危ないよ!その姿でも爪長いんだから気をつけてくれよう!それにまだ池に着いてないじゃん」
「着いてるよ?ほら」
指さす藪の向こうに僅かにキラキラと覗く光が見えた。
「おお~~!池だ!池!!お魚達放したミーシャの池だ!!早速釣りをしよう!糸、針、エサ!釣りだあ~~!!急げ♪急げ♪」
・・・上手くいくかは判らない。ただの釣り好きの普通~の人間の俺が、獣人相手に何処まてやれるのか・・・。不安もあるけどまずは釣り!釣りしてから考えよ!