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4話 お酒の力

「こいつはなぁ、アタシが咀嚼した穀物に果物を混ぜて発酵させた酒なんだよ。ドロッとした果実そのものみたいで美味かろう?」


 ミーシャの家に着くなりあちこちからツマミを漁り始め、まるでさも自分の家かのようにくつろぎドカッとその辺に座り込むと、俺達に自前の酒をすすめてきた。


「ああ!確かに・・・俺にはちょっと甘いけど間違いなく美味いよ!なあ!ミーシャ!?コロン!?」


 一口含むとそれはそれは芳醇な・・・缶チューハイのような誤魔化し香料に安いアルコールで出来たようなチープな味では無く、確かに果実そのものにかぶりついているかのようにみずみずしい。


「ふぁい~。おいしーーれすぅ~。何だかポワポワ~で楽しい~れすぅ~~♪」


 見た目通りやっぱりお酒に弱かったか。度数高めとはいえ二口程度で既にへべれけで呂律が怪しい。


「んんっ!この山菜の塩漬けも美味い!!やるなあ~!ミーシャ!・・・ミーシャ?・・・寝てるし・・・」


 もっと弱いのがいたか!

腹をポリポリ掻きなが「んん~(●´ω`●)」とか言って大の字で眠るミーシャ。寝顔はとても可愛かったがヨダレがすごい。


「カワイイよねぇ・・・その子はさあ~、小っさい頃アタシと共にここで暮らしていたんだよぉ」


「え!?エンフェイさんと一緒に!?」


「ああ。アタシもミーシャもそれぞれ他の獣に襲われてねえ。死にかけてたのを、ここの元家主に助けてもらったのさ。キッキッ。出会った頃は暴れん坊でねえ・・・。家主共々、何度か喰われそうになったもんさね」


「そ、それで!?」

「ふあ~~、むにゅむにゅ・・・ケンチ様ぁ~、コロン眠いですぅ・・・お膝乗ってもいいれすかぁ~~」


 酔っ払いコロンはそう言うや否や、ウサギの姿でピョンと俺の膝に乗ると秒で寝息を立て始めた。


「どうもスミマセン・・・。それで?」

「キッキッキッ。オヌシも獣人に好かれる性みたいだねぇ。・・・アイツもそうだったよ。

だからアタシもミーシャも時間と共にアイツに懐くようになってねえ。色々教えてもらったもんさ・・・オヌシの世界の事、とか」


「!!それって、まさか!?」


「ああ。アイツもオヌシと同じ、人間だ。霧に飲まれてコッチに来ちまったんだってんだろう?アイツもそんな感じだったって言ってたからねぇ」


 この世界に俺以外の人間が・・・!どうりでミーシャが色々と詳しい訳だ!納得したよ。


「・・・この家はソイツが建てたんだよ。『俺の魔法だ』とか言っちまってねえ。始めは法螺だと思ってたが、ミーシャが暴れて玄関を壊した事があってねえ。その時アイツが手をかざすとパアと直っちまったのさ!」


 俺の魚召喚みたいな感じか・・・。


「『初めは木っ端だったのが、使っているうちに段々と能力が上がってよ!今じゃ家も出せるしこうやって直す事も出来るようになった』そうだよ?便利なもんだねえ」


 やっぱりスキルアップ制なんだな。俺の直感は正しかった!


「そ!その人は今!?」


「・・・だいぶ・・・前になるかねぇ・・・」


 聞いてはいけない事のようだった。エンフェイのうつむく顔色で何となく察するが・・・とても残念だ・・・。


「ともかく、手先の器用だったアタシは色々と作れるようになってねえ。特に洋裁はのめり込んだもんさ」


「え!?それじゃあもしかして、エンフェイさんのその見事な衣装は・・・」


「ああ。アタシが縫いつけた物だよ・・・。と、いう事はどういうことに?」


「・・・?」


「鈍いねえ。オヌシも酒が回ってるのかい?服が在るって事は糸と針が在るって事になるだろうが」


「あっ!!」


「キッキッキッ。針は鹿の角から、糸は絹糸を蝋引きしてやればどうにかなるかねぇ」


「すごいや!!エンフェイさん!!それを作ってもらえるんですね!?これで道具は揃いますよ!!いや~~!!ありがとうございます!!」


 俺は手にした器の酒をぐいと呑み「ぷはあ」と熱い息を吐き、コロンの耳を撫でた。


「だあれが作ってやるって言ったんだねぇ?何組も要るんだろう?そんな面倒なことアタシはイヤだねえ」


「え!?イヤイヤ!!この話の流れで??そりゃあないっスよエンフェイさん~!手伝いますんで、そこを何とか!」

「アタシはやらないよ」


「そっ!!・・・そう、ですか・・・」


 心地よい酔いも一気に覚める。出端を挫かれて心が折れた。意気消沈の情けない顔でコロンの頭を撫で目をしばしばさせる。


「ハア~~、いい男が台無しだねえ。『アタシ』はやらないと言ったんだよ。作れないとは言って無いんだけどねぇ~。キッキッキッ」


 そう愉しそうに笑うと徳利から直にグビグビと酒をあおった。

 ・・・こっ、コノッ!!これか!?ミーシャが嫌がってたのは。だからさっさと酔って先に寝たんだな??くう~っ、上手いこと押し付けられちゃったな・・・。


「アタシはねぇ、伊達や酔狂で猿の妃を名乗ってる訳じゃあないんだよ。臣下を数十匹従えてるんだ、ソイツらにやらせればあっという間さね。七組位なら明日の朝には仕上がるんじゃなかろうかねえ・・・」

「だが?タダ、と言うわけにもいかないねぇ」


「“やっぱりそうきたか”あの、俺はどうすれば?コッチに来たばかりで何も持ち合わせて無いんだが・・・」


「ん~~・・・ひっく。そうだねえ・・・。そこで寝ているミーシャの鼻の穴に、この豆を差し込んでおいで。それで手を打ってやろうかねえ♪」


 な!?


「え!?・・・だってこの豆・・・スナップエンドウ位ある・・・あ、中身??」


「いやあ、そのままだねえ。しっかり二本だよ!?両の穴に差し込むのさ・・・ホレ!さっさとせんかい」


 イヤコレ、起きるだろう普通・・・。ヒトの姿をしているとはいえ、羆だよ!?怒らせたら・・・。


「ホ~レ、はよはよ。イヤなら胸でも揉んどくかえ??酔いも覚めるとアタシはもう二度とその気にならんよ~?」


 胸は無理。人として死ぬし、間違いなく殺される。

 手にした酒をジッと見つめフー、フー、と呼吸を整えると一気に呑み下す。エエイ!ままよ!!お酒の力で何とかなれ!!


 「わ・・・分かりましたよ!やりますよ!ごめんミーシャ!!!・・・起きないでくれよぅ・・・」


 俺はそ~っと片方ずつ豆を差し込みにかかった。途中、「ん、ん~っ(๑´ω`๑)」と声が漏れたので冷や汗がでたが、何とか二本とも上手くいった。


「どっ!どうだ!やった!!やってやったぜ!これでいいんですよね!?エンフェイさん!!・・・ああ!ミーシャ・・・可哀想に・・・」

「・・・ぷっ」


 豆の差し込まれたミーシャの顔はまるで緑色の牙が生えているようで、ジワジワと笑いが込み上げてくる。


「キッ・・・キキキキッ!!ミーシャ。アンタだいぶヒドイ顔だよ?キキキッ!これは想像以上に・・・キキッ・・・いいねえ!!」

「それじゃあ!?」

「ああ!作ってやろうじゃあないか!!」


「あ・・・ありがとうございます!!」


「キキキッ・・・いやあ、いいもの見たねえ!!オヌシの度胸も大したもんだ!!」


 そう言うと懐から笛のような物を出してそれを吹いた。音は聞こえなかったが猿の獣人が二匹ほど何処からともなく現れ、指示を受けると直ぐさま消えた。まるで忍びのような仕草に呆気にとられていると、先の二匹が持って来た徳利のひとつを俺に渡した。


「さあ!前祝いだよ!開業祝いといこうじゃあないかね!」

「あざす!!遠慮なく頂きます!!」」

 

 二人同時に徳利を天にかざし「それじゃあ」と音頭をとり、ぐいと乾杯。


「くぅ~っっ!微炭酸の発酵酒と果物の甘みが素晴らしいお酒ですね!ちょっと強めだけど、そこがまた旨いです!!」


「キッキッキッ。手塩にかけて育てるからねぇ♪アタシはこの酒で、臣下共を従えるようになったのさ!」

「分かります!コレは本当に美味いから!!」


「・・・だけじゃあ、無いんだねえ」


 ニヤリと不敵に笑う。


「さっきも言ったがコレはアタシがな、よ~く穀物を咀嚼して仕込んだんだ。この美貌の口から出た物だぞ?オスの猿共はそりゃあイチコロさね!まあ、もっともアイツらは殆どがただの獣だから扱い易いんだけどねえ。

・・・ホレ!もっとぐいと呑め!」


「んふふぅ~。俺を臣下に加えようったってそうはいきませんよぉ!?ゲフッ。失礼!!でも従っちゃうのも分かるなあ~~。エンフェイさん素敵だし、酒は美味いもの!!」


 お世辞では無く本当に美味しい。フルーツ系マッコリといったところか。最初の徳利はライチを思わせ、弾けるような爽やかさだったが、これは桃のねっとりと甘美な芳香が口いっぱいに広がる。

 ふむ。向こうではビール一辺倒だったが、甘いのも悪くないな。

 ・・・それにエンフェイも出るとこは出てきゅっとくびれた腰にまあるいお尻・・・人ならいい女だ・・・って、イヤ、俺は何を・・・。


「ふごっ・・・ムニュムニュ(-ω-)zzz」


「っ!!っと・・・びっくりしたあ~。忘れてた!ミーシャにまだ刺しっぱなしだったんだ・・・」


 大股を広げ、やはりまた腹を掻きなが幸せそうな顔付きで眠るミーシャ。出会ったばかりだけど、すごい可愛くて愛おしく思えて来たぞ!?酒のせいか??


 「ぷくくっっ!!ぞ、象だ!象さんがいるゾウ!くくくくっ!!象がいるゾウだって!ぷくくっっ。見てくれエンフェイさん!ミーシャが象だぁ」


 鼻にエンドウが刺さって無ければね。


「キッキッ・・・ア、アタシは・・・わら・・・笑ってないぞ!?ミーシャに悪いじあないか・・・キキキッ・・・悪いオトコだねぇ~」


 道具が揃う嬉しさのせいもあり酔いが回るのが早かった。こんなにも楽しい酒の席は久しぶりだ。エンキが噛んだツマミの豆が、サヤから飛び出して俺の顔に当たった時は死ぬほど笑った。その際に俺の膝からコロンが転げ落ちたが起きやしない。「コロンがコロン」なんてしょうもない事でまた爆笑して膝を叩くが、そんな騒ぎの中でミーシャもまた、起きてこない。う~ん。典型的な酔っ払い達だ。

 結局夜通し呑んで、俺もいつの間にかに寝てしまったのだがその日の夢はヒドイものだった。


「うわ~い!またモモが釣れた♪」


 何も無いところへ竿を振るとぴくっと浮子が沈み、軽くあわせてやるとブルブルと揺れるモモが釣れる。モモが釣れる事も不思議だが更に不思議なのはその柔らかさだ。

 このモモはどうやら食べる事は出来ないようだった。全体がスクイーズのようにフニフニで皮を剥くことすら叶わない。試しにかぶりついてみたが生クリーム大福のような何とも言えない幸せな柔らかさだった。


「ふあ~~~♪癒やされるう⤴」


 そんな極上の夢はミーシャのクシャミによって覚め、それは恐怖へと変わった・・・。

 

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