15話 にぎやか
小物釣り用の小さな池が完成したと知らせを受けた。小さめ、と言っても外周300m位はありそうだ。周りを木々に囲まれたひっそりとした池で、鱒釣り用の池の直ぐ隣にある。ミーシャはよく此処にコロンを連れて水浴びをしに行ってた様で
「覗くなよ(*゜д゜*)」
なんて何度か脅された事があるが、あなた達ついこの間まで常に裸のようなもんだったじゃないですか!
エンフェイさんに皆の服も作ってくれと頼み、それを着てくれるようになってから俺の心の平穏は保たれる様になったが、そこら辺で着替えるものだからタマに鉢合わせをしてしまい引っ叩かれる事がある。理不尽。
「ああっ!!シイの木が間引かれてる!!・・・うん・・・ま、仕方ないか!見通しが効かないと子供たちが危ないかんねー(。・ω・。)」
立ち合いに来たミーシャは、ちょっと残念そうな顔をしたが水遊びを楽しんでいるリュウとキュウを見て優しく微笑み、納得した。
池の改修工事はエンフェイさんに一任してあるのだけど、彼女達の新居のそばの池と同じ様な造りとなっているが、より安全面に配慮のある素晴らしいものに仕上がっていた。
なにより釣りのメインデッキとなる池を中央に横切る欄干橋は、朱色の擬宝珠が乗ったかなり風情のある趣でまるで京の都が此処に空間ごと転移してきたみたいだ。
「いい仕事してますねぇ」
思わず名フレーズがこぼれる。
「どうだい?素晴らしい出来栄えだろう?鱮竿の礼だ、受け取っておくれよぅ。ささっ!一番に通っておくれ!」
「いや~!一番だなんて滅相もないです!皆で通りましょうよ・・・あっ!待って下さい!!良いこと思いついた!アレやりたい!ちょっと待ってて下さいね!ソントンさん、ちょっと一緒に来てもらえますか?」
ウキウキと急いでホームに戻り、大樽に酒を注ぎ込み蓋をすると、それを荷車に乗せ橋まで引いてもらった。
「ミーシャ、この樽の蓋を一緒に割ろうぜ!!開通式だ!」
橋の入り口に樽を降ろしてもらい小槌を二人で握る。一度やってみたかったのだ!テレビでよくみるパコンってやるヤツ!!
「あっ!なんかケーキ入刀みたいでずるいですぅ!」
「は?いやいや、違うって!・・・なんかやりづらいなあ!そんなんじゃないし!!なあ?ミーシャ!?」
「・・・(〃ω〃)え?・・・あっ!そっ、そうだよ!変なことゆーなよ!そんな・・・馬っ鹿じゃないの??意味分かんない(*゜д゜*)」
「ホントだよ、全く・・・!あ、じゃあさ、分かった。三人でやろうぜ!」
「え・・・?さ、三人・・・(;¬ω¬)」
「わ~い♪」
「じゃ、せーの!よいしょぉ!!」
「ですぅ!」
パカンと蓋が割れるとなみなみ注いだ酒が溢れて拍手が起きる。皆に酒を渡し乾杯の音頭。直ぐに酔っ払うのが二人いるから形だけの量を。
「有り難う御座います!ん~!これでまた賑やかな釣り場になりますよ!絶対!」
「何が釣れるの~?」
「釣れるの~?」
「うん。鱮はもちろんだけど、子供達メインとなると金魚がいいと思うんだ。コレも綺麗だぞ~?そうだな・・・今度、トウガラシ浮きを作らないとな。楽しいぞ!?浮いて沈んでピコピコ動いて!」
アタリを受け、浮きが引き込まれる様を真似して見せてやるとリュウとキュウは目を輝かせて「早く釣りたい」と言ってくれた。
結局押し切られて一番に橋を渡ることになったので、お言葉に甘えさせてもらったのだけど、橋の中程から眺める景色のなんと素晴らしいこと!池の底には白玉石が敷き詰められ、赤い欄干と常緑樹、うっすらと紅葉の始まったカエデに手押しの井戸汲みポンプ・・・ポンプ??
「エンフェイさ~ん!!アレ、なに!?若しかしてポンプ??地下水でも汲めるの??」
「ああ、アレはねえ、この池の濾過装置だよ!この前タナゴを飼い始めただろう?それで、小さな手漕ぎ式濾過装置を作ってやったんだよぅ。あの装置の中には炭だとかシュロの木の皮だとかが何層にも組んであるんだ。汚れた水を吸い上げて、上からキレイな水が出てくる仕組みになっててねぇ、中々の出来だからそれの大きいのを作って五基程設置したんだよ」
「そりぁ、すごい!!」
「自然の分解力だけでは限界があるからねぇ。いずれ釣りエサやフンはドロとなり底に積もる。そうなると臭いやらなんやらと問題がおきるからねぇ。私はねぇ、この池を子供達の釣り堀のみならず景観そのもので客を呼べるんじゃあないかと考えたのさ」
なる程!池の外周に点々と間引いたシイの木の丸太が転がっているのは、アレはベンチなのか!思わず感極まりエンフェイさんの元へ走り、手を取ると感涙した。
「エンフェイさん!俺ぁ、俺ぁ・・・感激で言葉もないよ!!」
「キっキッキッ。どうだい?流石、私だろう?キキッ。ケンチ殿、惚れるなよ!?人妻ぞ?」
ホロ酔い気分のせいもありがっつりと手を握りしめていた。直ぐにに気が付き、パッと離す。俺としたことが・・・恥ずかしい・・・。
「すっ!スミマセン!!思わず・・・そっ、そういえばソントンさんは?朝からお見えにならないですけど・・・それと、なんかいい匂いがしませんか?」
何処からか甘い香りが漂っていて、お腹の虫が鳴く。こういうのに直ぐに飛び付くコロンもスゥもいつの間にかいないみたいだ。一体何処へ?
「はあ~~いっ♪お待たせしましたのれすぅ!パンケーキとタンポポコーヒーのセットれ~すっ♡」
「此方、バターとニッキの香る焼きリンゴで御座る。切り分けパンに乗せるのも宜しいかと存じ上げます」
アメリカンダイナーな雰囲気タップリの制服を纏った二人がトレンチに料理を乗せ戻って来たが、ちょっとコロンの呂律が怪しい。
「おお!!いい匂いの正体はモーニングセットか!すごい美味しそうじゃないの!どしたの!?これ。二人で作ったの??」
「ソントンさんが作ってくれたのれすっ!ちょっと味見しましたけどウマウマでしたぁ~♡百年の酔いも冷めちゃいますよお~?」
使い方違うし、言葉も違うよ?
「甚だ悔しいで御座るが、料理の腕前だけは認めざるをえません。・・・ちっ」
確かに見た目からしてウマウマそうだ!とても可愛らしい飾り付けで、量もちょうど女子受けしそうな感じだ。とてもあのゴツイ手が、鱮釣りの時に和竿の扱いに戸惑っていた手がこれを作り上げるとは信じられ・・・ああ、分かった!きっとアレだ。リュウとキュウにキャラ弁とかこさえてたんだろうな・・・やるなぁ!ソントンさん!!
「ケンチ様、ケンチさまぁ~!アッチの池とコッチの池の間にお猿さん達がロッジを建ててくれたのです!そっち行って食べましょう~~♪ソントンさんがシェフなのです!私達は売り子なのですっ!かぁ~いぃ~でしょ♪」
クルリと回り唇に人差し指を当てる仕草がとてもキュートだ。うん。カワイイじゃないですか!特に後ろ姿!!赤と白のストライプ柄のワンピースからピコっと出てる愛くるしい尻尾・・・う”~ん・・・モフりたい・・・。
「ケ~ンチくぅ~ん?らぁ~~にしようとしてるのからぁ(・ω・)??」
「へっ?あっ!!いや、あれっ!?何だか手が勝手に・・・呪いかな?ははっ」
ちょっと酔いの入ったミーシャが背中にのし掛かって来た為に我に返れた。あの・・・ミーシャさん・・・背中に胸押し付けるのやめて・・・。意識しちゃう。
「ムッ。決して呪いではありませぬな!・・・病に御座る」
「ケンチお兄ちゃんビョーキなの?」
「なの?」
「そ~ね~・・・ビョーキだねぇー。スケベ虫ってゆ~菌がいてね?それにやられちゃうと、おっぱいとかお尻とか触りたくなっちゃうのよ~!怖いねー、エンガチョだねぇー乂-д-)
ロッジへ着く間二人からずっと白い目で見られていたが、当のコロンは「ホヘッ?」って感じで他人事。恐るべし。無自覚の暴威。
「うおっ!コレはすごいな!!ウッドデッキ!!うわ~~!!俺、こういうのすっごい憧れててさ!カッコいい~~なぁ~!」
建てられたばかりのウッドデッキは木の香りが清々しくて心地良く、バツの悪さも一気に消えた。さらにテーブルや椅子の角が全て丸めてあり安全面に配慮してあるところも素晴らしい。
「キッキッキ!気に入っていただけたかえ?人はこういうのが好きなのだろう?アタシらにはテーブルで食べるなんて習慣がないから、目新しいんじゃあないかと思ってねぇ!」
「それと、ウチのダンナの料理はどれも実に美味いぞ!?・・・ほれ!シェフのお出ましだ」
「いや~。自慢出来る程の腕前でねのんだども、どうぞご賞味けれ。
名付けて『グーーッドもーーーにーーング!!』セットだす・・・どうだすかね?」
「早速頂きます!・・・美味いっ!!フワッと焼かれていて口溶けがいい・・・添えてあるマッシュポテトもクリーミーで滑らか~♪」
「僕はこの赤とムラサキのドロドロが好きかな!」
「ボクもー!」
無精ヒゲをキレイに整えたソントンさんはまるで朝のエイティーワンポイントスリーな感じだが、きっとここに居る俺以外は分からないだろう。何より食事の美しい見た目のあまりに突っ込みよりも先に食レポが出てしまった。リュウキュウ兄弟の好きだと言ったドロドロはベリー系のジャム。香りの奥にほのかにコニャックを感じるが、アルコールはとばしてある様だ。今度ぜひそちらを飲んでみたいものだ。
「・・・ん、まあ、美味しいんじゃらい?だけど私はやっぱりケンチの出してくれたお魚さんを丸かじりするのが一番なのらな~( ̄ω ̄)ケンチ~、お魚ちょ~らい」
それ、料理じゃないし。
「キキッ。まあ、ダンナの作ってくれた料理が一番だってのは同意するねぇ」
だから料理じゃないし、旦那でもないし!
「べっ!別にケンチだから美味しいとかじゃなくて、魚は生が一番だってゆ~話しで、なに?やめて!?エンフェイ酔っぱらってんじゃな~い?(;¬ω¬)」
「そりゃあ、アンタの事だろぅ?私はいつも酒が入ってるからねぇ~。だから普段と何も変わりはしないのさね」
「いや、ケンチ殿はきっとミーシャ様のみならず女子には興味ないかと存じ上げるが・・・(ワクワク)」
「そんなことないれすぅ~!ケンチ様は私の事モフモフするのが好きなんれすよぉ~?だから私を好きなんれすぅ~!姉御じゃないんれすぅ~!姉御はちょっと酔っぱらってて夢心地なんれすぅ~!」
「なんだぁ!?おまいら!ケンカ売ってんのかぁ(*`Д´*)クッソ~!こうしてやる(`ε´)」
あ、葉っぱかけた!コロンもやり返したぞ!?げっ!スゥがはさまれて二人から・・・わ~~!助けてソントンさん・・・!面倒くさい事になってきたよ~。
「あ、そういえばおい、キゥイ剥いでらどごろでした。デザート作ってくるすね!せばさっと失礼するす!」
「するす!」
「失礼しま~す」
に・・・逃げた・・・リュウとキュウまで・・・orz。
しょうがない・・・ここは一発!
「コラ!いい加減にしろ!もう止めなさい!エンフェイさんもニヤニヤ見てないで止めて下さいよ!・・・ほら、ミーシャもう止めなさ・・・なに?私の方が優勢なんだ?・・・いいの!そういうのは!全く!リュウやキュウに恥ずかしいでしょ?大人として!お洋服が葉っぱだらけじゃないですか!!着替えてらっしゃい!」
「ああ、それならロッジに制服がまだ何着か置いてあるから、それを着るといい!さ、今、旦那がデザート作ってくれているから皆で食べようじゃないか」
「ふぁ~い♪」
「ちぇ(`ε´)」
「さ、ケンチ殿も・・・」
「有り難う御座います。俺はちょっとこの辺の散らかった葉っぱを片付けてから・・・そんなにかかりませんから直ぐに行きます!」
「そうかね・・・。あんたも大変だねぇ」
「まあ、手のかかる娘達、みたいなもんですよ」
娘、か・・・。うん、そうだな。実際二人ともカワイイけれども、恋愛感情というよりは保護者気分なんだよな・・・。そんなことを思いながら葉っぱを脇に寄せテーブルを綺麗にしてからロッジへ向かった。
ドアーを開けると甘い香りに包まれた。すでに皆、着替え終えてデザートを口にしていたが、皆、満面の笑みでキラキラと癒されオーラを放っている。
デザートはナナメにカットされたバナナとキゥイが交互に並べられカスタードと一緒に焼かれたフルーツグラタンのようだ!!
「いや!コレは・・・!!ソントンさんすごいですね!!こんな優れた技術をお持ちとは!!脱帽です!」
「此処には色々な調理器具があって、ついこれも使ってみでゃ、ああ、コレも、なんてごどしてらど凝り出してしまって・・・おもしぇんだすよ」
「天職、だったんですかね!早速頂きたいのですけど、その前に手を洗いたいんです。洗面所は・・・」
「ああ、それなら左奥の右側のドアーだねぇ・・・ああ、今さっき・・・」
「有り難う御座います」
ええと、左奥の・・・右側と。ノブに手をかけガチャリと開くと、そこには、ちょうど下着をつけ終えたミーシャがびっくりして立っていた。
「うえ!?あれ??ごっ!ごめん!!あの、わざとじゃないんだよ!エンフェイさんが手洗い所は此処だって・・・・」
「・・・・つ!キャアアっ!!(*≧Δ≦)」
バチコ~ン
強烈な平手打ち・・・!よろけた先はスゥの胸のやわらかクッション!
バチコ~ン
「何という狼藉か!!恥を知れ!で御座る!」
「いやん!ケンチ様ぁ~!私の方に来てくれればよかったのにですぅ~!ずるいですぅ!!」
「先ずドアーを閉めろーー!(*`Д´*)」
「キッキッキッ!さっきミーシャが、キッキッ!入ったと、言いかけていたのに・・・キッキッキッキ!賑やかだねぇー」
「だねぇー」
「うん!賑やか」
ミーシャはともかく、スゥとコロンからも睨まれ針のむしろ・・・ちょっと理不尽・・・。
どんな時でもドアーはちゃんとノックしよう。
モグモグ・・・美味しい。




