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14話 FLYング

 翌日、目の下に盛大に腫れぼったいクマを抱えながら職場復帰した。熊に説教されてクマが出来たなんて奴、世界広しといえど俺位だろうな・・・。

 久しぶりの池は穏やかに空の色を吸い込みキラキラと輝いている。そこかしこでライズする鱒達。広がっては消えゆく波紋を眺めているとアッチでの釣りを思い出す。


「フライ・・・楽しかったよな~。こんな朝はドライかフローティングニンフ・・・いや、ルアーもトップ一択派の俺としては結局ドライなんだよな。フライやりてぇーなぁー!ロッドはシマノさんの7フィート3~4♯を使ってたっけ・・・コートランドのDT(ダブルテーパー)ラインに7エックス九フィートのリーダー、♯14のピーコックパラシュートをチョイス・・・」


 池のほとりに立ち、目をつむりロッドとラインを繰る真似をする。しなやかにループする黄色いライン・・・大きめの波紋の広がるすぐ脇へフンワリと着水させてやると


  ポチュッ


 来た!!左手で素早くラインのたるみをとり優しく鋭くロッドを立てる。ズン、と重みを感じ・・・


「何やってらんだすか?ケンチ殿・・・音楽会でも開ぐのだすか?」


「ウヒャア!」


 びっくりして振り向くといつの間にかにソントンさんとスゥが出勤して来ていた。


「いや、きっと脳天唐竹割りの練習で御座るな・・・昨晩しこたま怒られ申しておりました故仕返しにと・・・いや、そんな度胸ごさらんか・・・」


 昔、駅のホームでオッサンが傘でゴルフのスイングをしているのを「うへぇ」って目で見ていたけど、スゥがまさにそんな感じの顔で引いている。


「おっ、おはよう御座います!ソントンさん!!いやー、昨日は素敵な披露宴でしたよ!改めておめでとう御座います!・・・あの後どうでした?リュウとキュウにも喜んで頂けたかと思い黙って退席させてもらっちゃったんですけど・・・」


 何事も無かったかのように努めて平静を装う。


「ジュードーチョップかババチョップ・・・否、ギリギリチョップか・・・」


 古いな・・・それとギリギリは技じゃないぞ!?


「スゥもおはよう(ヒクヒク)!早いね~二人とも。まだ開園時間まで結構あるよ?それにソントンさんは新婚さんなんだから家でゆっくりしていただいてても大丈夫ですのに・・・」


「そんたわげにもいがねよ。ほぼ日課みだいになってらし。それにエンフェイさ・・・エンフェイも忙しぇ身だんて朝がらお猿達にあれやこれやど指示しておりまして・・・おいばり家でゆっくりど、ていうのは・・・」


 そういえば園の入り口付近にいつの間にか木材が積んである。小屋か何かを建てるつもりなんだろう。


「そうそう!リュウどキュウが昨日の鱮えで飼いでゃで言ってぎがねで・・・それでエンフェイがケンチ殿さ貰ってもえが聞いで来いど」


「ええ、まあ、あなた達なら他へ放流ということはないでしょうから、構いませんよ?大きめの二枚貝がいれば繁殖も可能です。恐らく水槽はエンフェイさんに伝えればきっと造れるでしょうし」


「それはえがった!実はエンフェイが一番飼いだがってだがら喜ぶ顔見られるがで思うど嬉しくなるす」


「ああ、煌びやかな物、好きそうですもんね・・・そうですか!嬉しくなりますか!ぞっこんですね~!で?で??お二人はどうしてご結婚を?決め手は??プロポーズはどちらから??」


 接点が聞きたい!恋バナや馴れ初めを聞くのはけっこう好きなんだ♪

 

「それはワタクシめが」


 傍らでまだチョップの真似事をしていたスゥが割って入り話し出した。


「・・・ケンチ様が襲われたあの日、どうにも収まりのつかないイタチ共が、事もあろうに猿妃様を襲撃してきたと報告が入りまして。急いで駆けつけたところ護衛はやられ申しており猿妃様も追い詰められ今まさに!というところで御座った。私も参戦いたしましたがなにぶん、四対一と分が悪く難儀しておりました。ソコへ現れたのがソントン殿で。ソントン殿が雄叫びをあげながら一直線に突進してくるとイタチ共は声を上げる間もなく跳ね飛ばされあっけなく」


「凄いな!!ソントンさん!!やるときゃやりますね!!」


「ところがソントン殿の突進は猿妃様の心をも仕留めて御座いまして、もうポワポワフワフワとおいたわしい限りで・・・チッ」

 

 なんと!白馬の王子様エピソードで来ましたか!!ワクワクが止まりませんなぁ~!


「はあ、まんず、おっかながっただすんだども、無我夢中で・・・」


「まあ、あと少しで私の呪いが効いて来る所でしたが・・・!」


 親指のツメをカリカリかじりながら悔しがるスゥ。やめなさい、ソントンさんへ向ける眼差しに『呪われろ』って出てるゾ。


「いや~~!ご馳走様です!!この水面のようにキラキラエピソードでした!俺も惚れるより惚れられろが理想なんですよね~!羨ましい限りです!」


「掘るより掘られろと!?(ワクワク)」


 ・・・俺はノーマルだっつーの!


「ケンチ殿さも姐さんやコロンぢゃんが居るでねぁが。どぢらも嫁っこさ迎えられでは如何だすか?」


「いやいやいや、あの二人はそんなんじゃないですね~。ミーシャはオッカナイしコロンはお間抜けちゃんだし~。ハハハッ・・・」


「おっかなくって悪かったわね-_-#」


 目をつむり波打ち際に裸足で立ち潮が引く時の足の裏の感覚・・・もしくは東京タワーのスカイウォークウィンドウから下を見た時のゾゾッと感・・・。ああ・・・やっぱりオッカナイじゃん・・・。


「ヒドいですぅ~!姐御はケンチ様がちょっとお馬鹿さんだからいつもプリプリなんですっ!」


「あんたも言われてたよ」


「ふぇっ!?」


「お馬鹿さんとは聞き捨てならないな!なんだよ!!オッカネェからオッカネェって言っただけだろ?」


 逆ギレの挙げ句、売り言葉に買い言葉。ギャーギャーギャー・・・。


「まあまあ、皆さん落ぢ着いで、落ぢ着いで。そろそろ開園時間だすよ?ん!今日は朝一番でお客さんが来てらようだすよ」


「えっ!!おきゃ・・・く・・・あ・・・」


 思わず息を飲んだ。そこにはまるで虹を振りかけたような、順光なのに後光が差しているかのようなそんな佇まいのスラッと長身でロングヘアーの獣人が開園を待っていた。こちらに向かい手を振るその姿に俺は心奪われた。


「これはこれはお見苦しい所を失礼致しました。ご来園誠に有難う御座います。開園致しますのでどうぞお入り下さい」


 ちょっとボイスのトーンを下げいい男を演出してみせ、ウキウキと園の柵をどかしにかかった。


「ムカッ(●`ε´●)何よ。綺麗なのが来るとすぐ鼻の下のばしてさ」


「うふふ。仲の良いご夫婦ですね!とても素晴らしい事です」

「ご夫婦∑(OωO)?」


「・・・あら!?済みませんでした!どうやら勘違いのようですね・・・ごめんなさい」


「いえいえ!よく言われるんですよ♪・・・ん!?クンクン・・あら?あなた若しかして・・・うん!ケンチ~!このヒト任せたからよろしく~!」


 「え?いいの??・・・じゃなかった。おう!!分かった~!任せて~!」


 開園準備を終え戻ってみると何だかミーシャもウキウキだ。朝からお客さんが来て嬉しいのかな?いいことだ!


「んじゃ、あとよろしくね~。私は森を見回ってくるから~!・・・ゴフーフ・・・ねえ(〃ω〃)」


 めっずらし~!!綺麗な方が来るといつもならつっけんどんな感じで俺に八つ当たりしてくるのに今日は何もないなんて!!


「これはいつも頑張ってる俺へのご褒美か!?」


 思わず小さくガッツポーズ。いつの間にかにソントンさんもコロンも何処かへ行ってしまったし、スゥアンジャンはそろそろエンフェイさんの所へ向かう筈だし・・・と、言うことは!マンツーマンだぜ!!こんな綺麗な方と!いや~~~!ツイてるぅ♪


「釣りは初めてでしょうか?よろしければ俺が手取り足取り・・・ゲフン。レクチャーいたしますよ」


「ありがとう御座います!楽しいと聞いて来てはみたものの、どうすれば良いのか分からなくて・・・それとあの・・・お代なのですけど食べ物でないとダメでしょうか?例えばこういった・・・」


 ()()の持ち物にやけに長細い筒があるなと思っていたら、その中には3枚の羽根が入っていた・・・これは!!


「ピーコック!!・・・アイが艶やかでフリューの密度が濃いとても良い羽根ですね!」


 なんてこった!マテリアルとして最高じゃないですか!今朝の妄想はもしかして神の啓示か!?


「お客さんの中にはエサのミミズの触れない方もいらっしゃるのですよ・・・毛針での釣りなら・・・はい!!これならぱ二本で結構です!よろしければ少し、お時間をいただけます?この羽根を使って疑似餌を作ってまいりますので、試してみませんか!?」


 少年の頃、父にタイイングセットを買ってもらいせっせと巻いていたあの頃の血がムクムクと起き上がったのだよ!


「今は、環付きの針がないのでハリス付きのものに直接巻いていきます。まず、針の軸に下から上、上から下と糸を巻き付けてから毛を取り払ったストリップハールでボディを作る。虫の胸部にあたる部分を毛足の長めな羽根で作成。たまに飛来してくる水鳥の羽根を頭部にぐるっと巻き付けて虫の羽をイミテート・・・どうです?羽虫に見えませんか?」


「わあ♪凄いです!手先がとても器用なんですね」


「喜んで頂けて何よりです。貴女にミミズは似合いません」


 なんて、ちょっとキザっぽいかな?


「竿と同じ位のより糸を作って重みが出るようにして、そこにハリス付き毛針をセット。竿をこうやって鞭のように前後に振って・・・後ろに気をつけて下さいね・・・そう・・・水面に波紋が出来たらそこへフワッと落として下さい・・・上手いですね!」


 ポチュッ


 そこからの釣りはもう夢のようだった・・・。彼女の佇まいは気品に満ちていて髪は風になびく度にオーロラが舞うようだ・・・あ、俺、恋しちゃったかも・・・!


「ただいま~(`・ω・´)あれ?さっきのお客帰ったの?」

「私も只今戻りました故」


「ハァ~・・・♡オカエリ~~。そうよ~。また来るってさあ・・・・はあ♡」


「ふーん、楽しかったんだー( ̄△ ̄)綺麗で良い感じの()()だったねー。男同士仲良くなれるんじゃなーい(*´ω`*)ノ」


「おす??お酢?へ?・・・うそ」


「んー、クジャクのオスの獣人だったねー。

いやーー!ケンチ君が楽しかったのなら何よりですよヾ(≧ω≦)」


 あ、羽根・・・・はっ!?自分の羽根か!!そうだった・・・!大抵の動物は求愛行動の為にオスの方が綺麗なんだった・・・!だからミーシャは俺に任せて平気な顔して行ったんだな!?


 「ハメられた・・・フライは巻けたけど気持ちはフライング、ってかorz・・・」


 俺にもラブストーリーが出来たかと思ったのに・・・。


「ハメ・・・なんと!もう()()()申したのか!?」


 ・・・ゾッ。

 


 



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