13話 興じる
「エ・・・エンフェイさん!?なんでこんな所に??」
てっきり配下のサル達と一緒に岩山の方に居るものだと思っていたからびっくりしたよ。ましてやソントンさんの穴倉からリュウとキュウを連れて和気あいあいと出てくるなど誰が想像しようか!
「ってゆうか、驚く前に先ずはお礼をしなきゃ!背中を縫っていただいて有難う御座います。お蔭様でもうほぼくっついてますよ!」
「キッキッキッ。そいつあ、なによりだねえ♪」
「なによりだねえ」「おにぃちゃん治って良かったね!」
「ああ!リュウとキュウも有難う!・・・んで、今日はまたどうしてソントンさんの所に?ああ、子守を頼まれたんですか?」
エンフェイと話している間中、リュウとキュウがベッタリ張り付いて離れない。エンフェイさんは子供好きだったのか・・・意外だな。まあ、あれだけ沢山の猿達を従えてるんだから、慕われる要素はあるんだろうな。
「何を申されておりますのか・・・頼みごとをしたのはケンチ様ではござらんか」
穴倉の側の木の上からスゥアンジャンがひょっこりと顔を出した。それにもびっくりしたが、何故か幾分声のトーンが低いが気のせいかな?
「おお!流石はスゥちゃん!エンフェイさんの居る所酸浆あり、だね!って事は俺の針の件はもう伝わっているのかな?」
ん~~!!気に入ってネット注文したものが今日届くようなワクワク感!あるいはもう出来上がってるかも!!
「伝えは・・・しもうした」
・・・あれ?やっぱりなんだか歯切れの悪い返事だな。
「ん?えと・・・どゆこと?難しかったとか??」
「・・・猿妃様は、只今腑抜けております故・・・」
「腑抜けとはなんだい。もっと嬉しそうな顔で良いものだぞ?それはそうとケンチ殿、丁度良かった。もう動ける様だから使いを出そうと思っていたんだよ。こ~ら。二人とも!アタシに上るんじゃないよぅ♪」
なんだ??みょ~~に浮かれてるな・・・酔っ払ってるのか??いや、そりゃいつもか・・。ってか、俺の針・・・。
「こういうのは早い方がいいからねぇ~。ホレ!これでも喰え。今宵は宴じゃ!!」
「ムダゲじゃー」
「ウタゲだよ!キュウ」
「はあ・・・いただきます。えと・・・宴?」
手渡されたミカンを口に含むと甘酸っぱい果汁が華やかな香りと共に溢れ出す。うん、美味しい。
「ああ、そうだよ!アタシとダーリンの披露宴さ♪そりゃあ豪勢にいくからねえ、腹は空かせておくんだよ!!」
「モムモム・・・ダーリン??ご結婚されたんで?そりゃあ、おめでとう御座います!んで、お相手の方は?」
エンフェイは・・・そうだな・・・見た目JAL沖縄の藤原紀香な感じ・・・かな!誰しもが振り返る程の絶世の美女だ。ならば旦那もさぞかし・・・
「そこのソントンさんだよ( ̄ω ̄)」
「嗚呼!!・・・おいたわしい!!」
プーーっ!
思わずミカンを吹き出してしまう。横にいたスゥがひょいとどいたものだからコロンがそいつを浴びる事となった。
「ひゃあ~!ばっちいです、ばっちいですぅ!!・・・あ、でもケンチ様の口から出たのなら♪」
「食べないの!」×2
「ふぇ!?」
いつの間にかにいたミーシャにもびっくりしたが、相手がソントンさんってのに驚いた!決して容姿云々とかじゃ無くて、猿と猪じゃないか!アリなのか??
「え?ええっ!?どーゆーこと??エンフェイさんとソントンさんが??それとミーシャもどうしてここに?」
「私はコイツのおつかい(・ω・#)ほら!頼まれてた榊」
「悪いねぇ。あの場所はアンタの縄張りの境界線辺りだろう?か弱いアタシじゃあ怖くて採りに行けなくてねぇ・・・有難うよう。持つべきは親友だねぇ~♪」
「ふん-ω-#」
エンフェイはミーシャの持ってきた榊を受け取りデカい岩に向かうと二礼した。それを合図にスゥアンジャンがササッとしめ縄を廻す。そこへ榊共に酒を供えるとまた二礼して下がった。俺は呆気にとられてただそれを見ていた。
「あとケンチはこれ着て。ホームにまだ帰ってなかったから、若しかしたらコッチかな~って持ってきといて正解だった。さすが私( ̄ω ̄)」
「これって!え・・・燕尾服??なんでコッチの世界に??」
「ケンチより前に私らの親代わりのヒトが居たって言ったろ?その人が着てたんだ」
「着てたって・・・これ、普段着じゃないぜ!?」
「ん~。なんでもドーリョーのケッコンスピーチっての頼まれて、そんで山ん中で練習してたら霧に呑まれて・・・って感じらしいよ?」
「そりゃあ・・・・心残りがあったろうに」
「うん・・・レンタルの請求が誰に?って言ってた」
「あ、そう」
いやしかし、着るのは良しとして俺だけ正装?浮くじゃん!・・・ヤダナ・・・。
そんな空気を察したエンフェイが指をパチンと鳴らす。
「心配するんじゃないよぅ、ケンチ殿。と~ぜん皆のドレスも作らせたからねぇ!」
猿軍団がうやうやしくミーシャ達にドレスを渡す。凄いな!エンフェイさんの抱えてる工房は何でも出来るんだな!!
・・・いや、お猿さん達・・・目の下に隈がエグい・・・。相当無理して仕上げたな?そこまで忠誠心が強いのか!!
「・・・というより皆揃っているならもう始めちまおうかねぇ!!さあ!!宴の開始じゃ~!酒と料理を運んでこい!!じゃんじゃん喰って飲んで盛大に祝っとくれよ!!アタシは着替えてくるからね!・・・そ・れ・と」
エンフェイが腰に下げた一際大きな瓢箪をお猿さん達に見えるように掲げた。するとザザッと整列して傅くと一匹ずつ盃に中の酒を賜った。その酒を飲んだもの達は天を仰ぎ涙したり、歯を剥き出し自分を鼓舞したりとそれぞれだが確実にテンション爆アゲな様子だ。
「凄い効能だな!お猿さん達の血色がみるみる良くなっている!!そんなに美味い酒なのか?それとも度数が高いとかか??」
「十五パーセント・・・ってとこだねぇ!ケンチ殿も先ずは一献どうだい?」
度数は大したことないからすっっげ~~美味いんだろうな!この前の酒も美味かったからな~~!じゅるり♪
「ぜひ頂きます!!・・・ん、ああ、美味しいです。有難う御座います・・・」
う~ん・・・思ってた程では・・・この前の酒の方が・・・好みの問題かな?
「おや!?ケンチ殿はこの程度の濃度では満足出来ないのかい?・・・キキッ・・・なら直接って所だったけれどもうあげられないねぇ!なんていったってアタシはもう人妻だからねぇ~ぃ♪」
・・・まて!ノード?今、濃度と言ったのか!?確かエンフェイさんの統率力の源って・・・まさか十五パーセントってのはヨダレ濃度の事か!!猿軍団達の浮かれようからみて、これは間違いなさそうだ!!
うっ・・・十五パーセント・・・濃いな・・・。もういらないや・・・。
「ケンチ様~~!どっちがカワイイですかぁ?」
「わっ!私は別に着飾らなくても良かったんだ(;¬ω¬)」
「このようにヒレヒレスースーだと動きづらいな・・・」
着替え終えた三人は派手になりすぎない位のワンピースにストールの様なものを肩に掛け、うっすらと化粧まで施されていて、一瞬、心奪われそうになった。
「いや!!びっくりしたよ!みんなとっても素敵だよ!!・・・いやあ~~馬子にも衣装とはよく言ったもんだな!」
「すてっ・・・あ、ぁ、あったり前だのクラッカーってとこだろ!?フフン!元がい~ンだ!そっかあ~素敵かあ~!マイッタナヾ(≧∇≦)」
「姉御ぉ!マゴってなんですかねえ~!きっと私達みたいにきっとカワイイ~ンですぅ♪」
「いや~!普段着にシチャオウかなあ~(≧ω≦*)」
「馬子・・・ま、良いか・・・喜んでいる様子だし水を差すのもなんだな」
雅楽のような荘厳な音と共に着替え終えたエンフェイが現れた。そのあまりの美しさに皆、息をのんだ。
「かすみますぅ~⤵⤵」
「当たり前だ!私の猿妃様ぞ!!」
「ふ、ふん!マゴで素敵な私の勝ちだもん(;¬_¬)だよな!ケンチ!!」
「えっ?あ、ああ、もちろん綺麗だよ??」
「だよな~ヾ(≧ω≦)」
何を話していたか聞いてなかったがとりあえず生返事。
「キッキッキッ♪喜んでもらえてなによりだよ!さあさ!余興だ!誰か面白い出し物でも見せとくれよ」
その一声にお猿達は我先にと芸を見せ始めて大騒ぎ。アイムアチャンピオンだったり反省したりと古めの物真似まで披露していた。
俺も何か・・・俺に出来る事・・・召喚!・・・鯛だ!目出鯛だ!!今まで淡水魚しか呼び出してないけど(海が近くに無さそうだからね)きっと召喚出来る!
「ウオ~~ッ!出て来い、出て来いっ!」
来た~~!・・・って鯉が出た~!これは“出て鯉”って事!?アちゃぁ~。ギャグとしてもいまいちだ~。やっぱり海がないと無理なのかなあ?
「ほぅ~!ケンチ殿やるもんだねぇ!これはこれは見事な鯉じゃないのさ~!縁起物だねぇ!当然私達にだろう?おい、誰かコイツを洗いにしておくれ」
ああ、良かった!思いのほか喜んでもらえたみたいだ。
一匹の猿が鯉を受け取るとあっと言う間に見事に調理され宴の席に並んだ。鯉はコリコリと、それでいてねっとりと脂があまく美味この上ない。キリリとした辛口の酒で舌が洗われると幾らでもいけそうな位だ。泥臭さは全くなく湯通しの温度から氷締めまでが完璧になされている・・・ムムッ、やるな!?お猿の職人!!
鯉の洗いに舌鼓を打っていると俺の袖をチョイチョイと別の猿が引っ張った。
「んー?なんだい!?・・・こっ!!これは!!」
猿が持って来た物、それは見紛う事なく完璧な鱮針“新半月”だった!なだらかなカーブからきゅっと上がる短い針先・・・しかもハリスは赤色じゃないか!!向こうから仕入れて来たのじゃないかと疑いたくなる位だ。
「凄いや!!完璧だよ!有難う!!大変だったろうに・・・ホントに有難う!!」
この針を見てしまったからにはじっとしてはいられない!俺は思い付いたのと思い出したのとほぼ同時にホームに向かって走り出していた。
「確か・・・俺がコッチに来た時に着ていたフィッシングベストの背中に入っていたはず!!」
やはりあった!寸法八寸五本継ぎ三本仕舞い、梨地漆仕上げすげ口が唐塗の小物用和竿が!結構値が張ったがあの二人に贈るなら惜しくはない。
急いで戻った俺は猿軍団の一匹に小さな池に橋を渡して欲しいと頼んだ。当然俺の頼みに難色を示したが、エンフェイさんの為だと伝えると一瞬にして京の都にありそうな絢爛な橋が架かった。
「ソントンさん、エンフェイさん。お二人に俺からのささやかながらの余興です。受け取っていただけますか?」
先の池へと宴の場を移し橋の中程に二人揃って腰掛けてもらう。そこで俺からの贈り物としてシモリ浮きの仕掛けをセットした和竿で釣りをしてもらうのだ。そう、ちょうどケーキ入刀の様に二人で一つの竿を握って。
「ケンチ殿・・・。私の手はゴツゴツでこげな繊細な竿握ったら壊れちまうべ・・・ここは彼女一人で釣ってもらうのが・・・」
「な~に言ってんだい!それならアタシの手の上から握ればいいじゃないさ・・・そう。例えゴツゴツでも優しくて温かい手だねぇ・・・この手で一生アタシを守っとくれよ?」
「あ・・・ああ」
「それから!ちや~んと名前を呼んどくれ?ソントン」
「う・・・わ、分かったべ・・・エ、エンフェイ」
「な~に?あなた」
ま、眩しい!!睦まじい!まるで空間をねじ曲げて二人だけ別世界にいる様だ!これが愛の力か!!
手を握りあい互いの目を見つめ合う二人・・・自然と顔が近づきエンフェイがすぅと目を閉じ口づけを待つ。ソントンさんもそれに応じゆっくりと唇を重ね・・・
「父~ちゃん!あたってる、あたってる!!」
「あたってる~~!」
ようとしたその時ゆっくりと弧を描き沈むシモリ浮きが、鋭く直線的に引き込まれた。エンフェイが反射的にピッと竿先を上げるとククッ、ククッと小気味良い引きが二人の手に伝わる。針から逃れようとヒラを打つその光は平たく楕円。ああ、間違いない、鱮だ。
「うわ~~!!キレ~~なお魚さん!体にオーロラがついてる~!」
「きれ~!」
だろう?
「フム。竿といい、鱮の引きといい何とも粋な釣りだねぇ・・・それ!また来た!まるで宝石のようじゃないか!煌びやかだねぇ」
だろう!デカい魚を釣るのだけが釣りじゃあないんだぜ!
とりあえず急ごしらえでリュウとキュウの竿をセットして一緒に釣りが出来る様にしてあげた。
いつの間にか挙式が一家団欒となり、俺達部外者はそっとその場を離れお開きとした。
「いや~!目出度い目出度い!!ソントンさんとエンフェイは結婚するし、俺は鱮針が手に入ったしリュウとキュウも喜んでたし!!今日は良い日だ!!うん!」
「ねえ、ケンチ」
「ん?どした?ミーシャ。おいおい・・・まさか『い~な~結婚(〃ω〃)』とか言うなよ??コロンもだぞー!!」
「・・・さっき、別れ際にスゥから聞いたんだけどさ、馬子の意味!!」
さーーっ
ミーシャとコロンの纏う空気に血の気が引く・・・。
「それは・・・」
「ホームに帰ってからゆ~~~っくりと話、聞いてあげるね(・ω・)な!?コロン!」
「ですねー!姉御」
「あ~・・・俺も鱮釣りに混じってこよーかなー。金魚とか放したら喜びそーだしー」
「家族の邪魔はいけないよ~?ケンチ君・・・さー、帰ろーかー」
「いやあ~~帰りたくない~~!俺も釣るぅぅ~~」
ホームに帰った俺は・・・察してくれ(泣)




