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12話 ひきずっちゃう

「あ!いてて!また指切っちまった・・・」


 熱が引くのに4日もかかってしまった。背中の傷はエンフェイのお陰でもう抜糸しても大丈夫な位になっていて、リハビリがてら食事の用意をかってでたのだが、どうにも気がそぞろなのだ。


「わぁ~~っっ!ケンチさまぁ!!ストップですストップですぅ!!」


「ホエ?・・・わっ!!」


 またもボーッとしていて朝ご飯用の召喚を止めるのを忘れていたものだから、シンクから溢れたお魚があちらこちらでビッチラビッチラ大変な騒ぎに!


「ちょっとケンチ!!床が鱗と粘液ですっごい事になってるじゃんか(*`Д´*)もう!!それにどーーすんの!?この魚達!!・・・まあ、食べ切っちゃうけどさ(。・ω・。)」


「ホントごめんっ!ボーッとしてたや・・・」


 床を掃除しながら謝る。きのう目が覚めてからずっとこんな調子だ。・・・俺が寝込んでいる間ソントンさんが釣り堀をみていてくれたけど、やっぱり懸念通り客は来ず開店休業状態と聞かされた。これはどうにかしなきゃとアレコレ思案するけれどなんっっにも思いつかないでこの有り様だ。


「ご飯作っといて貰ってナンだけど、そんなに悩んでばっかいると毛が抜けちゃうよ?大変なのは分かるけど、ケンチは私達と違って只でさえ毛が少ないんだから、怪我したうえに毛が抜けたってさぁ~」


 サシッ気バリバリのロインみたいなコテコテのギャグ・・・デザートのブルーベリーゼリーが台無しだよ・・・でも、センスはともかく心配からの心遣いだろうからさ!優しさを感じるよ。ありがとう、ミーシャ。


「あ、笑うと傷口開いちゃうか(^ω^)ゞテへっ!」

「あー・・・ウン・・・ソウダネ・・・」


 ・・・違うかも。軽~く受け流して水槽の魚達にもパラパラと餌をやる。


「それどったの?キレーな魚だね♪食べられなさそうだけど(`・ω・´)」


「ん?ああ、鱮だよ。かわいいっしょ?餌用召喚の時に混じって出て来てさ、お!?タナゴじやん!飼おうかなぁって」


「ふーん。それって釣れないの(。・ω・。)」


「釣りの対象だね。俺も自作の竿でよく釣ってたよ。この魚ね、その昔、大名とかその辺の偉い人達が家の敷地に池作ってさ、糸は名家の生娘の長い髪を使い、針はお抱え銀細工師に作らせてどれだけ凝った道具を使っているかを披露する贅の極みだったんだって。だからさかなへんに興じる、って書いて『鱮』だとさ。ん~・・・けど針がね~極小なのよ。それさえあれば子供たちの遊びにちょうどいいんだけどね~・・・ん!?」


  「それだ!!!」


 ミーシャと声が揃う。


「そう!針さえ何とかなれば小さな池で遊ばせる事が出来るなっ!ミーシャ、その池をみてもらってもいいかな!?意外に子供に人気あるからね~」

「意外?(-_-#) ピクッ」

「あ~、かっ、可愛いからかな??」

「ヨシ(≧ω≦)b」


「それに常に居てくれれば気配で安全アピール出来るし、そうすればきっと大人も戻って来てくれるハズ!!先ずは針だ!針がいるな!!」


 思わぬ所から解決の糸口が見えた。そうと解れば善は急げだ。


「スゥちゃん!いる??」


「なにようか?」

「わっ!!びっくりした!!」


 天井のすき間から頭だけヌッと出て来たスゥに驚いた。食後直ぐ居なくなったと思ったら天井の梁で寝てるのか。


「悪いんだけどさ、エンフェイさんにまた特注頼んで貰えないかな!?今度のはちょっと細かいんだけど、縫い針があるならきっとこれも作れる筈なんだ。とりあえず絵にしてみるね!」


 葉書大の白い皮に針の大きさ等を書いてみた。針の型は向こうに居た頃に俺が好んで使っていた新半月にした。生き餌なら三越だけど赤虫の養殖までは出来ないからね。黄身練り使うならコッチかな、と俺は思ってる。


「これなんだけどよろしく頼むね!」


「・・・ケンチ様は私を揶揄っておられるのか?何も書いてないではないですか」


「いや、ここ!よく見て?この、ちっっさいの!これが針なのよ!!ほら、そこの綺麗なお魚を釣るための針なんだ」


「・・・なる程・・・まあ、猿妃様にお頼み申してみます故」


「ありがとう!よろしくね!」


「ではっ!御免!」


 ・・・ニンニン言いながら走って行ったけど、またエンフェイさんとこで何か読んで来たな?グルグルほっぺ的な・・・いよいよ忍者みたいだな。


「俄然やる気出て来た!ちょっと森で浮子になりそうな実を見繕って来るよ。()()つくろう、だって・・・チラッ」


「んー、良かったじゃん。気をつけて行ってら~。私は見廻り行ってくる~( ̄△ ̄)」


 ヒトのは無視かい!ま、イイモンね。別にぃ~、ウケようと思ってたワケじゃ無かったし~・・・ちぇ。


「やっぱりあの繊細なアタリをとるには連動シモリがいいよな!ウン!仕掛けを考えるのってた~のしいっ♪ウハハ・・・」


 外は朝のパリッとした空気に草や泥の甘い吐息が混じり合って清々しい。


「ん~!!いい匂いだ!小物釣りによく行っていた池の事を思い出すな~。近所の子達にメージンなんて呼ばれててさ」


 大→小へ4つほど球体の浮子を等間隔にセットして、一番上がゆっくりと水中に沈み込む位に重りを調節する。曲線を描いて沈む浮子は魚が餌を食んだ微細な変化を逃がさない


「色とりどりのシモリ浮子がぴろぴろ~って動くのが子供たちにウケててキャーキャー言いながら釣ってたっけかなあ~」

「ケンチさまぁ。なんかブツブツニヤニヤちょっと変ですよぉ?心配になっちゃいますんで私もついて行きますぅ」


 考えが口から漏れていて、いつの間にかくっついて来ていたコロンにツッコまれた。


「ほっといてちょ!・・・そういえばソントンさん一家、ミーシャの森に引っ越して来たんだって?」


「そーなんですよぉ。姉御が『もうファミリーみたいなもんなんだからコッチ来れば?』って」


「そっか~。あ、でもさ、奥さんは引っ越したの知ってるのかな?出て行ったとは言え夫婦だしリュウとキュウがいるじゃん?」


「大丈夫らしいですぅ~。一度離れるとお互いに相手の顔覚えてないから問題ないって言ってましたから」


「・・・そう・・・逞しいね」


 俺なんか、フラレたらしばらく引きずっちゃうよ・・・あー、なんか思い出してきちゃった⤵沙織・・・元気にしてっかな・・・。


「それと!なんとビックリな事があるんですよ!」


「なにが?」


「ウフフ~。会ってからのお楽しみですぅ♪」


「なんだよ。気になるじゃな・・・どうした?」


 振り向くとコロンが大きな栗の木の前でウロを見つめて立ち止まっていた。


「んっ。何でも無いですぅ。な~んか見覚えあるかもと思ったんですけど、きっと気のせいですぅ~!行きましょ?ケンチ様・・・あっ!栗さん!アッチにも♪」


「あんまり遠くまで行くなよ~」


 ぴょんぴょん跳び回り栗を拾い集めるコロンのモフモフ尻尾に目が奪われる。う~、モフモフしたい!・・・いかんいかん。浮子探さなきゃ。

 結局二時間程度歩き回ったがそんな都合よくあるはずも無く、さっきまで元気いっぱいだったコロンは既にダレて来ていた。


「う~~っ・・・ケンチさまぁ~。もお帰りましょうよぉ~。疲れちゃいましたし、あんまし歩き回ってると体に障りますよ~。あ!障りますよですからね!?触りますよじゃないですよ?いや、触りたいですけど・・・」


「コラコラ!疲れてるんじゃないのか?」


「お触りは別腹ですけどぉ、ふっ、ふっ、ふぅ~!手負いの鹿は襲わない主義のですよ!だから今は大丈夫ですぅ♪・・・ありゃ?栗さん落っこちた」


 両手を腰に当てて偉そうなポーズをとるが、その拍子に握っていた栗をボトボトと落とした。ワチャワチャ慌てて拾いなおすその仕草は、()()()だったら天然系のキラースキルだろうけど今の俺には効かん!!思い出がチリチリと胸をしめつけてるからねー。沙織も天然系だったっけ・・・。


「ありゃりゃ!?なんか引きずった跡がありますよ!!」


 ドキッと来たよ!?まさかまた口から漏れていたか??


「この先は・・・ソントンさんちの方!!事件です!事件の匂いがします!」


 うって変わって元気を取り戻したコロンは目がランランだ。事件かどうかは分からないけれど、重い何かを引きずった跡に加えておびただしい数の足跡がそれに連なっている・・・気にはなるな・・・。


「じゃあ、新居祝いも兼ねてちょっとソントンさんの所に行ってみるか!さっきの『お楽しみ』ってのも気になるしな」


「んふふっ♡ホントにびっくらぎょーてんしますよ♪あっ!この姉御にって思ってた栗さん、ソントンさん()にあ~げよっ。きっと姉御も『いいよ』って言ってくれると思いますしぃ」


「いいね。きっとリュウとキュウも喜ぶと思うよ!コロンにしてはナイスアイデアだな」


「しては、ってなんですかぁ~。私はいつでもキレッキレですよぉ!プンスカσ*σ」


「あー、ゴメンゴメン。そーだね、よしよし。さあ行こう」


 ほっぺがプゥのコロンの頭を撫でてやり跡の後を追う。この引き摺られの中心にある一際大きなひづめのある足跡はきっとソントンさんのものだろう。その廻りを小ぶりな同じ形のひづめの跡がちょこちょことついているからね。これはリュウとキュウのものだと思うから。だけどその他に沢山ある足跡が誰の物か分からない。


「まさか悪い奴に捕まって奴隷のように強制労働か!?」


 いや、それはないか・・・。ミーシャがライオン?を張り倒した事は直ぐに広まりちょっとした伝説になっているらしいから、この森で悪さ出来るヤツは居ないだろう。

 程なく洞穴のある斜面にたどり着き、ここがソントンさんの家だとコロンが教えてくれたが、その脇に明らかに人工的な模様が施してある岩がある。引き摺ってきたのはどうやらあれのようだ。


「・・・こんなの運んだのか!?・・ずいぶんデカい岩だぞ??スゲエな・・・二十トン位あるんじゃないか?バケモンか・・・」

「ふえっ!?バケモン??イヤッ!お化け怖いですぅ」


「物のたとえだってば。お!?上の面はピカピカに磨き上げられてるな・・・。何だろう?」


 岩の周りをぐるりと観察しているとソントンさんが両肩にごっつい竹を担いでやってきた。


「あんれま、ケンチ殿でねっすか!元気になられたんですか?よがったよがった!んで、なすてこげなトコに?池にはこれから向かうとこだけんども急ぎの用事でも?」


 ドス、ドスと竹を岩の両脇に降ろすとトントンと腰を叩いた。仕草はいつも通りのソントンさんなのだけど、なんか雰囲気というか・・・ボサボサだった毛が小綺麗に揃えられててパッと見ナイスガイだ。


「ソントンさん、俺が寝込んでいる間池の管理ありがとう御座います!お蔭様でこの通り歩き回れるようにはなりましたよ。いやあ、この何かを引き摺る跡が気になって辿っていたらソントンさんの引っ越された所まで来てしまいまして・・・」


「あ、あ、これは・・・その・・・押しかけ女房が・・・いんや別に嫌ってワケでなぐってよ?」


「女房?よりを戻されたんですか!それは良かった!」


 なる程、奥さんが戻って来たのか。いや、まてよ?


「・・・ん?押しかけ??」


「いんや、それは、あれで・・・」


 しどろもどろな様子で言葉を濁す。何だろう?怪しい・・・!ソントンさんに限って悪い事は企んで無いだろうけど、分かり易いほど挙動不審だ。それにリュウとキュウはドコに?足跡はあった筈だけど一緒じゃないのか?


「あの、ご子息達は今日は?」


「ああ、あの子らならそこの穴の中にまだいるんでねえかな・・・なっかなか離れねえもんでよお」


「離れない?ああ!奥さんから?」

「それは・・・まあ、そうなんだども」


 額の汗を拭う仕草が明らかに焦っているな。汗だけに焦っちゃうってか?


「なんだい、なんだい!騒々しいねえ」


 洞穴からリュウとキュウを引き連れ出て来た声の主にそれこそホントにびっくり仰天して俺は腰が抜けそうになった!


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