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10話 ルール


 ここの釣り堀には絶対に守ってもらわなければならないルールがある。それは


 生きたままの魚を持ち帰らない事


 その他にも色々とルールはあるけれど多少の融通は利かせている。例えば池にみだりに立ち入らないとかはランディングの都合上仕方ない場合もある。だけどこの持ち帰らないルールにおいては例外はない。生きたままの魚を他の池や川に放されると、どんな悪影響を及ぼすか・・・。この池はミーシャの所有する個人の池だから俺の召喚放流が成り立つのだ。まして俺の召喚魚はこの世界にはいない。どんなことになるのかは安易に想像がつく。

 大抵の客は納得してきっちりと絞めてから持ち帰ってくれるのだけど、この日はどうにも引き下がらない客が来た。


「払うもん払ってるんだ!!俺の釣った魚をどうしようが俺の勝手だろう!!」

「ですから、先ほども申し上げましたがお持ち帰り頂くには必ず締めてからにして下さい!」


 こんな日に限ってミーシャがいない。疲れた、とか言ってまだホームで寝ているはずだ。でも例え寝ていたとしてもその存在の効力は強力だ。ゴメン、ミーシャ!ちらつかさせて貰うよ。


「納得して頂けないようでしたら金輪際、一切の遊戯及び立ち入りを禁止いたします。この辺りが何故平和なのかお分かりですよね?裏を返せばとても危険なのですよ」

「脅しかよ」

「致し方ありません。その位生きたままではよして頂きたい、と言うことです」

「はっ!じゃ要らねえよそんな魚!!こんなとこ二度と来るか馬鹿野郎!!コッチから願い下げだ!覚えてろよ!!」


 いかにもな捨て台詞で竿を放り投げ、唾を吐き捨てる。どんな世界にも居るもんだなぁ・・・クレーマーって・・・利用規約読めっての・・・。


「あのイタチやろー、私の事美味しそうに見つめて来て気持ち悪かったですぅ~~」

「釣った魚をも捨てて行くなど傍若無人な振る舞いが許されてよいはずも無し!!呪われろ!」


 いつものセリフが今回ばかりは本当にそうなってほしいものだと思う。


「お魚さん・・・可哀想ですぅ・・・」

「んだな・・・。小ぶりなのが十匹くれえいっぺ・・・。まんだ生きとっとがこりぁ・・・放すても生ぎてはいけねぇなぁ」


 ヒロロ草で編み込まれたスカリの中に乱雑に扱われ、握り締められた時に出来るヤケド跡が痛々しい魚が十数匹・・・仕方ない、とりあえずワタをエラごと抜いて、作っておいたソミュール液につけ込むか。実は第二の稼ぎ頭として燻製販売を目論んでいたのだがこんな形で使う事になろうとは・・・。


「あいづら、臆病なクセに相当しつこいっぺよ?きっと何かしてくるべな・・・」


「そんときは姉御のがお~~っ!で一撃ですぅ!ど~んとこ~~い♪」


「私の方も猿妃様の軍団を貸して頂き返り討ちにしてやります!と言うより二度とこの地に足を踏み入れる事の無いよう完膚なきまでに叩きのめします故」


「ははっ♪頼もしいな!これは確かにど~んとこい!だな」


(わたす)はお役にたてそうもねっす・・・。オッカネェのと痛ぇのはどうにも・・・」


「大丈夫ですよ!ソントンさん!むしろ常連のお客さんにそんな事させられませんて!それにもしもそうなった時は、リュウ君とキュウ君を守る事に全力を注いで頂ければそれが一番です」


「申し訳ね・・・そうさせて頂きます」


「それに、ここはミーシャの縄張りですよ!そう簡単には滅多な事は出来ませんて!」


 そう思って高をくくっていたが奴らは踵を返すように直ぐにやって来た。


 「お~、痛ってえ!おい!こらぁ!小指に針が刺さって血がでてきてるよ!どうしてくれんだ、コラ!!」


 立派な金のタテガミを持ちかなり大柄な腕に入れ墨を入れた獣人・・・ライオン?が鼻息荒げ突っかかって来た。う~ん・・・獣人にもDQNって居るんだねぇ~。コイツは今さっき入場して来たのだけど、始めた途端に直ぐに騒ぎ始めた。


「ああ、本当ですね。プツッと出てますねえ。ただ、場内の怪我に関して一切の責任を負いません、と規約に書いてあるのですが・・・まぁ、チドメグサ位ならありますから使いますか?」


 側に居たお猿さんに目配せして草を貼ってやるよう促す。テケテケと近寄るお猿さんに対してコイツは右手を大きく振りかぶった!


「危ない!!」


 咄嗟にお猿さんを抱き抱えるように覆い被さったが、背中に鋭い痛みを感じながら交換場まですっ飛ばされてしまった。


「キャア!?」「何だ何だ!?」


 直ぐに場内は騒然となり小型の獣人達は森へ逃げ込んだ。リュウとキュウは!?・・・よかった!森へソントンさんと逃げているようだ・・・。

 その反対側・・・木の陰にチラッとイタチが居るのが見える・・・ニヤついているところから察するにコイツはあのイタチやろーが呼び寄せたんだな!?


「ケンチ様!!ご無事です・・・かっ!?

 背中に酷いかき傷が!!これは縫わないとなりませぬな!しばしご辛抱を!猿妃様をお連れして参ります。あの方なら直ぐに縫合出来ますので!!」


「待って!危ないからここにエンフェイさんを呼んじゃ、駄目だ!!」


 俺の声は届かずシパパッと駆けエンフェイさんの元へ向かってしまった。


「キキッ・・・」


 胸に抱えたお猿さんが心配そうに俺を見つめる。


 「大丈夫だよ!君は無事かい?・・・そうか、良かった!!君も早く森のなかへお逃げ」


 俺も立ち上がろうとしたが、傷がひどく痛み、力が入らない。俺の背中の血の匂いに肉食獣達の目つきが変わる。


「はは・・・そりゃあそうか・・・自然界に置いちゃ今の俺って、鮮度の良いエサに見えるんだろうな・・・」


 百歩譲って喰われるのは仕方が無い。でも死んで元の世界に転生、とかはイヤだな。


「アッチの世界はもういいや・・・って、俺、転生したわけじゃないか・・・ははっ。いてて・・・う~ん・・・目がかすむや・・・ミーシャ・・・もう一度キミの笑う顔が見たかった・・・俺、キミの事が・・・」


 薄れる意識の彼方に跳ねながら爆走するアルファードを確かに見た。


「ア、アルファード??え?ベルファイアかも!?どっちでもいいか!何で森からDQNカー??びっくりして目、覚めたわ!!」


 よく見れば車じゃない!羆だ!!この甘い匂い・・・それに背中にさっきのお猿さんを乗せている・・・ミーシャだ!そうか!呼びに行ってくれたのか!


「ありがとう・・・お猿さん!これでもう大丈夫・・・」


 安心すると同時に俺は気を失ってしまった。

 ・・・温かい・・・。何で俺、こんなにツヤツヤスベスベのベットに寝てるんだろう・・・。ああ、ミーシャ、おはよう!ん?朝ご飯?いいね、饅頭か!このほのかに甘い香り・・・アンマンかな?柔らかいね。ぷにぷにモチモチで美味しそうだよ!


「いただきま・・・」


 ほっぺたにパチンと痛みを感じで目が覚めた。


「え??夢??ここは・・・ホーム??え?」


「ケンチ・・・」


 心配そうに俺を覗き込むミーシャ。俺は今、ミーシャに膝枕されて寝ている・・・ああ、そうだ・・・助けに来てくれたんだった。良かった!・・・って事はみんな無事だな。


「ケンチ!」


 なあに?ミーシャ。俺、キミの顔がもう一度見られて嬉しいよ・・・。


「ケンチ!!手!」


 再びパチンとほっぺたに平手打ちを食らう。何で??手?・・・俺の視線の先、右手がミーシャの・・・!!


「ごっ!御免なさい!!決してわざとじゃ!!」


 飛び退こうとしたけど背中が酷く痛み、全てが夢じゃない事を語る。


「ウわ~~ン、ケンチさまあ~~!目が覚めて良かったですぅ~~!!」

「起き抜けにオイタとは、恐るべし」

「流石コマシだねぇ・・・。ホレ、横になってないと傷口が開くぞ?」


 コロンに抱きつかれてズキンズキンとする背中・・・見えはしないけどエンフェイが縫ってくれたようだ。


「いてて・・・ありがとうミーシャ!助けに来てくれて!キミがいなかったら今ごろ俺は・・・」


 お互いちょっと気まずく目を見ながら話せないでいる。


 「んま、まあ、べっ、別になんてゆーか、私の縄張りで好き勝手されたからでケンチがやられたからってゆーわけでもなくて、その、あれよあれ!たまには運動しないと太っちゃうからよ(๑・౩・๑)」


 そう言いながら照れてはいるがさっきから腕の右側を見せないようにしているのが気になった。


「ミーシャ、腕どうした?・・・まさか怪我した!?」


「べっ別に(゜ω゜)」


 完全に目が泳いでいる・・・。腕をとり無理矢理コッチを向かせると、ミーシャのキレイな毛並みに、一筋の赤黒い引っかき傷が!!・・・ゴメン・・・俺のせいで・・・。


「ケンチ様!姉御凄かったんですよ!!グオオオッッって来てガーーンって殴って、タテガミヤローがぴって引っ掻いたら『ゴラァ!!』ってボコボコにしちゃったんです。そしたら・・・」


「あー、コロン。私が語ろう。オマエの話はナガシマみたいでよく分からない故・・・」


 擬音だらけのコロンに代わりスゥが事の顛末を話してくれた。

 お猿さんがミーシャを呼びに行き直ぐに駆けつけてくれ、俺がやられたと知ると全身の毛を逆立て猛烈な威嚇を放った。俺に群がろうとしていた獣達は恐れ戦き一目散に逃げ出したそうだ。


「『私のものになにしてくれてんだ!!』そう申して吠えた時は私でも惚れる所でした。イヤ、勇ましい事この上無かったです」


「そ!!そんなこと言ってないもん(*≧Δ≦)」


 顔を赤らめるミーシャをよそにスゥは話を続けた。


「ミーシャ様の咆哮でもたじろぐことなくタテガミヤローは息巻いておりました。頭に来たミーシャ様が一発殴ると膝をガクガクとさせて勝負あったと思いましたが、イタチがケンチ様に近寄ったのでミーシャ様はよそ見をしてしまいました。その隙を逃さなかったタテガミヤローに腕を引っ掻かれて怪我をしたようです。まあ、代わりに顔の形が変わるほど殴り倒されておりましたが」

 

 やっぱりこの怪我は俺のせいか。


「姉御ちょ~~カッコよかったですぅ~~!!イタチヤローなんかビビッて脱糞しながら逃げてちょ~~ダサかったんでぇ、もー来ないと思いますぅ!」


 ・・・それって裏を返せばもしかすると・・・


「確かにもう来ないでしょう。が、他の者達もミーシャ様を恐れ、縄張りには立ち入らないかと思われますのでここの営業は難しいかと」


 だろうな・・・。クソっ!こんな事になるなら少し位・・・いや駄目だ!その行為が生態系のバランスを崩す原因になるんだ!その為のルールなんだ!決してきついルールではないはず。守れない方が悪い!

 ・・・だけど・・・お客さんが来ないとなると・・・どうしたもんかな・・・。


「とりあえず、怪我したのは俺とミーシャだけなんだね?それだけが不幸中の幸いだよ。みんなありがとう!いい連携だったと思う。訓練してたって中々咄嗟に出来る事じゃ無いよ!それからエンフェイさん、背中の傷縫ってくれてありがとう」


 上体を起こして握手しようとしたがズキッときて無理だった。


「ホレ。礼はいいから横になっとれと言ったろう?そこに痛み止めの薬があるからそれ飲んで早く寝るんだよ。まあ、夜は熱が出て苦しむだろうからミーシャに手でも握っといてもらうんだねぇ~。キッキッキッ」

「・・・さて、私は帰るよ。オマエ達!」


 いや~~な笑いを残し猿軍隊を連れてエンフェイが帰って行った。


「今日はケンチ様の隣で寝ますぅ!!ウンウン言ったらヨシヨシしてあげますね?」


「俺は子供か!!」


「むっ(`・ω・´)」


 それを聞いたミーシャがドスドスと部屋を歩き回り蝋石で俺の寝ている横に線を引き始めた。


「この線から向こうに行っちゃダメ!ルール( ̄ω ̄)破ったらご飯無し!」


「そんなぁ~~⤵⤵」


 そう、ルールは大事よ?もし()()()の事態が起きた時、俺の身が危ないからね。

 ミーシャ怖いもん。でもちょっと残念に思う今日この頃:゜(;´∩`;)゜:。








 

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