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前借りドラピージスト  作者: 青星蒼舵
第一章 紅龍の試練編
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03. 空賊の王


「おーい、さっきここらでデカい声が――」


 突然の声に慌てて振り返る。

 暗がりに覗くド派手な真紅のキャプテンコート。首謀者の金髪男、ジャスパーがちょうど階段を下りてきたところだった。


「――聴こえたような……あ」


 ……まずい。見つかった。


 ジャスパーは青ざめた俺たちを見るなり、


「わっ、うわわぁぁぁあっ!? い、いたーっ!!」


 と、なぜか仰天して腰のホルスターから銃を抜いた。


「くっ!」


 咄嗟にヒヨノを払い除ける。


 ――――パァンッ!


 発火する銃口を見たのと同時、俺の身体は張り倒されるように傾いた。

 弾ける紅飛沫。上半身がひやりと凍え、すぐに気持ち悪い熱を帯びていく。

 甲高い悲鳴。速まる鼓動。臀部に衝撃。視点が、低い。


「……っ」


 気付けば俺は尻もちを付いていた。

 視界の左半分が涙で歪み、頬からの出血を自覚する。


「コトラくん!?」


「来るなヒヨノ!」

「止まれ女!」


 両側からの大声に、ヒヨノはびくりと身を凍らせた。


「はぁ。捜したぞ、お前たち」


 ジャスパーは銃口をこちらに向けたまま、ゆっくりと近付いてくる。


「お友達をほったらかして、こんな場所で逢引か」

「……あ、あ……っ」


 迫る影に慄き、ヒヨノは這いずり後退った。

 無防備なスカート丈から露わになった太腿に、ジャスパーが眼差しを注ぐ。


「……くそっ。はしたない恰好しやがって」


 ヒヨノには申し訳ないがこの際好都合だ。

 俺の期待に操られるように、ジャスパーは一歩また一歩と接近してくる。


「こ、来ないで……」

「動くなよ。ぼくだって暴力は嫌なんだからな」

「い、やっ……嫌ぁあああっ!」

「騒ぐんじゃない!」


 ジャスパーがヒヨノの腕を掴み上げる。

 

 ――銃口が逸れた。こちらの射程だ!

 俺は腰のベルトを勢いよく抜き払い、長鞭のように宙を薙いだ。


「うらぁあああああああああっ!!」


 ビュンッと風が唸る。


「っぶッぐぇぁ!!?」


 鈍い音を響かせ、金属製のバックルが前歯を叩く。

 殴られたジャスパーは鮮血を散らしながら後ろに倒れ込んだ。


「し、しまっ――!」


 床に叩き伏せられた衝撃で手から銃が転げ落ちる。俺はそれを咄嗟に拾い上げ、彼の額に突き付けた。


「撃つぞ!」


 本気で撃つつもりはなかったが、


「ま、待て!」

「コトラくんダメッ!」


 突然、バンッと銃声が炸裂する。

 ヒヨノに抱き留められた拍子に、俺はうっかりトリガーを引いてしまっていた。


「あぁーっ!!?」


 撃っちゃった!!!


「わぁーっ!!?」


 ジャスパーの悲鳴。

 顔を両手で覆い隠し、その場でごろごろとのた打ち回る。


「ヤダーッ! ぼく死にたく……な、い――あ、あれ? い、生きてる?」


 丸くなっていた彼がおそるおそる薄目を開く。

 幸い、照準は外れていた。銃弾はジャスパーから逸れて積み荷の一つを撃ち抜いたようで、砕けた木屑がぱらぱらと飛散している。


「えっ……えっ?」


 ジャスパーは呆気に取られた様子で、自分の掌とヒヨノを交互に見比べる。 


「な、なんだ? お前、ぼくを助けたのか?」


 ヒヨノは返答せず、俺から銃を奪って筒口を掲げた。


「跪いて」

「へ?」

「両手を上げて跪いて!」

「わぁぁぁあ! わかった! わかったから!」


 ジャスパーは言われた通りに膝を折り、涙混じりの声で縋る。


「な、なあ。内通者の女ってのはお前のことか?」

「えっ、内通者?」

「いったいなんの話だ」


 俺も一緒に訊き返したが、答えよりも先に慌ただしい足音が階段を下りてくる。


「ジャスパー様、なにやら派手な銃声が……ああっ!」


 眼帯が印象的なボブカットの少女。

 制服姿ではないので空賊側だ。

 

 彼女は俺とヒヨノの存在に気付いた途端、


「うわああああああ成敗! 成敗です!」


 と、いきなり銃を取り出して、碌に狙いも定めずに乱射し始めた。


「きゃあああああっ!」

「あーっ、もう! これだから空賊ってやつは!」


 俺はヒヨノを抱き寄せ、木箱を盾にしながら貨物室の奥へと逃げ込んだ。


「わーっ!? バカバカなにやってんだズズのバカぁ!」


 銃弾と大鋸屑の嵐の中、ジャスパーのヒステリックな声が木霊する。


「そんなにぱんぱか撃ちやがって、卵が割れたらどうするつもりだぁ!!」


 頭領の一喝で銃声がぴたりと止む。


「そうでした。ジャスパー様、大問題でございます」


 ズズと呼ばれた眼帯少女は冷静さを取り戻し、姿勢を正した。


「時は一刻を争います。パイロットが救援信号を打ち上げました。大至急トンズラしませんと、竜騎隊に見つかるのも時間の問題かと」

「竜騎隊だと!」


 ジャスパーの顔が一気に険しくなる。


「竜騎隊は困るぞ。ここで捕まったら縛り首だ」


 俺たちとしては朗報だった。

 竜騎隊が到着するまで時間を稼ぐことができれば、無事に助かるかもしれない。


「仕方ない。ひとまず船は捨てるぞ。人質も放っておけ」

「承知しました。しかしジャスパー様、竜の卵はいかがなさいますか?」

「卵か。確かに手ぶらじゃ帰れないな。母艦に連絡して迎えのエアバイクを手配しろ」

「そちらは既に要請済みです」


 ジャスパーはしたり顔で頷くと、大きな声でこちらに呼び掛けた。


「おーい。お前らも聞こえてたな?」

「はいはい」


 木箱の陰に隠れたまま、俺は手を振って応答した。


「では話が早い。そういうわけさ。命拾いしたなぁ若き竜騎隊。はっはっは!」


 ドォンッ! と、背後で豪快な炸裂音が爆ぜる。


「……ふ、ぅぅっ!」

「く、そっ。今度はなんだ!?」


 びゅおおおおうと音を立てて吹き込んでくる冷気と木屑。

 振り向くと貨物室の扉は爆破され、拓けた視界に濃紺色の帳が広がっていた。

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