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前借りドラピージスト  作者: 青星蒼舵
第一章 紅龍の試練編
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13. 五宝の難題


 談話室を辞去して、言われた通り裏庭へと歩みを進める。

 竜の寮舎と聞いて、ブリーダーの専門学校にあったような畜舎を俺は想像していた。もちろんそれらしき施設もあるにはあったが、そちらの住人は今日のところは留守のようだ。


「そういえば上級生は出掛けてるんだっけ」


 ということは、普段畜舎は彼らの伴竜が使用しているのだろう。

 ではゲッカビジンたちはどこにいるのかと探してみれば、ボールやぬいぐるみが散らばる託児所めいた一室に辿り着いた。

 清潔感のある白く明るい室内では、面談を終えた生徒たちが卵や孵化したばかりの幼竜と戯れているところだった。


「あら、ご主人様が来たみたいよ」


 女の子座りのリリアに手を振られ、ぎこちない会釈を返す。

 彼女の隣には、昨日とは打って変わって粧し込んだゲッカビジンと、お昼寝中のゴシックストーカーの姿があった。


「おはよう、ゲッカ」

「コトラ。おはよ」

「ちゃんとご飯食べたか?」

「うん。おかわりもしたよ。はみがきも」


 そいつは結構。


 今日のゲッカビジンは一味違う。

 胸元はフリルの付いた黒のチューブトップ、下はグレーのショートパンツを履き、腰にはみんなと同じコバルトブルーの制服ジャケットを巻いている。

 トレードマークの白銀髪もツーサイドアップにして、一気に垢抜けた印象だ。


「似合ってるじゃん」

「うん。リリアがえらんでくれた」


 尻尾を太腿に巻き付け、嬉しそうに翼をぱたぱたさせる。

 早くもファッションの面白さに目覚めたのか、彼女は少し得意気だ。


「だからね、おれいにあそんであげてたの」

「そういうことにしといてあげる」


 リリアは半笑いで肩を竦めた。


「コトラくん、面談はどうだった?」

「えっと、ぼちぼち」

「その様子だとなにかあったのかしら?」

「まあ、ちょっとね」


 プリムラ先生を疑っているわけではないけれど、母のことを想うと憂鬱になる。


「コトラ、しんぱいごと?」


 ゲッカビジンが覗き込む。

 嘘を言ってもしょうがないので頷き返した。


「あらあら。大変だったのね」


 不意にリリアに手を握られ、ぼんっと顔が火照った。


「う、ちょっと。あの、恥ずかしいんだけど」

「ふふっ。いい子いい子」


 優しい手つきが髪を撫でる。

 幸福と羞恥心で頭がどうにかなりそうだった。

 振り払うこともできたはずだ。でもそれはあまりにももったいない!


「わたしもなでる。なでなで」

「よしよし。コトラくんよしよしっ」

「ふぁ、ふぁあああああ」


 二人に甘やかされるがまま、俺はしばらく至福の時間を過ごした。


「俺、今なら無敵な気がするよ」


 ……なんて、本気で思っていた。

 その時までは。



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「はーい。午前中はお疲れ様でしたぁ」


 新入生全員の面談を終えたプリムラ先生が注目を促す。


「面談はいかがでしたか。先生はとっても楽しい時間を過ごせました。今後もこうした機会を設けたいと思っていますので、その際はまた大いに語り合いましょう!」


 さてさて、と彼女は話を改める。


「ところでみなさん? 昨日お話しした五宝の難題については憶えてますかぁ?」

「なんだっけ。金の龍?」


 自信なさげに答えたクゥネルカに、先生はぐっと親指を立てる。


「バッチリです。昨日みなさんに課したのは金龍の試練で、これは恒久的な試練だという説明もしましたね。伴竜の成長段階に応じて、残りの試練にも追々挑んでもらうことになるのですが――コトラさん。ちょっとよろしいでしょうか」


 指名を受け、俺はその場で立ち上がる。


「彼とゲッカビジンは、既に一定のラインに達していると先生は判断しました。よってコトラさんには、次なる紅龍の試練に挑んでもらいます。わーっ拍手拍手ぅ!」


 ……え?

 頭の中が真っ白になり、眩暈にふらついた。


「ええええええ!? 聞いてない。聞いてませんよ、先生」

「さっき思い付きましたぁ」


 うふふふふ、と彼女はまるで悪びれる素振りもない。


「紅龍の試練は火竜サラマンドラの討伐です。これはとある殿方が求婚に際し、竜の皮を剥いだという神話に基づくわけですが……あれぇ? コトラさん、大丈夫ですかぁ?」


 大丈夫なものか。

 試練は5つ、卒業は2年後だ。


「無茶言わないでください、先生。俺まだ入学2日目ですよ。なんも教わってませんよ」

「もちろん今すぐにとは言いません」


 ホッとしたのも束の間だ。


「試練は10日後にしましょうね」

「すぐじゃん!」

「場所はアイランドラッヘのコロシアムで行います。いい結果を期待してますねーっ」


 俺は呆気に取られ、その後の先生の話はまるで頭に入らなかった。


 紅龍の試練。戦って勝てるのだろうか。

 否、負けとは即ち死を意味する。10日という期日は、余命の宣告に等しく思えた。

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