表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前借りドラピージスト  作者: 青星蒼舵
第一章 紅龍の試練編
11/41

11. 穏やかな朝


「ね ぼ す け ♡」


 すっかり寝坊した。

 マヨの書置きを丸めて、コバルトブルーの制服に袖を通す。

 疲れ果てていたせいか昨日は本当によく眠れた。だから今朝は驚くほど快調だ。


「よっしゃ、行くか」


 髪を結い、部屋を飛び出す。

 寄宿舎から続く渡り廊下を通って校舎側へ。

 朝に弱いのは俺だけではないようで、途中で何人かと挨拶を交わした。まだ顔と名前が一致していないけれど、すぐに仲良くなれるだろう。


「ええと。マヨはどこかな」


 食堂はまだ多くの生徒で賑わっていた。

 盛り付けられた朝食を受け取って、視線を左右に振る。

 目当ての人物はすぐに見つかった。ヒヨノとクゥネルカ、それにリリアも一緒だった。


「みんな、おはよ」

「あ、おはよう、コトラくん」


 ヒヨノにハイタッチ。ついでにマヨともタッチ。


「コトラってば朝に弱過ぎなんだが~」

「ごめんって」

「明日はボクが起こしてあげるね」

「すまん。頼むよ」


 早起きは昔からの苦手分野だった。

 俺としては朝食の時間に間に合っただけでも素晴らしい快挙だ。


「あれ、そういえばゲッカビジンは――」

「ゲッカちゃんなら寮舎にいると思うよ。保育担当の先生が特製ベビーフードを用意してくれてるんだって」

「ほーん」


 さすがは竜騎士の学園。幼竜の管理も徹底されているようで一安心だ。


「コトラくん」


 向かい席のリリアがとんとんと膝を叩く。


「隣、いかが? 私たちもまだ途中だから、一緒に食べない?」

「じゃあお言葉に甘えて」


 朝から美人の隣席とは恐悦至極だ。折角なのでお邪魔させていただくことにした。


「いただきます。……ん?」


 こ、これがアイランドラッヘの朝食か。

 空の上だけあって並ぶメニューも異国のそれだ。見たこともない料理の数々に、若干警戒しながら口へと運ぶ。


「お。脂がのってて美味しい。これなんて焼き魚だろう」

「モハモハの切り身よ。もしかして食べるの初めて?」


 リリアの解説を聞きながら咀嚼する。


「ちなみにお味噌汁の具は高級食材のオルゴン貝よ。色鮮やかな貝殻が素敵でしょう?」


 綺麗と言えばその通りだが、工芸品っぽさがあってあまり食欲はそそられない。


「もぐもぐ。味の方は、なんというか、うん」

「コトラくん、意外とグルメさんなのね」


 リリアはくすりと微笑んだ。


「でもそうね。オルゴン貝って流通量が少なくて値が張るけれど、実は需要があるのは剥き身じゃなくて貝殻の方なのよ」

「へえ。リリアは物知りだなぁ」

「ふふっ。ここ数年は世界中を飛び回っていたから、そのせいかしら」


 ふと視線を感じて前を見る。向かいのクゥネルカが指を咥えてこちらを凝視していた。


「じーっ」


 よだれ垂れてますけど。


「な、なに。この貝好きなの?」


 こくこく、とクゥネルカは二度頷いた。


「もう箸つけちゃったよ」

「いいから早く食べなさいよ」

「どっちだよ」

「クゥネルカは貝殻が欲しいんだって~」


 マヨは味噌汁を飲み干すと、お椀ごとクゥネルカに手渡した。

 見れば彼女のトレーには貝塚が一山出来上がっている。既に多数の貝殻を回収して、綺麗なものだけを厳選しているようだ。あまり衛生的とは思えないが……。


「さっさと食べてよこしなさい」

「いいけどさ、こんなん本当に売れるのか?」

「売るなんてとんでもない!」


 言質は取ったとばかりに、クゥネルカは俺の味噌汁を強奪した。


「標本ケースに並べて、うちのコレクションに加えるの!」

「はぁ。さいですか」

「レア物を見つけたらうちのところに持ってきてね。貝とか骨とか化石とか。お金に余裕がある日だったら、ちゃんと適正価格で買い取ってあげる」

「今回の査定額は?」

「これは廃品回収よ」


 つまりは金欠中と。

 クゥネルカの選別作業が終わるのを待った後、5人揃って食器を下げる。


 歯磨きを済ませて集合場所の大講義室に向かうと、予定時刻の直前だった。


「ギリギリセーフって思ったんだけど」


 黒板には今日の予定が書いてあり、午前中は個人面談となっていた。

 順番に面談室に呼ばれるようで、待機中の生徒は親睦を深めておけとのお達しだ。


「ううぅ、き、緊張するよぉぉぉ」

「ふふっ。心配し過ぎよ」


 ぐるぐると目を回すヒヨノを慰めていたリリアだったが、真っ先に呼び出されて教室から出て行ってしまった。


「あ、私もちょっとお手洗いに」

「こらこら」

「止めないでコトラくん。漏らすよ!」

「嘘つけ。また手首切る気だろ」

「ふぇぇバレてたぁぁ。左腕の傷が疼くよぉぉ」


 その後も数分置きに通信バッジに通知が届き、一人また一人と部屋から消えていく。

 空席の数が目立ち始めた頃、そういえばとクゥネルカが呟いた。


「みんなは竜の名前って決めた?」


 じろじろと交互に顔を見比べ、ヒヨノが小さく照れ笑いをする。


「でぇへへ。じ、実は私、ずっと前から決めてありまして」

「なになに?」

「べ、ベリードルーチェ」

「えーすご。かっこいい系の名前じゃない」

 

 確かにちょっと意外だ。


「マヨは?」

「顔を見てから考える予定~」

「そっかぁ。うちも検討中。候補は100個くらいあるんだけどね」

「たくさんあるね!?」

「これから一生一緒に生きていくわけでしょ。後悔したくないって言うか……あっ!」


 クゥネルカはぐいっと身を乗り出して顔を近付けてくる。

 青い前髪の向こうから、無邪気な眼差しが覗き込む。


「ね、コトラ。なんでゲッカビジンはゲッカビジンなの? 由来とか教えなさいよ」

「私も気になるーっ」

「ボクもボクも」


 ヒヨノとマヨにまで詰め寄られ、俺はおろおろと狼狽えた。


「いや、別に大した理由じゃないんだけど……わわっ!」


 胸元のバッジがピピピと鳴って、俺の番が訪れたことを告げる。


「ごめん。俺行ってくるよ」

「えーっ、タイミング悪過ぎぃ!」


 クゥネルカの駄々を振り払い、プリムラ先生の待つ面談室へと早足で向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ