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第24話 許せないこと

 シャルロットたちは食事を囲む。フェリクスはたまにシャルロットの家に食事を取りに来るので、その光景はいつもと変わらないものだった。膨れ顔のフェリクスを除いては。


「許せないことって何?」

「言えない。でも、父様と喧嘩した」

「またエルネストが何か言ったのか?」


 父親のセドリックは困った顔でそう言った。セドリックはフェリクスの父親であるエルネストと幼なじみだった。そのため、フェリクスの父親についてはシャルロットより詳しい。


「父様、いつも僕に厳しいことばかり言うの。本当、嫌になっちゃう」


 セドリックは苦笑いをしながら、エルネストのフォローをする。


「でも、きっと、エルネストもフェリクスを考えて言ったことだと思うよ」

「何も考えてないよ、きっと……」


 フェリクスは何か言いたそうに口を開いた。だが、すぐに首を振る。


「いいんだ。もう、どうでも」


 そう言いながらも、吹っ切れているようには見えなかった。


「フェリクス。今日は泊まっていきなさい。エルネストには私から連絡しよう」


 セドリックの言葉にフェリクスは素直にうなずく。そして小さく呟いた。


「……僕もこの家の子だったらよかったのに」


 その言葉は隣に座っていたシャルロットだけが聞き取れた。


 フェリクスはすぐに笑顔を浮かべて、楽しい話ばかりをした。そんな彼が少し気になった。





 次の日、シャルロットはフェリクスの家を訪れた。自分には何も力はないが、話を聞きだすことはできるはずだ。フェリクスの思い違いがある可能性がある。ならば、傍で話を聞いていた人の話を聞きたい。


 そう思い、使用人に声をかける。中から出てきたのはマルスランだった。


「シャルロット。珍しいね。どうしたの?」

「マルスラン兄様と話したくて来ました。お時間はありますか?」


 マルスランは何かを察したのか、家の中へ通してくれる。お茶を用意してくれ、シャルロットは椅子に腰を下ろした。


「フェリクスがそちらの家でお世話になっているんだろう? 迷惑をかけてごめんね」

「いえ、うちは……フェリクスはもう家族みたいなものですから」


 その言葉にマルスランは小さく笑う。


「家族みたいなものか……。うちも母様がいれば、もう少し変わったのかもしれないな」


 フェリクスの母親が亡くなったことは知っている。だが、どんな人かまでは知らなかった。


「フェリクスのお母様はどのような方だったんですか?」


 フェリクスには母親の記憶がないと言っていた。だが、マルスランには思い出があるようで、優しい笑みを浮かべながら教えてくれる。


「母様は綺麗な人だったよ。フェリクスの女性にしたような人……と言ったら伝わるかな。本当に綺麗な人で、父様は母様のことをとても愛していらっしゃった」


 フェリクスを女性にしたような人……。そう言われて、すぐに姿は思い浮かんだ。フェリクスは幼なじみの自分から見ても綺麗だ。女性だったら、きっとモテただろう。


 マルスランは眉を下げて、目を伏せる。


「だけど、母様はフェリクスを生んで亡くなってしまったんだ」


 それを聞いて、言葉を失くす。亡くなったことは知っていたが、フェリクスを生んだことで亡くなっていたことまでは知らなかった。


「そのときの父様のショックの受けようはすごかった。フェリクスのことも……大切に思っているけど、母様を殺したように思っているようで……どう接したらいいかわからないみたいなんだ」


 彼はそう言って、部屋を見渡す。彼らの家には侯爵家であるにも関わらず、物が多くない。装飾することを好まないようだった。


「そう考えると、フェリクスにとってこの家は居心地の良いものではないだろうね。君の家によくお邪魔しているのは申し訳ないと思っていたけど、ありがたくも思っていたんだ」


 フェリクスはよく家に遊びに来ていた。それは彼が口で言っていたように、朝食が美味しいからとか、暇だからとか、そういった理由を信じていた。


 ……フェリクスは寂しい気持ちを隠していたのだろう。


「君の言うように、フェリクスにとっての家族は君たちなのだろう。だから、婚約の提案を受け入れると思っていたんだが……父様が断るだなんて思っていなかったんだ」


 その言葉を聞いて、シャルロットは顔を上げる。


「どういうことですか」

「聞いていないのかい?」


 マルスランは困ったように眉を下げる。


「そうか……。僕の口から言っていいものか……」

「教えてください」


 シャルロットがそう頼むと、マルスランは少しためらいを見せながらも教えてくれる。


「……セドリック様が父様に提案したんだ。シャルロットとフェリクスの婚約の話を」

「お父様がですか?」

「ああ。でも、父様が断ったらすぐに諦めたから、そんなに深い意味はなかったのかもしれないけれど……」


 父親にそんな提案一度もされてことがなかった。セドリック自身、断られるかもしれないと考えていたのかもしれない。


 自分の知らないところで物事が動いていたことを知り、シャルロットは頭を下げる。


「ありがとうございます。父に聞いてみたいと思います」


 マルスランは心配そうな表情でこちらを見ていた。だが、シャルロットは何でもないというように笑顔でフェリクスの家を後にした。


 家に帰ってすぐにセドリックの元へ行った。セドリックは驚きながらも、自分の部屋にシャルロットを入れてくれる。


「お父様、聞きたいことがあります」

「どうしたんだ?」

「……以前、エルネスト様にフェリクスとの婚約を持ち掛けたと聞きました」


 そう話すと、彼は「ああ」と何ということでもないようにうなずいた。


「そうだね。一度、私から提案したんだ」

「教えてください。どうして、フェリクスとの婚約を持ち掛けたのですか?」


 セドリックは少し視線を逸らす。


「……これは私から言っていいのかな」


 シャルロットは身を乗り出して、もう一度言った。


「教えてください」


 セドリックは観念したように肩をすくめると、素直に教えてくれた。


「実は……フェリクスから提案を持ち掛けられたんだ」


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