第21話 火の精霊との契約
火の大精霊セヴランが去ったあと、リュシアンはデオダに申し出た。
「俺と協力する気はないですか?」
デオダはリュシアンを見て、すぐに首を横に振った。
「嫌だね。どうして、何も力を持たない人間と契約する必要がある?」
リュシアンはデオダをまっすぐ見ると、口を開いた。
「俺には未来が視えます」
「はぁ? 未来?」
デオダは胡散臭そうにこちらを見た。
「はい。俺は一度死んで、気づけば世界は時を巻き戻したように、時間が戻っていました。……俺は時が巻き戻っている事実を知っていました」
その言葉を聞き、デオダは大きく目を見開く。
「どうして」
「どうしてかはわかりません。でも、セヴラン様が言っていた未来で起こる出来事を俺は知っています」
セヴランが危惧していた未来が起こるのであれば……この世界を巻き込んだ大きな出来事が起こるはずだ。
「セヴラン様はシャルロットの力がいずれ必要となると言っていました。その理由ははっきりとはわかりません。でも、なんとなくわかるのです。……あの出来事はシャルロットの周りで起きていたから」
だから、リュシアンは婚約者としてケジメをつけなければならなくなった。
「……俺は近い未来、シャルロットを殺すことになるでしょう。その未来をどうしても避けたいのです」
セヴランはシャルロットに精霊石を託した。それはリュシアンが経験した未来では起きなかったことだ。
一人でよく泣いていた少女はよく笑うようになった。前よりも明るく、自分らしく生きている彼女はとても魅力的で美しい。そんな彼女に惹かれつつあることは否定できなかった。
彼女の笑顔を守りたい。一緒に幸せになろうと言ってくれた愛おしい子を守りたい。
許されるのなら……次は彼女と一緒に幸せになりたい。
デオダは黙ったまま、じっとこちらを見ていた。疲れたように息を吐くと、ガリガリと頭を掻く。
「条件がある。一つは俺とともに、俺を欺いた精霊と人間を探すこと。そして、もう一つ……シャルロットという女の秘密を暴くこと」
彼の提案にリュシアンは眉をひそめた。
「シャルロットの秘密?」
「あのお嬢さんは何か隠している。セヴラン様はそれにお気づきになって、力を渡したのだろう。あのお嬢さんが自分の秘密に気づいているのか、いないのかはわからない。だが、確実にわかることは一つ」
デオダは何かに視線を向けた。そこには何もない。だが、彼には何か見えているようで、じっと見続けている。
「……あのお嬢さんには、人間に見えないエレメントが見えている」
「エレメントが見える……?」
よく意味がわからなかった。エレメントは草木や地面、風や火など、あらゆるものを構成しているものだ。見えているというならば、リュシアンにも見えているだろう。
「エレメントっていうのは、物を構成するだけでなく、そこらへんにも漂っている。それがいずれ精霊になるものもある。お嬢さんは俺の周りにあるエレメントが騒ぐのを見ていた。彼女にはエレメントが見えているに違いない」
ただの憶測にすぎないと思った。だが、わざわざ火の大精霊が精霊石を渡している。たしかに彼女には何か秘密があるのかもしれない。
「それを条件にお前と契約をしよう」
「たとえ秘密がなかったとしても、契約を反故にしないというならば」
デオダとリュシアンは契約をした。リュシアンは精霊石を握り締めて強く誓う。
……たとえ、自分の命が尽きたとしても、シャルロットを守る。
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