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第18話 探し物

 胸元の指輪を握り締める。アルベリクの形見の指輪は不思議と温かく感じた。身に着けていると気持ちが前向きになる。


 シャルロットは一人で家の外にいた。


 リュシアンに心配しなくていいと言われた。この問題からシャルロットを遠ざけるために、わざとそう言ったのだろう。だけど、今後も心配することすら受け入れてもらえなかったら、対等になれない。


 シャルロットは自分の力で契約書と契約者の証を探すことにした。やりたいことはやるって決めた。やらずに後悔するより、やって後悔した方がずっといい。


 自分の家の庭にいるエレメントたちに声をかける。緑色をしているから、風のエレメントだろう。


「ねえ、君たち。火の大精霊の契約書と精霊石を探しているの。それを持っている人のもとへ案内してくれるかしら?」


 エレメントたちは互いを気にするような素振りをしたが、わたわたと動き出す。一部はどこかに行ってしまったが、一部は残ってシャルロットの案内をしてくれるようだ。


 エレメントたちにとっては、人を探すよりも大精霊の契約書と契約者の証を探す方が探しやすいようで、こちらだといわんばかりに道を案内してくれる。


「案内してくれてありがとう。君たちにはいつも助けられているよ」


 お礼を言うと、エレメントたちは嬉しそうにゆらゆらと揺れた。

 辿り着いたのは、リュシアンの家だった。彼の家の庭にそっと潜り込み、エレメントたちの導く方へと歩いていく。


 そこにいたのは、ベルナールの傍にいつもいた従者だった。黒く、長い髪をきっちりと整えた気真面目そうな男性だ。眼鏡をかけていて気付かなかったが、その奥には鋭い瞳が隠れていた。彼の周りには赤いエレメントがたくさんいる。


「あなたは……どなたですか?」


 シャルロットのことを覚えていないようで、笑みを浮かべたまま首をかしげている。


「リュシアンの婚約者、シャルロットと申します」

「リュシアン……ああ、坊ちゃんの」


 彼は興味深そうな目でシャルロットを見ている。


「それで、お嬢様が何かご用で?」

「私は……ベルナール様の持っていた火の大精霊との契約書と精霊石を探しています。何かご存じではないでしょうか」


 その問いに彼は顎に指の関節を当てて、「さあ?」と答える。


「どうして、私に聞くのです? 私はこの家の従者。知っているわけがないでしょう」


 エレメントが騒ぎだした。


「それは……」


 そう答えられてしまえば、何も言えない。そのとき、シャルロットはあることに気づいた。


「あなた、怪我は……」


 以前、ぱっくりと傷口が開いていたはずだ。だが、怪我したところに傷痕が残っていない。まだ日が経っていない。こんなにも綺麗に治ることはないはずだ。


「ああ、よく気づきましたね……。これは水のエレメントの力で治したのです」


 シャルロットは思わず、エレメントたちの方を見る。エレメントが騒いでいる。それはまるで逃げろと伝えているようだった。


「それは本当ですか?」

「ええ、本当ですよ。心配をおかけしてしまって……」


 にこやかな笑顔でそう言いながら、彼は視線を追うようにシャルロットの見ているものに目を向ける。表情を変えた。大きく目を開き、こちらを見た。


「……おまえ、何が見えている?」


 シャルロットの前へと歩んでくる。思わず後ろに下がる。


「何がですか?」

「見えているんだろう? エレメントが」


 従者は鋭い目を細め、シャルロットの方に手を伸ばそうとした。


「そこまでだ」


 目の前に大きな背中が広がる。リュシアンが目の前に立っていた。


「シャルロットに何をしている」


 リュシアンは警戒した面持ちで相手を睨んでいる。従者はおどけたように両手をあげる。


「おやおや。坊ちゃん。どうしたのです」

「お前がすべてを仕組んだことは知っている」


 リュシアンの言葉に従者は肩をすくめる。


「何のことでしょう。怖い顔をして……可愛い顔が台無しですよ」


 彼はそう言いながら、リュシアンの方に近づく。


「止まりなさい」


 サシャの凛とした声が響く。

 ゆっくりと後ろからこちらに歩み寄る。自分よりも大きな相手に怯えることなく、落ち着いた声で続けた。


「シャルロット様を前に偉そうなこと。あなたは自分の立場をわかっているのかしら」

「おまえは……」


 従者はサシャを睨みつけるように見た後、顔を歪ませた。


「立場をわきまえなさい。愚か者」


 サシャの強気な姿勢に、従者は少しひるんだように見えた。


「サシャ……?」


 サシャはこちらを向くと、にこりと微笑んだ。


「大丈夫です。あなたのことは私たちが守りますから」


 すると複数の足音が聞こえた。目を向ければ、そこにはベルナールの姿があった。


「私が使用人に彼へ伝えるようにと声をかけさせていただきました。間に合ってよかったです」


 ベルナールはこちらに歩み寄る。そして、従者とシャルロットを交互に見た。


「こんなところで何をしている?」

「これはこれは、旦那様。なんてことない、ただのお喋りですよ」

「ベルナール様。あなたが契約書と精霊石を預けたのは、こちらの従者ですか?」


 そう問いかけると、ベルナールは驚いたようにうなずいた。


「ああ、そうです。よくわかりましたね」


 エレメントたちが教えてくれたから……。そうとは言えずに、シャルロットは微笑む。


「この方は、契約書と精霊石を持って、どこかに姿を眩ませてしまうかもしれません」


 そう伝えると、ベルナールは目を細めた。何かを考えながらこちらを見ている。


「どうしてそう思うのです?」


 リュシアンに話した通り、夢で見たからと伝えたところで、彼は信じてくれないだろう。どうしたものかと考えていると、あたりが暗くなってきた。


「これは……」


 従者の顔に怯えの色が見える。鳥が鳴き、風が吹いて木の葉を揺らす。まるで日が落ちたように赤く、静かになった。


「大騒ぎをしているな。これは何事だ」


 一人の男が姿を現した。肩まである赤い髪。火のような赤い瞳。そして、その服装はこの国で着られているものとは違う。白い布のようなものを服のように着ていた。


 ……人ではないと一目でわかった。彼の周りには赤いエレメントたちがたくさんいた。その量はこの世界のエレメントをかき集めたんじゃないかというほどに多い。


 従者はその場にひれ伏した。ベルナールも跪いてその人に礼を捧げる。


「セヴラン様」


 その名で、目の前にいるのが誰なのかわかった。


 四大精霊の一人、火の大精霊セヴラン。


 彼はシャルロットと目を合わせると、優しく目を細めた。


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