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第17話 嘘を吐けない精霊

「お父様、精霊との契約書と精霊石を契約者以外が持ち出すことは可能なのですか?」


 シャルロットは家に帰ると、父親の部屋を訪れて尋ねた。


「どうしたんだい、いきなり」

「ベルナール様が契約書と精霊石を他人に預けたとおっしゃっていたんです……」


 その言葉を聞いて、セドリックは考え込む。


「できないわけではない。普通はしないけど。契約書も精霊石も契約した土地から持ち出すことができる。そうじゃないと、王女様に確認していただけないからね。精霊石は契約者……今回でいうとベルナール様の近くを離れなければ、問題ないはずだ」

「近くってどれくらいですか?」

「都市の中にある分には問題ないだろう。領地を越えるとなると、話は変わってくると思うが……」


 そうなると、ベルナールは都市にいる者に預けたのだろう。今は都市にたくさんの貴族たちが集まっている。彼の顔見知りに預けたとしても、そんな簡単に見つけ出すことはできないだろう。


「それにしても、どうしてベルナール様は他者に預けることにしたのだろう」

「なくなることを恐れたといっていました」

「その人が持ち出して、姿を眩ますことだってあり得るのに……よほど信用できる人なのだろう」


 シャルロットは今日の昼、ベルナールから聞いたことを伝えてみた。


「その人は嘘を吐けないそうです」

「嘘を……? ……いや、まさかな」


 セドリックは何か考え込むように両腕を組む。


「どうしたのですか?」

「……いや、もしかしたら、精霊本人に預けているんじゃないかと」

「精霊本人?」

「精霊は嘘を吐けないといわれている。だから、精霊に預けたのかもしれないと……いや、あり得ないな。わざわざ精霊はそんなことをしないだろう」


 だが、セドリックは何かを思い出したように顔を上げた。


「精霊といえば……。彼らはたまに不思議なことをすることもある」

「どんなことですか?」

「アルベリク兄様も精霊石を持っていたんだ」

「え?」


 アルベリクといえば、シャルロットの実父だ。彼は後継者にならずに家を出ている。彼が契約書と精霊石を持っているのはおかしいだろう。


「精霊と個人で契約していたようなんだ」


 そう言われて、フェリクスのことを思い出す。彼も個人で契約したと言っていた。


「あまり個人で契約することはしない。人間よりはるかに長く生きる精霊は人間と契約するとき、家と契約する。長く契約を執行してもらうためだ。だが、できないわけじゃない。彼が持っていたのは青色の石……水の精霊の石だった」


 また水の精霊の話……。果たしてこれは偶然なのだろうか。


 セドリックは立ち上がると引き出しの中を開けた。小さな巾着のような小物入れを取り出し、それを開けた。


「これがアルベリク兄様の持っていた精霊石だよ」


 その石は大精霊の精霊石ほど大きくなかったが、精霊のものよりも大きかった。腕飾りではなく、指輪の石として加工してあるようだった。


「持ち歩いてるんですか?」

「なんとなく、手放せなくてね。……これを君に渡したいと考えていたんだ」


 セドリックはシャルロットの手のひらの上に指輪を置く。


「いいのですか? 大切な形見なのでしょう?」

「それは君にとっても同じだ。せっかくなのだから、実の父親の形見を持っておくといい。私にはほかにもあるからね」


 シャルロットは指輪を両手で包み込んでうなずいた。


「……ありがとうございます」

「……いつか嫁入りする家のことだ。ベルナール様の家のことが気になるのは当然だ。だが、ベルナール様にもきっとお考えがあるだろう。結婚するまでは他人の家だ。深くかかわりすぎないようにしてくれ」





 シャルロットは自分の部屋に戻ると、サシャに声をかけた。


「サシャ。首飾りの紐の部分だけある? 指輪を首飾りにしたいの」

「指輪ですか?」


 サシャにさきほどもらった指輪を見せると、彼女は驚いたように目を見開いた。


「これは……精霊石ですか?」

「アルベリク父様の形見だそうよ。お父様からいただいたの」


 サシャは納得したようにうなずく。そして小さく笑った。


「そうなのですね。シャルロット様に身に着けてもらえて、その精霊石もきっと嬉しいでしょう」


 サシャは引き出しから首飾りの紐を取り出すと、指輪を通した。そして、シャルロットの首に着けてくれる。


「私は跡を継ぐことがなくなった。だから、精霊と契約することもないわ。……これが私の身に着けられる最初で最後の精霊石になるのね」


 アルベリクはどのような人だったのだろうか。いろんな人の口から語られるが、その形を掴み切れていない。彼はどうして精霊石を持っていたのだろうか。


「精霊は気まぐれです。もしかしたら、あなたと契約したいと思う精霊もいるかもしれませんよ?」

「でも、私と契約しても何も渡すことはできないわ。契約したところで無駄よ」


 サシャは首を振る。


「私が精霊だったなら、あなたと契約します。そして、あなたの幸せを祈るでしょう」

「そんな理由で契約することもあるの?」

「精霊の思いがあって、契約したいと願う人間がいれば、その契約は成立します。本来ならば、人間に精霊の役割を一部預けて、代わりに執行してもらうことが多いですが、聖女様もまた、彼女の幸せを願われて、大精霊たちと契約することになったのですから」


 その話は聞いたことがあった。昔この都市にいた聖女様は大精霊たちに愛されていた。だから、彼ら大精霊は聖女様と契約したのだと。


「一口に精霊といっても、様々な者がいます。どんな思惑があって契約するかは、精霊によりますよ」


 その言葉を聞いて、フェリクスのことを思い出す。彼は利害の一致が理由で個人的に契約したと言っていた。彼らはどのような思いがあって契約をしたのだろうか。


「精霊石は精霊にとって、思いの塊みたいなものです。土地がエレメントで満たされていてほしい。空気がもっと澄んでいたらいい。そういった希望を持って人間と契約をします。きっと、その精霊石にも何か思いが籠っていると思います」


 シャルロットは首元に着けられた精霊石を見る。この石にはどのような思いが込められているのだろうか。


 サシャは祈るように両手を組む。


「契約者であるアルベリク様は亡くなってしまいましたから、契約はなくなってしまっています。その精霊石も効力はないでしょう。ですが、精霊石には思いが込められたままです。きっと、シャルロット様の助けになるでしょう」


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