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 リリアーナ視点




 王城の広場には参加者たちの熱気と観客の興奮が満ちていた。国内外から集まった出場者たちが己の剣技を競い合う場、剣術競技会が開幕した。


 大勢の観客が見守る中、彼らはそれぞれの名誉をかけて剣を交わす。わたしはジュリー様とともに中央に設けられた特別席から試合を眺めていた。剣が激しくぶつかり合う音が響き渡り、勝者と敗者が次々に決まっていく。


 そんな中、わたしの視線は自然と彼らを追っていた。


 会場の端には、試合を控えるジークフリート陛下とブラッドフォード先生。そして何故か急遽出場となったアレクサンダー……。




 観客の大歓声が上がり、続く号令とともに、まずはアレックスの試合が始まる。


 彼は堂々と剣を構え、相手を見据える。幼い頃から剣の稽古を積み重ねてきただけあって、その動きは確実で洗練されている。


 対する相手もなかなかの腕前だ。アレックスに食らいつくように攻撃を繰り出すが、彼は軽やかにかわし、隙を見つけると素早い反撃を浴びせる。


 ……けれど、わたしにはわかる。アレックスは試合相手ではなく、わたしの様子を気にしている。ちらちらと視線を送ってくるその態度に、わたしは思わずため息をついた。


 ……あとで叱っておこう。


 数手の攻防の後、アレックスは最後の一撃で相手の剣を弾き飛ばした。


「勝負あり!」


 勝者の名が告げられると、彼は誇らしげに剣を収め、わたしの方へ向かって笑みを浮かべ手を振った。




 次はブラッドフォード先生の試合だ。


 試合開始の合図とともに剣を構えた彼は、一歩ずつ間合いを詰めていった。無駄のない動きで剣を繰り出し、相手の攻撃を冷静に受け流す。まるで計算し尽くしたような的確な動きに、観客たちは息をのんでいる。戦い方が実に知的だ。決して力任せではなく、巧みに相手の隙を突きながら戦況を支配していく。


 わたしはその剣技に見入った。彼が剣を振るう度に、貫くような切っ先が確実に相手を追い詰めていく。そして、彼がふとこちらを見た瞬間、胸がざわついた。


 そして最後の一撃。彼は俊敏な切り込みで相手の剣を弾き飛ばし、決着がついた。


「勝負あり!」


 ブラッドフォード先生は剣を下ろし、少しの余韻を残しながら勝利を受け入れた。





 続いての試合は、ジークフリート陛下とアレクサンダーだ。


「ようやく戦えるな、陛下」


 剣を構えたアレックスが、ジークフリート陛下に鋭い眼差しを向けるも、彼はそれを意に介さず、冷静に剣を抜き彼を見据える。その堂々とした振る舞いには王としての確固たる自信が宿っていた。


「さあ、始めよう」


 試合開始の号令とともに、陛下は一歩前へ進み、余裕を持ってアレックスの動きを観察した。


 アレックスが俊敏に攻め込むが、陛下の目は瞬時に彼の剣筋を捉え、的確な動きの裏にある僅かな隙を見逃さない。その剣は、決して軽率に動かされることはなく、一閃ごとに確かな意図がある。


 アレックスの剣が迫るたびに、陛下は冷静にそれをいなし、滑らかに身を捻る。その防御の動作さえも洗練されており、剣を振るうことなく戦局をコントロールしているかのようだった。


「チッ……!」


 アレックスは苛立ち、剣を握り直しながらさらに攻め込む。しかし、それを待っていたかのように、陛下の目がわずかに光る。


 彼は一歩踏み込み、力強い一撃を放つ。その切っ先は、迷うことなく正確にアレックスの剣を弾き飛ばした。


「勝負あり!」


 歓声が響くなか、陛下はゆっくりと剣を収める。それは勝者の余裕などではなく、ただ戦いを終えた者の当然の動作だった。


 アレックスは肩で息をしながら、陛下を睨みつけていた。


「……認めないからな」


 アレックスは険しい表情を浮かべながら、悔しそうに唇を噛んだ。そして、深く礼をすると、ゆっくりとその場を後にした。





 そして最後の試合は、ジークフリート陛下とブラッドフォード先生だ。


 広場は静まり返り、陛下はゆっくりと剣を構えた。その立ち姿には迷いがなく、圧倒的な存在感を放っていた。


「陛下、この勝負、絶対に譲れません」

「その覚悟、確かめさせてもらおう」


 その言葉と同時に、陛下は一歩を踏み出す。高い金属音が響き渡り、剣が交錯する。陛下の動きは迷いがなく、正確で研ぎ澄まされていた。


 わずかな重心の移動だけで相手の剣を躱し、剣を振るうたびにその切っ先には確信が宿る。相手の次の動きを予知しているかのように、寸分の狂いのない攻撃。


 観客たちは固唾を飲んで見守る。


 そして、彼の瞳がわずかに細まった瞬間、勝負は決した。陛下の剣がブラッドフォード先生の喉元でピタリと静止した。


「勝負あり!」


 歓声が湧き上がる。ブラッドフォード先生は悔しそうに息を吐きながらも、潔く敗北を認めた。


「陛下……やはり、お強い」

「君も素晴らしい腕前だ」


 二人は互いの健闘を称え合い、握手を交わす。会場は大きな拍手に包まれた。




 ***




 アレクサンダー視点




 くそっ……! 面白くない!!


 ジークフリート国王は賢王としてその名が全大陸に知られているだけじゃなく、容姿まで優れている。その上、剣技にも長けているとは……!


 リリアが惚れたらどうする!?


 このままではまずい……! ジークフリート国王はリリアに心底惚れている。一刻も早くリリアを連れ帰らなければ!!


 アヴァロン王国は東の大国だ。父上や母上がこのことを知れば、アヴァロンとの強固な結びつきに喜び、リリアを嫁がせるだろう。


 そんなこと、絶対にさせるものか!! リリアはずっと俺の傍にいるんだ!!


 焦燥感に駆られながら歩いていると、突然護衛の騎士が動いた。俺を呼び止める者がいたのだ。


 振り向くと、そこにはアヴァロン王国の貴族令嬢が立っていた。整った顔をしているが、リリアとは比べ物にならない。それに、どこか傲慢な雰囲気を漂わせている。


「どうかなさいましたか? レディ?」


 俺は表情を整え、冷静に応じる。


「アレクサンダー・グロッサ王太子殿下、リリアーナ様のことでお話がありますの。殿下にとっても良いお話だと思いますわ」


 俺は彼女に案内され、城の一室に入った。部屋は煌びやかな装飾品で満たされており、アヴァロン王国の繁栄を如実に示していた。


「レディ、貴女とともに過ごせる幸運に感謝します。しかし、忙しい身の上、手短に願いたい」


 侍女が茶を淹れ終え部屋の隅で控えると、彼女はにんまりと笑みを浮かべた。しかし、それは決して美しい笑顔とは言えない。


「わたくし、ジークフリート国王陛下をお慕いしておりますの。リリアーナ様が邪魔なのですわ。グロッサ王国に連れて帰ってくださいまし」


 俺はカップを持ち上げることもなく、黙ったまま彼女に目を向けた。


「リリアーナ様が殿下をお慕いするように仕向けて差し上げますわ」


 この女は性格に加え、頭もあまり良くないらしい。


「わたくしね、先ほど彼女を連れ去りましたの。ああ、安心なさって? 殺しはしませんわ。恐怖に怯える彼女を殿下が救出すれば、リリアーナ様は殿下をお慕いするはずですわ」


 彼女の言葉に、俺は怒りよりも呆れを覚えた。


 リリアのやつ、一体何をやってるんだ……! それにアリスもアリスだ……!!



「おいブス」



 俺が低く声をかけると、彼女は不思議そうに首を傾げた。


「お前だよ、ブス」


 彼女は周囲をキョロキョロと見回している。


「他に誰もいねぇだろ? お前だ、このブス!!」


 ようやく自分が呼ばれていると気づいたのか、彼女は信じられないという顔をして叫んだ。


「わ、わたくし!? わたくしのことですの!? わたくしにブ……ブスっておっしゃいましたの!?」

「そうだ。ブス。お前、リリアーナに何をした?」


 彼女は怒りに震え、睨みつけてくる。


「わ、わたくしに、ブスだなんて……! わたくしはアヴァロン王国一の美貌を誇りますのに……!」

「それが本当なら、アヴァロン王国の美的基準は相当低いな。おい、ブス。俺はもともとリリアを手放すつもりはないんだよ!! それにリリアのことは心配いらない。アリスもいるしな。衛兵、この女を捕えろ!」


 彼女は悔しそうに顔を歪ませた。


「五回も言いましたわね……っ!!」


 数える余裕があったんだな……。







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