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転生歴女 〜メイドとオタクと歴史の終わり〜  作者: 平沢ヌル
第四章 システム
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第10話 暗闇の中の、命がけの跳躍

「…………」

 外に出てから、それからヴォルハイム同盟の陣営まで戻ってきても、リヒャルト様はじっと、考え込んでいた。

 制御室で得た情報に関しては、正直分からないことの方が多い。短絡的な結論に飛び付くよりは、とりあえず全てを記録し、整理して、今後の判断材料としたい。それはリヒャルト様の考えでもあり、私もそう思っていた。だが、彼はその後も考え込んでいる。

「……もう少し、手柄を誇ってもいいのではないですか」

 私はそう、彼に言う。

 監視機能の停止によって、遺構周囲の災厄は完全に動きを止めたらしい。陣営に戻って報告を済ませたところ、ヴォルハイム同盟の面々は勇んで遺構まで向かっていったようだ。ここでリヒャルト様自身が制圧の手柄をアピールしておかなかったら、巡り巡って損になるかもしれない。

「手柄はお前だろう。私は何もしていない」

「そんなことはありません。……やっぱり、心細かった、です」

 小さな声で私は答える。嬉しかった、彼が一緒に来てくれたことが。彼の方から歩み寄ってくれたことが。また前と同じように、接することができるように。

「しかし、だ。……本当に賢いな、お前は。正直、侮っていた」

「いや……そんなこと、ないです」

「ないわけあるか。お前の役目が、他の連中にこなせると思うか?」

「んー……どうでしょうか。慣れていれば、できるかもしれません。こういうのは、全部慣れですから」

 私の返答に、少しだけリヒャルト様は変な顔をする。

「……非常に興味深かった、私としては。壊滅的な兵器に関する、お前の話が」

「……でも私の知識は、借り物ですから」

 やっぱり、否定せざるを得ない。もしかしたら、この世界のリヒャルト様には、新しい知見が得られる話題だったのかもしれない。だが私のオリジナリティはない、独自の知見はそんなに含まれていない。むしろこの手の話題で独自解釈を発揮する方が軽率かもしれない。

「いつもそう言うけどな。……そんなことは私にとっては、どうでもいいんだ」

 リヒャルト様は跪く。私は例によって、わたわたしてしまう。こういう時に落ち着き払っていられないのが、本当にみっともない。

「エックハルトに怒られたよ。相手の事情を理解しろ、と。だがお前の事情なんて理解できるわけがない。話を聞かせてくれ。これからも、ずっと」

「…………ッ」

 声にならない声で私は呻く。本当さ。もう、この人。

「リヒャルト様。そんな風に、しないでください。お願いですから」

 私は、彼の手を取って、引っ張って立たせる。

「主君のなさりようではありません。……あの、それに。私は、本当に。あなたのことを、尊敬しているんです。本当です。正しい選択はなんなのか、どんな手を打つべきか、いつも考えていらっしゃるから。最適解がここにはないことを、知っていらっしゃるから。それでも、一歩を踏み出さなければならないことを知っているから。暗闇の中の、命がけの跳躍を」

……そんなに、若いのに。そう伝えることはさすがにしなかった。

『暗闇の中の命がけの跳躍』。哲学の中で何度も繰り返されてきた概念だ。対象の全体像が掴めない中で、途方もなく重大で、かつ覆せない決定を下すことの比喩と言える。どんなに賢くても力があっても、どれだけの科学技術に支えられても、人間は最後にはそうするしかない。そして人間の歴史とは、そんな場面の絶え間ない繰り返しだ。

「だから、私は。あなたの側で、あなたがどこに向かうのか、その未来を見届けたい。駄目、でしょうか」

 私の声はもう、囁き声のようにしかならない。だって、リヒャルト様の、その青い目が私を見ている。まるで方位磁針が北磁極を指すような、そんな迷いのない視線。

「……私は、お前によって変わったよ。自分の決断に自信が持てない時。気が挫けて先に進めない時。私にはお前が必要だ」

 私は彼の目を正視できない、つい視線を落としてしまう。鋭くて冷たい青い色、でもその心には炎があることを私は知っている。

「一寸先が見通せない暗闇の中でだって、お前の心がここにあるのなら、私は何度だって立ち上がる、そう誓おう。共に歩んでくれる人が必要だなんて、以前は思いもしなかった」

 彼の手が私の手を握る。その指は長くて、その背はもう、少しだけ私より高い。もう、子供だなんて言えなかった。


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