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転生歴女 〜メイドとオタクと歴史の終わり〜  作者: 平沢ヌル
第二章 侯爵令嬢
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第11話 婚約解消

「……すまなかった。私の落ち度だ」

 リヒャルトは頭を下げる。

 正午近い日差しが窓から入ってきていた。災厄による工房襲撃の翌日、リンスブルック侯宮の応接室での出来事だ。

 今日はリヒャルトがうなだれていて、ヴィルヘルミーナは身を起こしている。いつもはリヒャルトの方が優位にあるこの二人の関係だが、今日は逆だった。

「今まであなたを評して、自分が抑えられていないと言っていたと思う。だが、抑えられていないのは私の方だった。……私は未熟で、自分の弱さに負けてしまいそうになる。そのためにあなたには、辛い思いをさせてきたと思う」

 その様子をエックハルトは見つめていた。道理は分かっているし、反省もできる。しかし、何かが足りない。それがリヒャルトだった。

「私は抑制と忍耐を学ばなければならない。改めて、私と共に歩んでくれないだろうか?」

 今更こんなお願いしてみたところで、もう手遅れかもしれないが、と、エックハルトは思っていた。これも敗戦処理のうちだ。

 ヴィルヘルミーナはじっと黙って聞いている。

 そして、言った。

「お断りしますわ」

 リヒャルトは顔をあげる。無言だったものの、え……とでも言いたげな表情だった。

 しかし、ヴィルヘルミーナはふふ、と笑う。

「わたくし、幸せになりたいんですの。抑制と忍耐、ではなくて。誤解しないでくださいまし。私、リヒャルト様の幸せを願っていますのよ」

 そう言って立ち上がると、スカートを持ち上げて一礼する。

「どうか、わたくしにお任せくださいな」

 そして、ドアの外へと駆け出して行った。

 リヒャルトはただ呆気に取られている。

 エックハルトは軽く舌打ちして、その後を追った。


「ぴえええええええええ」

 中庭に面した回廊で、ヴィルヘルミーナは泣いていた。

 気丈に振る舞うヴィルヘルミーナが、やがていたたまれなくなって抜け出して、心の痛みに泣いていると。エックハルトはそれを恐れていた。

しかし、ヴィルヘルミーナの事情は、エックハルトの恐れとはどうも違うらしい。

「エックハルト様あ……お助けくださいまし……」

 彼女は、回廊に置かれた壺に脚をぶつけて、派手に転んだらしい。向こう脛には青痣ができていたし、壺は床に転がっていた。

 エックハルトはヴィルヘルミーナを抱え上げる。近くのベンチまで運んでやろうという算段だ。

「私は、赤ん坊の頃からあなたを拝見しています。本当にご立派になられた」

 ヴィルヘルミーナはおずおずと聞く。

「ええと、ですわ。あの。リヒャルト様のこと……エックハルト様のご期待には、反していたのではなくて?」

 エックハルトは満面の笑みを浮かべ、言った。

「まあ、否定はしかねます。ですが、私個人としては。豆鉄砲食らったハトみたいな顔した我が主君が拝めただけ、僥倖と存じます」


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