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転生歴女 〜メイドとオタクと歴史の終わり〜  作者: 平沢ヌル
第一章 少年君主
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第10話 薄暮、テントにて

「小型災厄に対抗するには基本的に槍と擲弾を使う。剣では間合いに入る前に攻撃される。小銃では装甲が通らない、妨害用だ。お前も覚えておけ。災厄から身を守るだけのためにもこの情報は有用だ」

 私は、テントの中にいた。『災厄』の襲撃で、急遽陣営が設置されていた。今ではすっかり日も暮れていて、キャンプ地みたいな雰囲気だが、ここは街中だ。災厄の襲撃後を兵士達が見聞していた。

 結果的にほとんど無傷だった私は、リヒャルト様の陣営に呼ばれたのだった。テントの中は薄暗くて、リヒャルト様の顔がやっと見える程度だ。

 リヒャルト様の服装は、謁見で見たときのような煌びやかな衣装と少し違う。豪華は豪華だったけどもう少しシンプルで、わずかに灰色がかったベストに同色の膝丈のズボンと、いかにも身軽そうだ。青いタイの端は今はベストの内側に収まっている。ちなみに外にいるエックハルト様は、上半身のベストはリヒャルト様と似ているけど色は黒、下半身はぴっちりした黒のズボンとやはり宮廷でのスタイルと違う。兵士達はエックハルト様と似たような感じだったけど、色味が少し違っていて、もっと装飾が少なかった。

 演習があったというし、この衣装は戦闘服なのかもしれない。私たちが軍服と聞いてまずイメージする、派手な色の詰襟とはかなり違うのだけれども。あのいかにもな軍服って、トルコの民族衣装のコスプレみたいなものが発祥らしい。派手な色は威嚇色と言って、歩兵が真っ向から突撃する形で進軍するさいに相手に脅威を与えるためのもの。リヒャルト様の戦闘スタイルはそれとは全く違うのだから、衣装も当然変わる訳だ。


「はい。……というか、殿下」

「なにか、言いたいことが?」

「強すぎませんか?」

 私の正直な感想に、リヒャルト様は頬を掻く。

「未熟な君主だから、これぐらいは人に長じていないと。我が父祖、エルンストにも顔向けができんしな」


 続いてリヒャルト様は、『災厄』について教えてくれた。

 この世界では、災厄という存在が、不定期に人間と、文明社会に襲いかかってくる。災厄がいつ来るのか、なぜ来るのか、それらは全く分かっていない。

 災厄の襲来は非常に稀であるという。立て続けに再来したこともあれば、逆に何十年も現れなかったこともある。災厄の襲来は常に短時間で、被害が僅少で済む場合もあれば、大災害クラスの被害を生むこともある。

 民衆には災厄の存在は、おとぎ話の怪物のような存在としてしか伝わっていない。災厄を目撃したものが稀だからだ。だが、『失われた帝国』の滅亡には、確実に災厄が関わっている。それがヴォルハイム同盟諸国の君主たちには記録として伝わっていた。

 『失われた帝国』の滅亡と同等の災厄が発生すれば、文明自体が危機に陥りかねない。七人委員会はいつ訪れるか分からない災厄に対抗する手段を維持し、共有するための組織だ。またリヒャルト様の先祖、エルンスト様が編み出したランデフェルト式槍術は、対災厄戦闘に特化した戦闘術である。そのため現在でもランデフェルト家は七人委員会に加えられている、とのことだった。


「それに、なんで君主ともあろうお方が、私を助けてくれたんですか」

 どう考えても、自分の命よりは、君主の命の方が大事だろう。君主を守るために囮にされてもおかしくないぐらいだ。

(いや、囮にされるのは嫌だけど。個人としては。戦略的な、ね)

「この程度の災厄なら遅れは取らん。それにこの国は小国だ。貴重な人材を簡単に失えない」

「貴重な、人材?」

「お前だ。決まっているだろう」

 リヒャルト様はこともなげに言った。

「私は……」

 私の声は小さく、消え入りそうになる。

「忘れたのか? お前の力を借りたいと、そう嘆願したはずだ」

 あの、時代がかった嘆願の言葉。まるで自分が、歴史の登場人物になれたみたいな。

「お役に立てるか、分かりません」

 私の声は、心なしか暗い響きになっていた。

 この世界には、別の戦いがあったんだ。自分たちより強大な存在に、不完全な知識と技術で、滅ぼされないための戦いをずっとずっと、続けていた。その戦いに、自分の拙い知識で、有益な貢献ができるなんて、どうして言えるだろうか?

「そんなに謙遜しなくたっていい。できることをやってくれればいいから」

 なんだろう、この気持ち。

 認めてくれる人がいた、そう、私は思った。

 私は、チートでもなければ超スペックでもない、でもだからこその私を、認めてもらうこと、を熱望していたんだと思う。自分一人だけの力で世界を変えるなんて、私にとっては到達不可能な理想だった。それが、自分の視野の範囲内だけの、狭い世界だったとしても。私はそこに、誰かいてほしかった。

 私は跪く。臣下の礼として。

「我が主君、リヒャルト・ヘルツォーク・フォン・ランデフェルト殿下に、私の忠誠を捧げます」

 私の肩に手が置かれる。リヒャルト様は、小さな声で、こう言った。

「認める」

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