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さんだいのきせき  作者: ちくましゃん
9/14

怨刺 敷 出足

 うちには、座敷童が出る。その子はちょうど10歳ぐらいの可愛らしい少年で、その姿には多くの人が見るだけで癒されそうだ。彼は日が沈むころに出てきて、家の中の掃除、洗濯、食事まで全てを私の代わりにやってくれる。見返りに求めるのは彼自身が作った夕食をちょっとばかり失敬するくらいのものだ。きっと私以外の人はこの存在を喜んで歓迎するのだろう。私以外は。

 「…なんで今日も来ているのよ。」座敷童はこちらを振り向いて、にっこりと微笑み、そしてまた、掃除を再開する。あの人に似た表情で。「…私はあなたが嫌いよ。」

 今からちょうど1年前、1人の男子高校生が行方不明になった。私に1通のメールを残して。『おれは小学校の頃から、お前のことが好きだったよ。ずっと。これからも一緒にいたいけど、おれはもう、限界だ。今まで一緒にいてくれてありがとう。さようなら。』1年もすれば、世界は彼の存在を忘れていく。でも、私にはできなかった。「…絶対に許さない。」なんで私を置いて。なんで私のことを好きと言って。なんで1年間も見つからないで。なんで。なんで。なんで…。


 私は、あなたのことが、嫌い。


 次の日も座敷童はうちに入ってきた。でも、その日の私はいつもよりちょっとだけ不機嫌で。「ねえ、出てってよ。」「……」「私、あなたに頼んでないよね。掃除をして、って。食事を作って、って。なんであなたは私の家を掃除するの。なんであなたは私のために食事を作るの。なんで、なんで、なんで!……私に構うの…?」「……」座敷童は何も言わずに、ただ微笑んだ。そして、私に背を向けて入口のほうへ歩き出した。「!待って!!」…どこに、行くの?座敷童はこちらに戻ってきて、私の手を引いた。その手は思っていたよりもずっと強くて、温かかった。

 「……ねえ、どこまで行くの?」不安になって、私は聞く。家の裏にある森に入ってからどれくらい時間がたつのだろう。手を引いている張本人が一応「妖怪」なので、さらに不安が増大する。突然、座敷童は歩みを止めた。その先には、白い何かがいつぞや見慣れた服に乗せられていた。それが何か分かった途端、私は膝から崩れ落ちていた。「ごめんね…ごめんね…私はあなたのことが嫌いなんじゃないの…。」涙がとめどなく溢れてくる。もっと、早く気付けばよかった。首にかかっている、彼からもらった紅水晶が月の光を浴びて光り輝いていた。

怨刺(えんし)

意味:相手を恨んで悪く言うこと。恨んで謗ること。

(しき)

意味:

①物の下に広げて置くもの

②不動産の賃貸料の支払いの保証金として預けておく金銭。「敷金」の略称。

③建物や道路などを作るための土地。「敷地」の略称。

④寝るときに床と体の間に敷く布団。「敷布団」の略称。

出足(であし)

意味:

①ある場所へ出掛ける人や集まる人の、程度や状態。

②物事の出だしの速さや状態。

③相撲で、相手に向かって踏み出す足の動き。

(オンライン国語辞典より)

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